偽名チャットで見たもの
次の日。
いつも7時頃に届くカオルからの「おはよう」メールは無かった。
当然といえば当然だと思いつつ、顔を洗っては携帯を見、髪を乾かしては携帯を見た。
7時40分になり
「もうカオルは仕事に行っちゃったな・・・」そう思った。
きっとこんな昔のことにウジウジする女なんか嫌いに
なってしまったのかも・・・
気分はどこまでも落ち込んだ。
カオルが言ったいままでの彼女との別れ方を思い出し、
あたしも自然と連絡をとらないで、きっと忘れられちゃうんだと思った。
薬指にした指輪を見て
「アノ時はあんなに幸せだったのに・・・」
そう思うと朝から泣きそうだった。
重い足取りで仕事に行き、デスクについた。
その日は朝から忙しく、いつまでもカオルのことでグズグズしている
暇が無いくらいだった。
一息ついたのはちょうど昼休みの5分前だった。
あまり食欲が無かったので、販売機で珈琲を買い外に出た。
会社の前の公園のベンチに座り、チビチビと珈琲を飲んでいた。
後ろから誰かの呼ぶ声がした。
振り向くと同期の健吾がいた。
「まゆどうした?暗〜い顔しちゃってよ」
そう言って隣に座った。
健吾とは2年前まで恋人同士の関係だった。
お互い隠していたので、今でも会社で二人のことは知る人はいない。
2年間付き合っていて、お互い将来も考えていたが、
なんとなくすれ違ってしまい、その後健吾は道外に転勤になり
音信不通になった。
それが突然今年の4月に戻ってきた。
最初は少し動揺したが、部署が違うので顔をあわせることは
滅多に無く、ましてや話をするのも2年ぶりだった。
「会社で「まゆ」って呼ばないでよ。誤解されるから」
誰か聞いていないかキョロキョロしながら言った。
「いないよ。ちゃんと確かめてから言ったし」
そう言って人の珈琲を一口飲み(にがっ!)と言って置いた。
「彼氏と喧嘩でもしたのか?お前喧嘩するとすぐ沈むからな〜
言いたいこと言わないで我慢するじゃん。
あれ、結構効くんだよな〜」そう言って笑った。
久しぶりに見る健吾は昔より大人の男になったと思った。
そりゃ2年経ってるから当たり前なんだけど。
「喧嘩にもならない話。あたしが悪いんだ・・・」
そう言って残りの珈琲を飲み干し、健吾のほうを見て笑った。
「相談に乗って欲しい?元彼に?」
「ううん。相談してもどーにもならないの。自分でなんとか
しないとどーにもならないから。大丈夫!」
「まゆの「大丈夫」って懐かしいな。変わらないな、、お前。
でも大丈夫って言う時は大丈夫じゃないのな。
ま、俺が聞いても解決しないか!
もし話したくなったら電話すれよ。携帯変わってないからさ」
そう言って健吾はベンチを立ち会社に向かって歩いていった。
その後姿を見ながら、
「あんなに好きだったはずなのに、なんで健吾と別れたんだっけ?」
そんなことを考えていた。
でも思ったよりアッサリと話ができて安心した。
思えばどんな喧嘩をしても健吾は数日経てばケロッとして許してくれた。
自分が悪くてもケロッと忘れるとこもあったけど。
(あたしの大丈夫は大丈夫じゃないかぁ・・・・)
健吾の言葉を思い出しながら会社に戻った。
「おはよう」のメールも「おやすみ」のメールがこなくなり3日が過ぎた。
いつまでも胸のムカムカがとれず、なにかの拍子にカオルのことを
思い出すとまた胃がギュッとした。
その感覚にどうすることもできずに、ただ毎日は過ぎていった。
(このまま終わってしまうのかな・・・・・)
そんなことを考えながら眠れぬ夜が続き、
カオルが送ってくれた最後のメールをいつまでも見ていた。
素直に「この前はごめんね」と言えればなにもかも元通りになるんだろうか。
それとも、あんな昔のことをいつまでも許せないあたしのことなんか
カオルはもう嫌いになってしまったのだろうか。
きっとカオルが近くにいるのならば、
カオルの家の前で帰ってくるのを待ち、
そのまま胸に飛び込んで「ごめんね」と言えるのに。
電話じゃ伝わらない・・・そんな気がしていつまでも考えるだけだった。
そんなに不安なら逢いに行けばいいのに・・・・
けれど追い返されるかも。
そんなことを思うとなかなか行動に移せなかった。
車で2時間かけて空港に行き、飛行機で1時間半かけて羽田に着いて、
そこから電車かタクシーで1時間弱。
その長さが行動しようという気持ちを押さえていた。
金曜の夜。
特に次の日の予定も無いまま家にいた。
なんとなくこの週末は一人でいたくないと感じていた。
しばらくぶりに友達に電話をしたが、突然すぎて誰もつかまらなかった。
(休みの前だもんなぁ・・・・)
携帯を閉じテーブルの上に置き、珈琲を入れた。
CDを入れてみたが、知らない間に終わっていた。
(あ〜ぁ。なんかつまんないな〜)
ソファーに横になり黙って天井を見ていた。
テーブルの携帯が鳴った。
一瞬カオルかと思ったが画面にはヤスの名前が表示されていた。
(なーんだ・・・・ヤスか。あまり話したくないなぁ)
そう思いながらしばらく携帯を見ていた。
あの日以来、チャットもしていなかったので、ヤスが仙台に戻ったのかも知らなかった。
一度切れた携帯がまたかかってきた。
(出ないと何度もきそうだな・・・)
渋々電話にでた。
「もしもし・・・」
「お!やっとでた。なにしてた?」
相変わらず能天気な声だった。
「どうしたの?なにかあった?」
その声を聞いてちょっとムカついた。ヤスさえあんなこと言わなければ
こんな気分にはならなかったのに。
「いや、あの日落ち込んでたからその後どうかな〜って」
「別に・・・」
「ずいぶんと冷たいな〜 なに?俺が余計なこと言ったから怒ってるの?」
どの口がそんなこと言ってるんだ!と思い切りツネってやりたくなった。
「あの日、カオルに電話したら「お前そんな余計なこと言うなよ!」って
ちょっと怒られちまったよ。その後電話きたんだろ?カオルなんて?」
「知らない・・・」
「知らないってなんだよ」
「別に・・・ じゃ、またね。今日はヤスと冗談言う気分じゃないんだ」
「ちょ、、ちょっとまてよ。おい!」
そのまま携帯を切り、電源を落とした。
どーせカオルから電話がくることは無いだろうし。
これ以上ヤスの能天気な電話をまた受ける気しなかった。
そのままなにもする気になれなくて寝転んでいた。
目を瞑っているうちに少し寝てしまい、気がついて時計を見ると2時だった。
(こんな半端な時間に目が覚めるなら、朝まで眠っていられたらよかったのに)
そう思いながら冷蔵庫を開けてジュースを飲んだ。
こんなにも何もする気になれないなんて、、、、
カオルの存在が思っていたよりも今の自分にとって大きかったと
いまさらながら感じた。
目が冴えてしまったので、PCの前に座り電源を入れた。
こんな時は誰でもいいからなにか人の存在を感じたかった。
けれどチャットをしようにも、部屋にカオルやヤスがいたらと思うと
それもできないと思った。
誰も知らない所に入って自己紹介から始めるのもめんどうくさかった。
ふと(HN変えて入っちゃおうかな・・・)そんなことを思いついた。
もしもカオルがいてもあたしだとバレない。
文字でもいいからカオルに逢いたいと思った。
適当にHNを変えていつもの部屋があるか一覧を見た。
休みの前日はみんな結構、朝までチャットをしていることが多いので
見つけるのは簡単だった。
HNを(マオ)にした。我ながら安易だと感じた。
まゆの(マ)にリオの(オ) けれどバレなければなんでもいいと。
クリックして入室すると、5人がまだ話をしていた。
カオル、ヤス、ヒデ、マック、タツヤ
みんな男ばかりだった。
入るとすぐにみんなは簡単に挨拶をしてくれた。
あたしも同じように簡単に挨拶をした。
話が途中だったのか、挨拶の間に少しの会話が挟まっていた。
<ヒデ> 「こんばんは>マオ」
<ヤス> 「だから電話してみればいいじゃん>カオル」
<タツヤ 「おはつー>マオ」
<マオ> 「こんばんは>all」
<カオル> 「電源切れてた。まだ怒ってるんだよ>ヤス ども>マオ」
その文字を見て、カオルがあたしに電話をしてくれていたのがわかった。
<ヤス> 「マオは男?女?」
その文字を見て少し迷ったが、男ばかりの中に「女です」と言うと
それも「お初」だし気を使うだろうと思い
<マオ> 「男です>ヤス」
と男のフリをした。こんな時ネットって便利だなとつくづく思った。
<ヤス> 「そっか、なら気楽に下ネタ話もいいな。安心した>マオ」
<マオ> 「はい。どーぞ気にしないでいくらでも>ヤス」
少しは気を使ってほしいとこだが、王道が4人もいるので無理だろなと
思いながらもそうレスをした。
どこに住んでいるの?とか歳は?とか軽い質問を適当に答え、
少し馴れてきたあたりで、話がカオルのことに戻った。
<ヒデ> 「俺もこの前、家で逢った時にそれ知ってるのかな?
って思ったけど知らないとマズイと思って
言わなかったのにー」
<ヤス> 「だってそんなこと気にするような感じじゃねーだろ?リオは」
<カオル> 「人一倍気にするんだよ。ったく、、、
余計なこと言ってくれたよな」
<タツヤ> 「でもショックだと思うなー 俺ならショック」
<ヤス> 「そうか?俺は平気」
<ヒデ> 「ヤスならな。でも普通はショックだよ。
俺だって彼女がそんなことしてたって聞いたら、
なんつーか やっぱ嫌だもんなー」
<カオル> 「今になって後悔・・・・・
あん時はそんなこと思わなかったけど」
<タツヤ> 「そりゃな。そんな美味しい場面でそんなこと考えられないよな」
<ヒデ> 「あ。ごめんマオ 意味わかんないよな。カオルの話なんだ」
そう言って話の流れを簡単に説明してくれた。
(いや、知ってるから。本人だし・・・)そう思いながらヒデの説明を見ていた。
<カオル> 「お初にそんな話すんなよ。印象悪くなるじゃん」
<ヤス> 「まーいいじゃん。男ならわかってくれるって!な?>マオ」
<マオ> 「あ。うん。そうだね」
「全然わかりません!!」
そう言いながら反対の言葉を打ち込んでいた。
<タツヤ> 「俺がリオのとこ行ってやろうか?明日暇だし>カオル」
<ヤス> 「いま弱ってるから抱いてやってくれよ>タツヤ」
<タツヤ> 「必要ならばいつでも☆>ヤス」
<カオル> 「いや、いいよ>タツヤ」
<ヒデ> 「抱くは嘘だとしても電話でてくれないならタツヤに
様子見にいってもらうのも手かもよ?
他人の口からのほうが聞いてくれるかもしれないし」
<タツヤ> 「俺いいよ?明日暇だし。ちゃんとカオルが反省してるって
伝えてきてやろうか?弱ってたら抱きしめとくし?」
<カオル> 「いいって。本当になんかしそうだし。俺がなんとかするから」
<マック> 「なんとかってどうすんだよ?」
<カオル> 「まだ考えてない」
そんなみんなの会話を見て、少しだけ安心した。
カオルは怒っていなかった。それよりもこの後のことを考えているようだった。
不安だった気持ちが少し軽くなった。
<ヤス> 「でも別に今、浮気してる訳じゃねーんだから大丈夫だろ」
<ヒデ> 「問題作ったお前が言うな!」
<タツヤ> 「お前が言うな!」
<マック> 「お前が言うな!」
<カオル> 「お前が言うな!」
<マオ> 「お前が言うな!!」
みんなが同時に同じ言葉を出した。真似をしたわけでは無く自然と打ち込んでしまったのだ。なにげに「!」がひとつ多いところが本心を表していた。
<ヤス> 「わ。マオにまで言われちゃった(笑)」
<マオ> 「ヤスさんはあまり二人の間に入っちゃダメですよ。
せっかく仲よさそうなのに」
他人の皮をかぶって言いたいことをヤスに言ってやった。
なんならもっと言ってやりたいとこだったが、
それ以上言うとバレちゃいそうなのでやめた。
<カオル> 「ありがとう>マオ」
カオルの「ありがとう」の言葉に胸がドキッとした。
<マオ> 「いーえ。許してくれるといいですね彼女>カオル」
<カオル> 「許してくれるかなぁ〜」
<マオ> 「大丈夫ですよ。きっと彼女も連絡待ってますよ」
<ヒデ> 「そうだよ。きっと待ってるよ。明日にでもしてみたらいいよ」
<カオル> 「そうだな。そうする」
<タツヤ> 「なんなら俺行ってもいいからな。遠慮するなよ>カオル」
<カオル> 「うん。さんきゅ どっちにしても来週行くからそれまでには
仲直りしないとな。」
その言葉を見て驚いた。
本当に休みをとってくれたんだ。
不覚にも、、、目がジワッ・・としてしまった。
勝手にもう終わりかもしれないとどん底に落ちていた気持ちは、
ジェットコースター並みに浮上し、カオルの出す文字を愛おしい目で見ていた。
明日、電話がきたらもうアノことは言わないでおこう。
カオルもいろいろ考えてたみたいだし、それよりもやっぱりカオルと
このまま別れることは嫌だから、素直に謝ろうと思った。
<ヤス> 「だよな。せっかく北海道まで行ってヤれないのはキツイもんな」
こいつ、、、どこまでもそれかよ!
人が今、、、猛烈に感動しているっていうのに!!
<ヒデ> 「まぁ、一晩頑張れば許してくれるって!
いつもより優しくな>カオル」
<タツヤ> 「そうそう。ネットリと時間かけてな」
<マック> 「3回もイカせれば許してくれるって!がんばれ〜」
<ヤス> 「3回は無理だろ。さすがに」
<カオル> 「いや?大丈夫じゃね?リオはそのくらいイクよ?毎回」
その文字を見て倒れそうになった。
やっぱりみんなの前でそんなこと言いやがっていたか!!
でもマオのままでは文句を言うこともできず、黙って見ているしか無かった。
<ヤス> 「まじで?そんなに感度いいんだ〜」
<ヒデ> 「うわ、やべぇ。二人のヤッてるとこ想像した・・・」
<マック> 「毎回って!!毎回どんなことしてんのよ?」
<カオル> 「極めて普通だけど?」
<タツヤ> 「だから普通ってどんなのよ?」
<ヤス> 「さぁ!盛り上がってきました!全部バラしちゃえよカオル」
<カオル> 「バラすって別にそんなにたいしたことしてねーよ」
<マック> 「カオルも3回?お前若いな〜」
<カオル> 「いや、俺は一回。そんなには無理」
<ヒデ> 「てことは、、、その間にリオが3回?うわー今度逢った時、
そんな目で見てしまいそうだぁぁ」
<ヤス> 「リオってイキやすいってこと?」
<カオル> 「うーん。きっと俺達体の相性抜群にいいと思うんだよな。
すっげぇシックリくるっていうか、そんな感じだからな?」
<マック> 「羨ましい・・・・・
リオもカオルの体に馴れたら他でしても満足しないかもな」
<ヒデ> 「相性ってわかるもんなのか?俺いままでさっぱりわかんねー」
<カオル> 「ヒデも合う女に会ったらわかるって。いままでのSEXなんか
自分でしているのも同じってくらい天と地の差あるぜ。マジで!」
<ヤス> 「なんか余裕の発言がムカつくな。このまま別れちまえ(笑)」
<タツヤ> 「もしかしてマオついてきてない?きつかった?話題が?」
もはや頭が白くなりつつある中でタツヤの発言を見て慌ててレスをした。
<マオ> 「ううん。大丈夫。問題ないよ」
背中にジットリと変な汗をかいていた・・・
やはり男同士の会話は見ないほうがよかったなと思った。
でもまだ内容を詳しくぶちまけられていないのが救いだった。
<ヤス> 「で?この前とかも毎日ヤッてたんだろ?やっぱ」
<カオル> 「そんなに毎日なんかしねーよ。それ目的だと思われるだろ」
<タツヤ> 「でもそんなにイイならリオだってしたいんじゃね?」
<ヒデ> 「でもなんとなくリオは自分からは言わない感じだな」
<カオル> 「そうだなぁ〜自分からは言わないかもな」
<マック> 「たまにあっちからってのもいいよな〜 いひひ」
<ヤス> 「ミライなんか言うぞ?自分から」
<ヒデ> 「まじかよ。あんなに可愛い顔してか?」
<ヤス> 「あぁ。平然と。寝ている時でも自分から咥えてきたり」
<ヒデ> 「うあぁぁぁぁー」
なんだかもう見てられなかった。
どこまで突き進むのか、これ以上見ていたら今度まともにミライの顔を
見れなくなりそうな話題になっていた。
カオルの話がこの前のキッチンでの話になり、みんなが興奮して
聞いているのを見て、顔が真っ赤になった。
<ヤス> 「普通っていいながらお前等激しくね?」
<カオル> 「そう?いいじゃん二人がいいなら」
<ヒデ> 「あのキッチンで・・・・もうだめだ。リオ見たらそれ思い出す」
<タツヤ> 「カオル、やっぱ明日俺いこうか?(笑)」
<カオル> 「だからいっつーの!>タツヤ」
<マック> 「そんなの聞いたら寝れねーよ。ちきしょう!」
<カオル> 「俺さ、リオの意地悪された時の反応がすっげぇ好きでさ」
<ヒデ> 「意地悪ってなによ?あの最中のこと?」
<カオル> 「わざと焦らしてやったりすると、しがみついたりするんだけど
恥ずかしがって言えないとことか可愛いくてさ」
<ヤス> 「お前・・・・Sだな」
<マック> 「言えないってそれからリオどうすんの?」
<カオル> 「泣きそうな声だすんだけど、その声がすげぇ興奮する」
<ヤス> 「あんなに勝気なのに実際そんなことされたらそりゃ興奮するわな」
<ヒデ> 「それ以上言われたらリオの字見てもドキドキする・・・」
<カオル> 「泣きそうな声で「カオル・・」って言われてみろよ!俺、もう
他の女に興味ねーもん。最近」
確実に熱がでそうだった。
「いやぁぁぁー!」と言いながら画面を見ていたがもう、
それ以上は見れられなくなり真っ赤な顔をして文字を打った。
<マオ> 「話の途中でごめんね。もう落ちるねー またー」
といってみんなの反応を見る前に急いで退室した。
どうして男って自慢したがるんだろう。
別に二人のことなのに、他人にバラさなくたっていいのに。
きっと今度みんなに会ったら変な目で見られる・・・
けれど今日ここで見たことは言えないし。
もう朝の4時になっていた。
4時まであんな話で盛り上がってるみんなもどうなんだろう。
そしてベットに入り、目を瞑った。
まだネット上ではアレ以上の話になっているかと思うと、頭が痛くなってきた。
もうすっかり始める前の不安な気持ちが消え、
それよりもどうやったら今後ネットでバラされないかを考えた。
(無理か・・・・・・)
そう思ってその日は眠った。
なんとなくこの4日間のスッキリ眠れない感じが消え、スーと気分よく眠りについた。
(もう他の女に興味ねーもん・・・)そう打ったカオルの文字に顔がニヤけていた。
次の日の夕方。
カオルから電話がきた。
あたしは昨日チャットでカオルの気持ちを見てしまったので、
とても軽く電話にでることができた。
「もしもし?まゆ。今いい?」
かなり心配そうに電話をかけてきたカオルとは対照的に
「うん!いいよー」
つい元気な声を出してしまった。
「あの、、もう怒ってない?この前のその、、ヤスの言ったこと」
「うん。もういいよ。ごめんね、いまさらなことなのに」
あまりにアッサリな態度にカオルは不思議そうに思っているようだった。
「あの、なにかあった?俺と連絡してない間に?」
「ううん。別になにも?」
「あ。そうなんだ・・・・・あのさ、俺来週そっち行けるから。
予定とか大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。何時に迎えに行けばいい?」
「あれ?驚かないの?」
カオルはもっとビックリする反応を期待しているようだった。
ヤバイ!と思い、慌てて驚いた芝居をした。
「あ、いや、だってこの前言ってたから。遅くても再来週て」
「あ。そっか。そんなこと言ったな。そういや」
「時間決まったら教えて。あと、あまり荷物持ってこないでもいいよ。
簡単な着替えとか用意してるから。普段着程度だけど」
「うん。わかった。そういや・・・最近なにしてた?ネットもしてないんだろ?」
ドキッっとした。
一瞬バレたかと思い、危なく次の言葉を噛む所だった。
「うーん。別に?友達と遊んだりしてた。夜も早く寝てたし」
「そっか。俺、昨日は結構遅くまでチャットしてたんだ。
なんか寝つけなくてさ。ほら、喧嘩みたいになってたし」
寝付けないと人とのセックスの話をみんなにバラすんだ?
沸々と怒りが湧いた。
「ふーん。そんなに遅くまでなんの話してたの?誰がいたの?」
シレッと聞いてみた。
「いや、たいした話はしてないよ。みんな男ばっかだったな。
ヤスとかヒデとかマックとかタツヤとか、あとお初もいたけど
話についてけなくて落ちちゃったけどね」
そう言って軽く笑うカオルに文句のひとつも言ってやりたかったが、
さすがにあそこまで赤裸々に言われてしまって、見てましたとも言えず黙っていた。
「お初を落とす会話ってなに?」
「あー。ちょっとした下ネタとか?」
「ちょっとしたってどんな話?」
「いや、、、えーと。その、ヤスとミライの話とか・・・」
嘘を言うとカオルはいつも口ごもる。
「あたし達の話とか?」
そう軽く付け足して言ってみた。
「えっ、、、誰か電話でもしたの?」
「誰からもきてないよ?やっぱりなんか言ったんだ?」
「いや、、そんなことは、、無いけど、、、、」
「怒らないから正直に言ってごらん?」
「ちょっと・・・・・だけ・・・・ごめん」
あれのどこが「ちょっと」なんだ!と叱りつけたかったが、
それ以上言うとバレそうなので、やめた。
「そのことは来週来た時にゆっくり聞くよ」
「はい。わかりました・・・・」
そう言ってお互い笑って電話を続けた。
やっと少しだけ気持ちが軽くなった。
そして来週のことを話し、電話を切った。
まだ時間は6時だった。
手帳にカオルが来る日に○をつけパタンと閉じた。
来週には会えると思うと、寂しい気持ちも消えていた。