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18/35

オレンジの花束

マサを叩いた件は一日にして今回の飲み会に参加していない部屋のみんなに知れ渡ったようだった。


月曜の夜、

お風呂からあがると、カオルがニヤニヤと電話をしている最中だった。




(「ダレ?」)


(「ヤス」)



唇の形で相手がヤスだと分ると、話の内容は聞かなくてもわかった。

それからしばらく話をしていたようだったが二階で帰りの荷物の整理をしていた。

電話が終わり、カオルが上がってきた。


「ヤスが(その後どう?)って聞いてたよ?」

「どう?って言われてもなぁ・・・・」

「今、ネットしたらマサがいるってさ」

「あたし帰るまでしな〜い」

「じゃあ俺しちゃおうかな〜〜〜」

「すれば?」


そう言うと、カオルは隣に座り人の顔を下から覗きこんだ。



「やっぱり付き合ってるって言わないほうがよかったかな?」

「いまさら・・・・・・」

「そう怒るなって」

「カオルはさ。正直どう思った?」

「マサのこと?」

「ううん。あたしのこと」


「どうって?なにが?」

「あの場で、、、会って二日目で・・・ってこと」

「そうだなぁ・・・」



そう言ってしばらく考えていた。

正直、一日経ってちょっとマサに悪かったと思った。

たしかに腹はたったが、みんなの前であんなことすることは無かったなと反省した。

それもお酒が入っていたし、結構酔っていたようだったし。


本当は自分でも心の底で思っていたことを、みんなの前で言われたことで

あんなにカッとしてしまったんだと思う。

きっと他のみんなもそう思っていたかもしれない。


誰もがカオルが北海道に行くことは知っていたが、

あたしの家に泊まったと聞いて、きっとその日のことを想像したと思う。

結果として今、こうして付き合ったから問題は無かったかもしれないが、

これでその場だけの関係で終わったなら、きっとあたしはもう

チャットはしていなかったと思う。




「俺は、この前言ったように会った時に「この子と付き合う」と

思ったよ? そりゃ、、一晩だけってことをしたことが無いと言えば

嘘になるけど、まゆとはそんなつもりじゃなかったし。もしあの場で 

嫌だと言われればなにもしなかった・・・・・・かな?」


最後の「かな?」はかなり自信無さげだったがそう言った。


「軽いなとか思わなかった?」


「うーん・・・でも実際かなり恥ずかしがってたし、

それ見たら思ったより遊んでないのかなって。

ほら、足とか力はいって・・・・」


「それ以上言わなくていい!!」と頭を叩いた。


「いいじゃん。他の人がどう思おうと。俺がどう思ってるかで

よくない?俺は軽いなんて思ってないよ」


「うん・・・・・」


「まぁ、きっとマサもヤスのこと見て、自分もまゆと・・・って

 思ってたとこにフタを開けたら俺と付き合ってた・・・て知って

 つい言っちゃったんじゃない?」


「うん・・・・・」


「そんなに気にするなって。だってそんなこと言ったらヤスとミライも

同じじゃん。それにみんな大人だもの、そんな成り行きくらいわかってるよ」


「う〜ん・・・」

「じゃ、俺ちょっとだけ顔だしておくよ。終わったら降りてきて」



そう言ってカオルは下に降りていった。

まだ一日あるから完璧には荷物をしまいきれなく適当な所で荷造りを終わりにした。

その後、下に降りて行くとカオルはPCの画面を見ていた。


「終わったの?」

「ううん。まだ明日の分があるから全部は用意できないから」

「そっかぁ・・・もう1日しかないんだな」

「そうだね。思ったより早かったね」

「昼間一緒にいないしな。やっぱり暇だった?」


そう言って画面をそのままにしてソファーに座った。

煙草に火をつけながら、こっちを見て


「で。この前の話なんだけどさ」と話を切り出した。

「この前って?」

「あの、、「一緒に住まない?」ってやつ」

「あぁ・・・・あのことね」


「どう?考えてみない?すぐにとは言わないから。まゆが落ち着いてから

 でいいからさ。ほら、仕事とかもあるし」

「でも、、もうちょっと考えさせてもらっていい?」

「やっぱ嫌?」

「嫌っていうか・・・ちょっとまだ早いかなって」

「早いかぁ・・・・そう言われてしまうと返す言葉が無いけど」


そして椅子に戻っていった。

軽く会話をして、カオルは電源を切った。

冷蔵庫からビールを出して一口飲み、ドサッと隣に座った。



「こーゆーのってさ、いつがいい時期なんだろな?」

「うーん。よくわかんないな」

「じゃあもういいかなって思ったら教えてよ。それまで待つから」

「うん・・・そうする」


「まゆさ・・・いままで付き合った男と最高どれくらい長く続いた?

 誰かと同棲とかしたことある?」


「同棲は無いよ。でもまぁ、、泊まりにとかってのはあるけど・・・

 最高かぁ、、2年くらいかな?」


「2年かぁ・・・・結構長いよな?それって?」

「うーん。そうかな?カオルは?」

「俺?俺は、、、、半年くらい?いつも自然と終わっちゃうんだよな〜」

「自然にって・・・自分から連絡しないの?放っとくの?」


「うーん。そんなことないけど、ほら、今でも俺ってあんまり連絡とか

 しないほうじゃない?そーゆーのって女の子は嫌がるじゃん」


「そうかもね・・・」

「あ。やっぱりそこは引っかかってた?」

「ううん。ほら、あたし達って今は結構暇ならネットしてるから

そこで会うし・・・だからあんまり気にしてなかった」


「それに休日とかどこか出かけたりすると、いろいろ聞くじゃん。

どこに居たの?とか何してたの?とか・・・・

そーゆーのが面倒くさくなるんだよなぁ」


「それはカオルが信用無いことしてたんじゃないの?」

そう言って笑うと、「してないよ!」と反論していた。



「もうそろそろ寝ようか?1時になっちゃうよ」

「そうだな。寝ようか」



そう言って二階に上がった。

部屋の隅にある荷物を見てカオルが言った。


「荷物、少し置いていってもいいよ。また持ってくるのめんどうだろ?」

「でも、、今度は冬でしょ?今とは服が違うじゃない?」

「あ。そっか・・・じゃあ下着とか置いていく?」

「いや、、、、そんなことしたらジロジロ見られるからやめとく」

「そこまで変態じゃない!」




ベットに入り目覚ましをかけ電気を消した。

こうして一緒に眠れるのも明日までなんだなと思った。

今度はいつ逢えるんだろう・・・

そんなことを考えながら眠りについた。



次の日のお昼。

きっと帰ってしまったら、またカオルはなにも家で食事を作ったり

しなくなるだろうと思い、簡単に作れそうなものを買い物に行った。


その帰り道、お昼休みのカオルが電話をかけてきた。


今日は外で食事をしない?と言われた。

今回こっちに来てもほとんど外出をしなかったから

最後の夜くらいどこかに行こうと考えてくれたようだった。


「じゃあ、7時に用意して待ってるね」


そう言って電話を切った。


買い物ついでに寝具を買い、家に戻ってからベットメイクをした。

暗い色のカバーやシーツを薄い色に変えた。

「なにか置いていけば?」という言葉を思い出して

パジャマを2枚買った。それくらいなら置いていってもいいかなと。


7時ちょっと過ぎになり、支度を終え待っているとカオルが帰ってきた。


「どこ行くの?」

「あんまり堅苦しいとこはダメなんだ・・・でも結構ウマいとこ」


そう言って、いつも会社の人達と来るというちょっと洒落た

レストランに連れていかれた。

堅苦しい所は嫌と言っていたわりに、そこは思っていたよりも綺麗なところだった。


席につくと近くのテーブルの人と目が合った。

目が合った人は軽く会釈をしてニコリと笑った。

つられてこっちも笑顔で会釈した。

それを見てカオルがそっちを見るとどうやら同僚らしく、

軽く手をあげ、頭を下げた。


「やっぱり会社に近すぎたかなぁ・・・」

「会社の人なの?そんなに近いの?会社って?」

「うん。アレ」


そう指を指した先のビルは本当に目と鼻の先で、


(いくらなんでも・・・近すぎるだろ・・・)と思う距離だった。



「へぇ、、ここでいつもお昼とか食べてるんだ?」

「たま〜にな。俺、あんまりグルメじゃないし腹が膨れれば

問題無いから、なんでもいいんだけどな。付き合いでね」

「そんなこと言われたら作り甲斐もあったもんじゃないんだけど・・・」

「いや、そうじゃなくて!まゆの料理はウマいよ。本当に」



オーダーをカオルに任せ、外の景色を見ていた。

しばらくすると、自動ドアから祐子さんが入ってきた。


「あ。祐子さんだ!」


カオルが振り返ると、祐子さんはこっちに気がつき手を振った。

テーブルの側に来て


「まゆちゃん。この前はどーも」と笑顔で挨拶してくれた。


「こちらこそお世話になりました。今仕事終わったんですか?」


「そう。たまには彼と食事でもって思ったけど、

時間が時間だから予約とれなくてね。こんなとこになっちゃった。て・・・矢吹君も?」


「あ。俺は、、、あんまり店知らないし、ここでいいかな〜て」

「ほんとダメね。もっと素敵なとこに連れていってあげないと!」


「よかったら一緒にどうですか?あ、もし祐子さんが

 よければですけど・・・・」そう言うと祐子さんは


「え?いいの?やっぱり食事は大勢のほうが楽しいのよね。

 矢吹君いい?もし二人っきりで甘い言葉を交わしたいなら

 お邪魔はしないけど〜」とカオルを見て笑った。


「それほど甘い言葉を言えるキャパもないですし。

 これから一緒に帰るんだし、俺はいいですよ。部長がよければ」


「じゃ。お邪魔しちゃおうかな〜」と祐子さんは笑顔で座った。



ボーイに「私も料理は同じもので」と告げ、ちょっと高そうな

シャンパンを頼み、


「これ、私から二人に」と言って自分が一番先に乾杯〜と言って飲んだ。



「まゆちゃん明日帰るんでしょ?矢吹君寂しくなるわね」

「まぁ、、そうですね。でもこればっかりは仕方ないですから」

とカオルはシャンパンを飲みながら言った。


「まゆちゃん。結婚しちゃえばいいのに」


いきなりそんなことを言われて驚いて吹き出す所だった。



「まだ早いですよ!そんなことー」

「でも結婚てタイミングよ?まだ早いなんて言ってたら

いつの間にかお互い言い出せなくなってダラダラしちゃうわよ?」

「部長のように?」とニヤついてカオルが言った。


「本当にそうなのよ!でも今が楽と言えば楽なんだけどねー

たま〜にしか逢わないから新鮮でもあるし、

これで同じ所に住んだら、きっと飽きちゃうわね。

仕事でイライラしてたら当たってしまうし・・・・」


「そんなこと言わないでくださいよ。今、一緒に住まない?って

言ってるのに・・・・」


「あ。そうだったの?ごめんなさ〜い」と一気にグラスを飲み干し笑った。



「あ。そう言えば矢吹君、昼間にあそこの店にいなかった?

えーと、、ほら、なんて言ったっけ?そこの角の・・・」



「あー!いいです!それ以上言わなくて!て、もう酔ってます?」

と会話を途中で切った。

祐子さんはニヤニヤしながら、カオルのほうを見て


「へ〜」と言って笑った。


そこに望月さんが来て3人を見て驚いた顔をした。


「なんでここにみんないるの?」


「あ。偶然、祐子さんをお見かけしたんでよかったら一緒にって・・・

やっぱりご迷惑でしたか?」


「いいえ!いいえ!どーせ二人で食事してもこの人が先に酔って

担いで帰るだけだから、他人がいたほうがセーブするだろうし」


そう言って席についた。


料理が運ばれみんなで楽しく会話をしながら食事が進んだ。

なるほどカオルの言うとおりにどれも美味しかった。

祐子さんはあまり食べずにガンガンと飲んでいた。

それを見て望月さんは


「誰が居ても・・・・同じか・・・」と言いながら呆れた顔をしていた。


小声で「祐子さんと結婚しないんですか?」と聞くと


「もう5回断られてるんだよ・・・」と言った。


マズいことを聞いてしまったようで、申し訳なくなった。


「けど。将来はこの人とって思ってるんだ。俺がいないとダメかなって。

強いように見えて、そうでもないんだよ・・・」と子供を見るような目で祐子さんを見て言った。



「まゆちゃんはドレスが似合う年齢に結婚するんだよ。

30歳過ぎてからは見ていても痛い時あるし・・・」

「はぁ・・・」

「矢吹はおすすめだよ?俺も祐子も太鼓判だから・・・

ちょっと無口だけど、いい奴だし」


そう言ってカオルのほうをチラリと見た。


そう言われてカオルは

「そうそう。早めに手を打たないと売れちゃうよ。俺」と言い

望月さんに「よく言った!」と言わんばかりにシャンパンを注いだ。


食事を終え、精算する時になると祐子さんが

「ここで割り勘なんてできないでしょ?今日はオゴりよ。ね?矢吹君!」と肩を叩いた。


素直にお礼を言い、祐子さんに

「今度来る時はお土産期待しててください」と言って別れた。




帰りの運転は結構飲んだカオルに代わり乾杯の一舐めしかしていないあたしが変わった。

車の量にちょっとドキドキしながらも無事に家に着いた。


家に入ると


「あ。ちょっと待って!」と言いカオルは車に忘れ物を取りに言った。


無事に家に着いたことに満足して

(結構走れるじゃん・・・・東京も・・・)と優越感に浸っていた。



玄関に入ってきたカオルは綺麗なオレンジのバラの花束を持ってきた。


「わぁ・・・どうしたの?これくれるの?わー。ありがとー」

「あの、、、それで、、これ」


小さな箱を出した。

それはどう見ても指輪が入っていそうな箱だった。

一瞬、言葉が出なかった。


「昨日、「早い」って言われて確かにそうだと思ったりもしたんだ。

俺いままでちゃんとしたプレゼントとかもしてないし、

いつも身に付けられる物がいいかなって。

サイズとかも合ってるかどうか微妙なんだけどさ、

この前見たTVで言ってたんだ。

「運命の人なら男の小指の大きさが彼女の左の薬指と同じサイズ」

だって。まぁ、、、もしサイズ違ったら変更してもらえるし・・」


「変更したら運命じゃないじゃん・・・・・」

「いや、たぶん大丈夫かなって」


箱を開け中を見ると、とても可愛い指輪だった。

それを取り出し指にはめてみた。

サイズはちょうどよかった。


「ぴったりだった。ありがとう」

「よかった。そんなに重い意味はナイから心配しないで」

「てっきりプロポーズかと思ってビックリした」

「したって断るくせに・・・・」

「じゃあこれ、あたしから」


思えばカオルに特別にプレゼントとかしたことが無かった。

カオルの趣味がいまいちわかっていないのもあったけど。


「これ。インドで古くから言われているお守りみたいな物なの。

一応シルバーなんだよ。元々男性用だから違和感は無いと思うんだ。

カオルに似合うと思う」


そういって自分の首にしていたチョーカーを外しカオルの首にかけた。


「前からかっこいいな・・・て思ってた。本当に貰っていいの?」

「うん。カオルのほうが似合うよ」

「サンキュ」

「あたしもありがと。大事にするね」


「俺達、こーゆー普通の恋人みたいなことしたことなかったな。

アッチのほうはかなり進んでいると思うんだけどな〜」

「そんなことは言わなくていい!」と頬を強くつねった。


きっとこんな普通のことを飛ばして、

すぐ体の関係にばかり流れたことが、不安だったのかもしれない。

なにかというとすぐ体ばかり求められてることで、

そのことだけにカオルは夢中になっているんじゃないかと

思ったことがあったのも事実だった。

馴れてきたら飽きられる・・・・

そんなことが怖くて、本当は(一緒に暮らそう)と言われたことが

嬉しかったのに、あんな返事しかできなかったのかもしれない。



カオルに新しいパジャマを持ってきて渡した。


「これカオルに。あたしの分も買ったの。それは置いていっていい?」

「もちろん!」



その夜。

とても幸せな気分でカオルに抱かれた。

せっかく買ったパジャマもベットに入った瞬間に脱いでしまい

あまり意味の無いものになってしまった。


新しいシーツも肌にあたる感触がとても良かったが、

シーツが冷たいと感じたのはほんの一瞬だった。

すぐに体が熱くなり、汗ばんできた。

カオルの指、唇、手をまわした背中、すべてを今度逢えるまで

忘れないようにと思った。


「カオル・・・・あたしの体にキスマークつけてくれない?」

「へ?キスマークって・・・・ そんな高校生みたいなことするの?」

「うん。だって3〜4日は消えないでしょ?

帰ってからもそれ見たらカオルのこと思い出せるから・・・

でも目立たないとこにね」

「変なこと言うよな・・・」


そう言って笑いながら首筋や胸の横などを「ここ?このへん?」

と聞きながらどこにつけようかと考えていた。


「明日・・・・・空港まで送ってくれなくていいから」

「どうして?俺休みじゃん。そのためにもらった休みなのに」

「ゲートの前で別れるの寂しいから。家からなら着くまで

道間違えないか必死でそれどころじゃないでしょ?ね?」


「それは俺が寂しいなぁ。独りだけ部屋に残るのはちょっとなぁ・・・」

「そっかぁ。じゃあやっぱり送って。帰る時ってなんだか寂しいね」

「またすぐ逢いに行くよ。休み決めたらすぐ連絡する」

「うん・・・・」


そう言って数ヶ所あまり目立たない所に薄っすらとキスマークをつけてくれた。

そして寝る時にいつもあたしがカオルにしてもらうように

後ろから抱きしめて欲しいと言われいつもとは逆のカタチで眠った。




次の日。

寝ているカオルの鎖骨のあたりにコッソリとキスマークをつけた。

それでも全然起きる気配の無いカオルを見て、

(後から見てビクッリするだろうな〜)とキシシ笑った。


昼過ぎにカオルが荷物を持っておりてきた。

最終便の飛行機なので、そう慌てることは無く、

午後を二人でゆっくり過ごした。まるで今日も泊まるかのように

買い物に行き近くを散歩した。

だんだんと暗くなるにつれ、気分もだんだんと暗くなった。

6時になり、


「そろそろ行こうか?」と言うとカオルは

「そうだなぁ、、、もうそんな時間かぁ」と時計を恨めしそうに見た。


ガラガラと大きな荷物を車まで運びトランクに押し込みカオルが言った。


「忘れものは無いか?もしあったら後から送るけど」

「うん。無い・・・・?あ!花!お風呂場に忘れた!」

「あんな大きなもの邪魔になるんじゃない?

花なんかどーせ枯れるし。いいよ」

「だって初めて貰ったものだもん。持っていく」




鍵を預かり部屋に入り浴室の洗面器に入れておいた花束を抱いた。

綺麗なオレンジのバラが20本ほどのその花束を持って急いで玄関に行った。

ふと思い立って、その中の2本をカーテンの側に吊るした。

後から独りで帰ってきたカオルが少しでも寂しくないように。


玄関から部屋の中を見渡し、誰もいない部屋にむかって


「じゃ。また来るね。さよなら」


と言ってドアを閉めた。




空港までの道のりは思っていたより短く、

なんだかすぐに着いてしまったような気がした。

荷物を預けて空港内を歩き、屋上で飛び立つ飛行機を見ていた。


「あたしがゲートに入ったらここには来ないでね」

「なんで?」

「窓からここにいるカオルが見えたら泣いちゃうじゃない」



時間が迫りいつまでも繋いだ手を離すのが惜しかった。



「じゃ。着いたら電話するね」

「うん。帰り車気をつけろよ?飛ばすなよ?」

「わかってるって。カオルこそ泣きながら運転しないよーにね」


そう言ってお互い笑顔で別れた。

一度だけ振り返って手を振った、それ以上は振り返ると泣きそうなので

後ろを見ないで手を振りゲートの向こうに消えた。


座席に座りなにげなく外を見た。

さっきの屋上がすぐ近くに見え、そこに数人の人が見送りをしていた。

けれど暗くてそれが男なのか女なのかも区別がつかなかった。


隣に座った初老の女の人が持っていた花束を見て

「珍しい色のバラですね。とても綺麗」とニッコリと微笑みかけた。


ニコリと笑い、花束を見つめた。



この花束を貰った時間に今すぐにでも戻りたい・・・



涙が出そうになり外を見た。

外はもう真っ暗で見送りの人にどんな人がいるのかすら分らなかった。

でもなんとなく、その中にカオルがいるような気がして見つめていた。


飛行機が飛び立ち、来た時とは逆に重い気持ちで空を飛んだ。

千歳に着き、駐車場の車に荷物を載せてからカオルに電話をした。

カオルはもう家に着いていた。


「今、こっちの空港に着いた。これから家に帰るね」

「そっか。気をつけろよ。ゆっくりだぞ?」

「うん。わかってる。カオルも今日は疲れたでしょ?早く寝てね」

「あぁ。わかった。あ、部屋に入ったら花の匂いがしてたよ」

「そのままにするとドライフラワーになるからいいじゃない」

「ちょっと女の子の部屋っぽくない?それ?」

「いいんじゃない?女の子連れ込んでも彼女いるって思うだろうし?」

「作戦か・・・・」

「まぁ、そんなとこ。じゃ、もう行くね」

「うん。またな」


そう言って家に向かって車を走らせた。

次の日には朝から仕事が待っている。

長かったようで短かったような休みがもう終わる。

きっと家に着いたら暗い部屋に電気をつける瞬間寂しくなる。


「一緒に住んじゃおうかな〜〜」


そう言いながら高速を走り家に帰った。



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