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ロボと煩悩  作者: 春隣 豆吉
ロボと色恋
8/9

4:

 特別招待券というのは、すごいものだ。

 行列をしりめにホテルマンの方に案内されて、ビュッフェ会場に入ることができるのだから。

「なんか、改まったワンピースかスーツを着てくるような場所だね」

「そんな格好で着たら全然食べられませんよ。たくさん食べない実桜子さんなんて心配です」

「ちょっと、人を大食いみたいに言わないでくれる」

「失礼しました。量は少しで往復回数が多いだけでしたね」

「…やっぱり久林さんは言動が失礼だよ」

「名前を呼ばないと、ここでキスをしますけどよろしいですか?」

「よろしくないっ。興伸さんは言動が失礼!!これならどうだ!!」

「…あまり面白くありませんが、名前で呼ばれたからよしとしましょう」

 よし、キスは回避!でも、人の顔見てやれやれって顔をするのはやめてくれないだろうか。

 私と久林さんはチョコ仲間から恋人同士に変わった。会社ではとっくに恋人同士という位置づけが勝手にされていたけど、私のほうはようやく彼は恋人なのだと認識した。

 まさかマヨラーの彼氏の次にできたのがチョコ好きの彼氏だとは…あの日、チョコレート売り場で並んでいて思ったことが現実になるなんて。


 旬のイチゴを使った限定スイーツ、ホテルにも入ってる有名ショコラティエのチョコレート、果物からケーキ、プリンに甘くないケークサレやパイまでずらりと並んでいる様は圧巻といってもいい。

 まずはイチゴの限定→チョコ→その他ケーキ類→甘くないやつ→チョコ→果物だろうと私は限定スイーツを吟味している。

 彼は私とは違う場所から探すことにしたらしく、お皿を持ってケーキ類を見ている。あ、女の子たちが見とれてる…お、声をかけた!あれが逆ナンパというものか。おおお29歳にして初めて見た!でも、ものすごい衝撃を受けた顔をした女の子たち…いったいなにを言った、久林さんや。

 ん?彼がこっちを見てる。そしてなぜかこっちに来る。

「あっちのケーキを見ていたのではなかったの?」

「もう食べたいものは取りましたから。それはムースですか?」

「そう。イチゴとビターチョコレートのムース。二層になっているのがきれいでしょ」

「ええ、美味しそうです。でもこちらのイチゴを練りこんだスポンジケーキも美味しそうですね」

「それもいいよね~。でもまずはムースにしたの」

「じゃあ私はこちらのケーキにします。実桜子さん、結構取ってますね」

「そういう興伸さんもね」

 互いに小ぶりのスイーツがお皿の半分以上もられており、一度席に戻ることにした。


「さっき、若い女の子たちに声かけられてたね。20歳くらい?」

「ああ、なにやらごちゃごちゃ言っていたので“うるさいですよ”と言って黙らせましたが」

 うーん、容赦なしか。しかも話全然聞いてなかったんだな。

「断るにしても物腰やわらかにしなよ」

「そんな思いやりは不要です」

「…ま、恋人がナンパになびかなかったのはやっぱりうれしいよ」

 すると、久林さんの手がぴたりととまった。まだお皿にはスイーツが残っているというのに、どうした。

「どうしたの、まだ残ってるよ」

「……実桜子さん、私のことをちゃんと恋人だと認識してくれているんですね」

「え。当たり前でしょ。違うの?」

「いいえ。うっとうしいナンパ被害にあってもいいことあるんだなと思いまして」

 そう言われると自分の言動がなんだか恥ずかしくなってきた。でも、そういえば久林さんの前で恋人って言ったことなかったかも。

「もしかして、不安だった?」

「そんなことはありませんが…これはまずいですね」

「え?!美味しいじゃん!」

「スイーツは美味しいですが、今日はちょっとがっついてもいいでしょうか」

「は?!がっつりって夜は焼肉とか?よく食べるね~」

 すると久林さんが、確かににやりと笑った。なぜか背筋がぞくりとする。

「いいえ、私ががっつりしたいのは実桜子さんですから」

「ここで言うこと?!」

「ここに宿泊予約しておいてよかったですね。私の部屋ならもっとよかったんですが、まあそれはこれからいくらでも機会がありますし」

 きっと甘くて濃厚な時間になるはず。果たして私は明日体が動くんだろうか。いや、意地でも動かさないと大変なことになってしまう。


 私はもっと体力をつけなくてはいけないと思ってしまった。

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