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ロボと煩悩  作者: 春隣 豆吉
ロボと煩悩
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3:

「あのとき感じた罪悪感を返せ」

「なんのことでしょう。黒田さんは食べるものを決めましたか?」

 定食屋で向かい合わせになって私の抗議をさらっとスルーしたのは久林さんだ。午後の仕事、はかどるだろうか。

「私、玄関口で待ち合わせしようって言ったよね」

「どうせ階下に行くのですから、ついでに誘ったほうが合理的じゃないですか。この店のチキン南蛮定食は美味しいですよ」

「じゃあ、チキン南蛮定食にする」

「私も同じにします。ここは私が払いますね」

「えっ、別々にしようよ。おごってもらう理由がないよ」

「それでは一人で楽しむ予定のチョコを分けてもらうお礼にということで。いいですよね」

 いいですよね、と同意を求めるような言い方をするわりには有無を言わせないオーラが出ているのはどういうことだ。


 お店の人に了解を得てチョコレートを二人で分けたあと、食事を終えて店を出た。

「ごちそうさまでした。久林さん、美味しいお店を知ってるんだね」

「あの店は社長の行きつけで、よくお供するんです」

「へえ~、社長って庶民的なのね。懐石とかフレンチばっかり食べてるかと思った」

「黒田さんが社長という役職にどういうイメージをお持ちなのかよく分かる発言ですね。うちの社長は会食ではそういう場所に行きますが、普段は庶民的な食事が好きですよ」

「ふーん、そうなんだ」

「ところで黒田さんは、あの買ったチョコレートを誰かにあげたりするんですか?」

「まっさかあ。あれは全部自分用だよ。久林さんは?」

「私ももちろん自分用ですよ」

「じゃあ、もらう分も合わせると大漁だね」

「私はチョコをいただいてもその場で返却しています」

「えー、もらうくらいしてあげなよ。かわいそうじゃん」

「嫌ですよ。渡されるチョコからぎらぎらしたものを感じるので恐ろしいです」

 ぎらぎら…まあ、確かに自分に自信のある肉食猛禽類系しか久林さんに近づいていかないもんな。私のような草食系は遠慮して近づかないのが平和への道というもの。

「ぎらぎらって。珍しいチョコを食べられる機会なのに」

「黒田さんはポジティブというか怖いもの知らずですね。それではまた機会があったらお昼行きましょうね。楽しかったです」

 そういうと彼は役員フロア直結のエレベーターに乗ってしまった。役員直結があるのに、どうして彼はわざわざ普通のエレベーターを使って寄ったんだろう。


「黒田せ~ん~ぱ~い~~~。どうして久林さんとお食事に?」

 案の定、隣の席の後輩が椅子ごとすすすと近寄ってきた。

「同期だからたまにはお昼を食べようってなっただけ。ほらほら急ぎの見積もりを頼まれてたんじゃなかった?」

「あ!そうだった!先輩、そのうちきっかり教えてもらいますからね!!」

 後輩は残念そうだったが、すぐに真剣な表情でパソコンに向かっていた。この切り替えの早さは彼女のいいところの一つだ。

 私たちの会話が聞こえたのか、他の人たちも物言いたげな視線を向けてくるけれど何も言ってこない。久林さんは機会があったら…って言ってたけど、そんなものあるわけがないだろう。やっぱり無表情メガネロボでも社長秘書なので相手に気を遣うわけだ…それにしてもちゃんと食事をしていたな。箸の使い方もきれいだった。


 その後、久林さんはお昼になると営業部フロアに現れちょいちょい一緒に食事をすることになった。外食だったり社食だったり場所はさまざまだけど最初は驚いていたフロアの人たちも、たびたび見かけるようになってからはその存在に慣れたらしい。

「チョコのお礼で終わるかと思ってたのに、なんでお昼になるとここに来るのさ」

「黒田さんは私を前にしてもぎらぎらしないので気が楽なんです」

「チョコ仲間にぎらぎらしてもしょうがないでしょうが」

 逆に、そんなにいつも女性からぎらぎら光線を浴びていたのかと気の毒になってくる。

「私と黒田さんはチョコ仲間…ええ、確かにそうですよね」

 久林さんは私の言葉になぜか感銘を受けたようでうんうんとうなずいている。

「うなずいてるのもいいけどさ、さめないうちにおかず食べなさいよ」

「黒田さん、今度の休みにBean to Barの専門店に一緒に行きませんか」

「別にいいけど土曜にして。日曜は掃除するの」

「掃除はまめにしたほうがいいですよ。ほこりで人間は死にませんけどね」

 ほんとに言動が失礼だよな。久林さんをクール知的メガネで自動変換できる人たちはすごいわ。私からすれば失礼言動無表情メガネだわ。


 この話を社食でしたのがいけなかったのか、私たちはいつの間にか週末にデートをする仲に会社では発展していた。

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