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暗闇恐怖症

ホテルの部屋に入り、シーンとした空気の中とりあえず

ソファーに座った。

空調が悪いのか部屋の温度が妙に暑く感じた。


「あー。俺、着替えようかな。仕事からまっすぐ来たしさ、

 汗もかいたし、シャワー入っていいかな?」


「あ、、どーぞ。TVでも見てるから」

ものすごくお互い変な間で会話をしていた。


「あ!それともお湯溜めておく?その後入るなら?」


「いやいや!シャワーでいいから気にしないで!」


「そ、そうだよね!じゃ、、じゃあ、、、お先に」




カオルはバタバタと鞄から着替えを出し、トイレとシャワールームが

一緒になった洗面所に消えていった。


しばらくするとかすかにシャワーの音がしてきた。


ドッと疲れた。

念のため、今日のうちに札幌に行くかもと考えてある程度の

荷物を用意してきてよかった。

それよりも、本当は明日ミライの家に泊めてもらおうと

思っていて、ミライにはそう伝えたのに

ヤスの電話に慌ててホテルを予約してもらってしまった。


いまさらヤスに電話しずらいなぁ。

ミライにも断りずらいし。


ソファーに倒れこむように横になり

「あ〜〜疲れた〜」と体を伸ばした。


伸ばした手にさっきコンビニで買った袋があたり

中の冷たいビールの缶が触った。


「あ・・・冷蔵庫に入れなきゃ」


ガサガサと袋の中身を出し、ビールやお茶を冷蔵庫に入れようとした。

もう一つの小さな袋を見つけ


「あ。さっきカオルが歯ブラシって行った時のだ」

歯ブラシは不要だと思い、またビールを買ったというのを

思い出し一緒に冷蔵庫に入れようと中身を出した。


その作業が終わるとなにもすることが無くなり、

TVをつけた。

時間も時間だし、さほど面白そうなものも入っていなかった。

ニュースをボケーと見ていたらカオルがシャワーから

出てきた。


「狭いから暑い!暑い!」そう言って頭からタオルをかぶり

Tシャツと短パンの姿でベットに腰掛けた。

さっきまでのスーツ姿と違い、途端に若いお兄ちゃんのような

カオルを見て


やっぱり歳相応なんだなと思った。


「あ。シャワー入るならいいよ。でもまだ中が暑いかも」


「うん。もうちょっと後でいいよ」そう答えたが、

本音はいきなりスッピンでうろつく勇気が無かった。


さほど化粧を落としても変わりはしないと思っていても、

なんとなく抵抗があった。

どーせならカオルが寝てしまった後に入ろうと思った。




「じゃ。とりあえず乾杯しようか」そう言って冷蔵庫から

ビールを2缶だして手渡してくれた。


でもあたしはお酒が飲めない。

ここで断るのも悪いかと思い、一口だけと思ってプルをあけた。

薄いアルミ缶がぶつかる音で乾杯をし、飲んだ。


「うわ。にっが〜」

顔をしかめてマズそうな顔をした。


「マジで飲めないんだ?飲めそうに見えるのにな」

そう言ってカオルは美味しそうにビールを飲んだ。


それからいろんな話をした。

カオルの仕事のこと、いつもヤスと電話してること、

他にもチャットでは分らない裏の話。


そんな話をしているうちに、飲めないと言いながらも

あたしはなんとか1缶ビールをあけた。

なんとなく見つめられると何をしていいか分らず

とりあえずビールをチビチビと飲んでいるうちに空けてしまった。


今でこそお酒は飲まないが、昔は飲めるのが格好いいと思い

マズイと感じながらもお酒を飲んでいた頃、アルコールが

入ると頭が痛くなるか眠くなるかのどっちかだった。


どちらにしてもこの後、そうなってしまうとシャワーに入るのが

無理な状態になるので、ここらでシャワーに入ると伝えた。


なんとなく酔っていると感じていた。

もうスッピンでもいいや!そう思う所に酔いを感じた。


「おう。俺はTV見てるからごゆっくり〜」と

すでにビールを3缶あけながらカオルはニコリと言った。


着替えを出そうと思いバックを開けても動きが遅い・・・

ヤバイ・・絶対酔ってる。


なんとか用意をしてシャワールームに入った。

もうすでに眠くなっていた。

簡単に化粧を落とし、髪を洗い、体を洗った。

だんだん立っているのが辛くなり、バスタブに座り込み

酔いをさまそうとした。



しばらくして、、、



「大丈夫か?倒れてないよな?」


その声に目が覚めた。

気がつかないうちに寝てしまったようだった。

シャワーカーテンごしにカオルの声が聞こえた。


その声にすっかり酔いは覚め、というかたぶん少し寝たから

酔いが覚めたんだと思う。


「あ、、大丈夫。大丈夫だからカーテン開けないで!!!!」

バスタオルもカーテンの向こうだし、こっちにはタオル一枚しか

無い事実にかなり慌てた。


「いや。開けないって!1時間も出てこないから倒れてるかと

 思っただけで、大丈夫ならいいよ。悪かったな」

そう言ってカオルがドアを閉める音がした。


そうか、、、1時間も経ってたのか。

そりゃ「大丈夫?」とも言いたくなるよな。


お湯が温かったとは言っても、

かなり逆上せた状態でシャワールームを出た。



「ごめん。実は寝てた」

そう言ってカオルを見ると「やっぱりな」と笑われた。


冷蔵庫からお茶を出して、

「やっぱりこっちのほうが美味しいや」

そう言って、ペットボトルの半分くらいを一気に飲んだ。



酔いが覚めたおかげでお風呂上りに眉毛を書く余裕もできた。

少し寝たので眠気も飛びさっきより元気になった。

1時間も経っているならカオルはどれだけのビールを飲んだのだろう?

そう思って空き缶を見た。


カオルは4缶目を飲んでいた。


「あれ?あたしがシャワーに入る前って3缶飲んでたよね?

 全然あれから飲んでいなかったの?」そう聞くと


「実は俺も疲れて寝てたんだ」そう言って笑った。


「で・・・起きたはいいけど時計見たら1時間経ってるし

 リオは出てこないし・・・で、声かけたって訳」


お互い眠気も酔いも覚め、ゆっくりTVを見ながら

いろんな話をした。


そのうちTVも放送が終わるチャンネルがでてきて

カオルがリモコンで他のチャンネルを入れていた。

あたしはコピーしたTV欄を見てまだ放送しているチャンネルを

探していた。


途端にTVから変な声が聞こえてきた。


パッと顔をあげるとそこにはAVビデオが入っていた。


慌ててリモコンで違うボタンを押そうとしてアブアブする

カオルは慌てすぎてリモコンを落とし、延々と部屋の中には

「ああ〜ん」とAV女優のあえぎ声が響いた。


結局気まずくなり、そのままTVを消してしまった。


気まずい上に静かすぎる空間が可笑しすぎて笑いを隠すのが

大変だった。


「そんなに慌てなくても・・・・」


「あ・・・でも変な空気になったら困るだろうと思って・・・」




時計を見るともう3時を過ぎていた。


「ここってチェックアウト何時なんだろ?」

そう言いながら案内の紙を見た。

チェックアウトは10時。朝食は6時から9時と書いていた。


「そろそろ寝ようか。たぶん昼には札幌に着くから

 どこか見たい所あったら案内してあげるよ」


「そうだな。そろそろ寝ないと明日起きれないな」


そう言ってお互いベットに入った。


どっちにしろまだ眠くはなかったし、こんな状態ですぐには

眠りにはつけそうもなかった。

薄暗い部屋の中で物音ひとつしないシーンとした空間が

更に緊張した。

お互いの息遣いすら聞こえるほど静かだった。

そのままどちらも話をせず、30分ほど過ぎた。


「明日さぁ・・・・」

てっきり寝たと思ったカオルがいきなりしゃべったので驚いた。


「わ。まだ起きていたんだ?静かだから寝たかと思った」

そう言いながらカオルのほうを向いた。

カオルは天井を見たままの姿勢だった。


真っ暗は怖かったのでドアの入り口の所の

スポットをつけておいてもらったので、かろうじて微かに

カオルの顔かたちが浮かんで見えた。


「明日ヤスに会ったらなんて言おうか?」


すっかりヤスのことを忘れていた。


「うーん・・・とりあえず別々の部屋に泊まったっていうことに

 しておこうか。多分同じ部屋に泊まってなにもなかったって

 言っても信じないだろうしね」


「だよなぁ・・・・信じないよなぁ・・・・」

そう言いながらカオルは体の向きをこっちに向けた。


お互い微かに見える程度の中で相手の目を見ていた。


ハッキリは見えていないと分っていてもなんとなく見られている

だけで緊張した。


「あの、、、おやすみなさい!」

そう慌てていい後ろを向いた。

これ以上、見つめているのも見つめられているのにも耐えられなかった。


「うん。おやすみ」

カオルもそう言った。



窓の外ではたまに車が通る音が聞こえた。

その音をしばらく聞いていた。

それ以外の音はなにも聞こえなかった。

しばらくして、



「もう寝た?」後ろからカオルの声がした。

ドキッとしたが、何も答えずそのまま寝たフリをした。


パチンッ!


とたんに部屋が真っ暗になり驚いた。

寝る時は部屋が真っ暗だと怖くて眠れない。

寝たふりをした以上、我慢して目をギュッと瞑った。


けど、いざ真っ暗になると頭の中は怖い映像ばかりが浮かび

背筋がゾワゾワした。

幽霊とか見たことは無いけど真っ暗だとでるような気がしてならない。

おまけにここは自分の部屋ではないホテルの一室。

よくTVで見る幽霊体験談はこんな部屋で起こる。


そんなマイナスなことばかり考え怖くてドンドン目が冴えていった。


「カオル・・・・起きてる?」

そう聞いてみたが返事は無かった。

体の向きをカオルのほうに向け、目をこらして見たが

見えるのは暗闇だけだった。


「ねぇ・・・・もう寝た?ねぇってばー」


全然返事が無い。。

高所恐怖症や閉所恐怖症があるように、あたしはきっと

暗闇恐怖症なんだと思う。

どんどん怖い気持ちが大きくなり、ベットから起き上がった。


でもジーと一点を見つめると見てはいけないモノが

見えてしまいそうで怖くて見れない。


手探りでベットを抜け出しスイッチを探した。

けどどこを触ってもスイッチらしいものは無かった。


あまりに怖くなって静か〜にカオルのベットに近づき

ソ〜とカオルのいるであろう場所に手をやった。

布団の盛り上がりを感じ、やっと落ち着いた。


そのままベットの空いた所に座った。

目が暗闇に慣れるようにと目を瞑ったが、あまりに真っ暗すぎて

いつまで経っても見えるのは暗闇だけだった。


「え?なにやってんの?」

カオルの声が聞こえた。


「あの、、、、真っ暗だと怖くて寝れない、、の、、」

そうは言ったが、実際とても怪しい自分の行動に

誤解されそうで慌てた。


カオルはあくびをして「ほら。いいよ」と布団を捲くった。


「え?」一瞬なんのことかわからず黙っていた。


「怖いんでしょ。いいよ隣で寝ても」

そう言って自分は壁のほうに体を動かし、あたしが一人入れるくらいの

スペースを空けてくれた・・・ような気がした。

暗くて見えないが体を動かす音でそう思った。


「いや!いいよ!そんなつもり無いから!」

そう言って自分のベットに戻ろうとした。


「大丈夫だって。ただ寝るだけだから」

そう言って腕を引っ張られそのまま空いたスペースにコロリと

寝かされてしまった。


犬でも布団に入れたようにパサッと布団をかけ

その布団の上に手を置きポンポンと寝かしつけられた。

ドキドキしたが、カオルはそれ以上はなにもしないで

スースーと横で寝息をたてた。


「わ〜 どうしよう〜」と思いながらも隣でこうもあっけなく

寝られてしまうと出るに出られなくなった。

ここで布団から出て自分の布団に戻ったところで

さっきのように暗くてドキドキするなら、このままここで眠って

しまおうか?


いや。でももしも・・・・

いきなりなにかされたとしても、こんな状態じゃ抵抗することも

できない!むしろ合意だと思われてるかもしれないし・・・


身動きひとつしないで体を硬直させそのままジッとしていた。


最初こそ緊張していたが、こっちの緊張をよそにカオルは

しばらくすると寝返りを軽くして本気で寝ているようだった。


拍子抜けでは無いが、本当になにも起こらないと感じに

ソロ〜と顔を横に向けカオルのほうを見たが

聞こえるのは気持ちの良さそうな寝息だけだった。



「本当に寝たんだ・・・・」

そう感じるとドキドキしてるのがバカらしくなった。

シーツを通して伝わる人の体温が温かくそのうち眠気が襲ってきた。





そして知らない間に眠ってしまったようだった。






目が覚めた時に隣にカオルはいなかった。


時計を見ると7時半だった。

ベットから起き上がるとソファーで煙草を吸いながら

新聞を見ているカオルがいた。


「おはよ。まだ寝ていていいよ」

そう言ってニッコリ笑った。


「あ。ごめん、、、あたし寝相悪かった?」



「いや。ぜんぜん!なんか目が覚めちゃっただけ。

 それとも起きて飯でも食いにいく?」


「あ。うん。用意するね」

そう言って洗面所に行った。




あれは夢だったんだろうか?

いや、、確かに起きたのはカオルのベットだったし・・・・


簡単に用意をして朝食を食べに部屋を出た。


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