4.総統的粛正対象
逃げるように空を飛びながら、未愛はぶつぶつ文句を言っていた。
「くそぉ…何だか分からないが逃げてしまっ…いやいや、戦術的転進をしてしまったではないか」
撤退ではない。作戦を立て直して奴らを叩きのめすのだ。
「作戦…といえば…。罠?…罠といえば…トラップ、落とし穴だ!」
ぴかーん、と頭の中にある電灯が光る。
「奴らは警察だと言っていたからな。ククク、自ら出勤先を口にするとは軽率な奴らだ。この辺りの警察署近くで張っておいて、奴らがきたら魔法を使って地獄の底につきおとしてくれる」
そうと決まれば行動あるのみ。未愛はこの辺りにある警察署に向かうことにした。
ぴゅーんと飛んで警察署に向かっていると、目下に大通りが見えてくる。
この町で一番大きな通りで、車が沢山走っている4車線道路だ。
人目につかない場所で降りようと未愛がきょろきょろと探していると、ふいに大通りに面した歩道に子供がいるのを見つける。
「あんな車が多い所に…一人か?」
子供は横断歩道で立ち、青信号になるとゆっくり歩き出した。
「うむ、ちゃんと信号を守って、偉いぞ未来の労働力よ」
うんうんと空中で頷きながら見ていると、青信号が点滅し、やがて赤信号になった。
子供は横断歩道の真ん中で慌てて立ち止まる。
じれた車がクラクションを鳴らすと、子供は立ち往生したようにきょろきょろとし始めた。
「むっ…!」
車の運転席から男が顔を出してなにか怒鳴っているのを見た途端、未愛は空から地上へ落下するように飛んで行った。
「早く行けよこのガキ!」
男はバンバンとクラクションを鳴らして男の子を煽る。
「は、はいごめんなさい」
子供は慌てて道路を走ろうとするが、この大通りを渡る横断歩道は反対車線もあり、子供が行きたい方向はすでに反対側から車がびゅんびゅんと走っていた。
さらに、進行方向の道路も子供がいない側の車線は車が次々と走っており、子供は実質車の壁で動くことができない。
それなのに、男の子の目の前で停まる車の主はクラクションを鳴らすのをやめず、怒鳴っている。
子供が今にも泣きそうな顔をした。
「未来ある労働力を泣かせるでないっ!」
運転席の窓から身を乗り出す男の頭頂部を未愛は空から飛び蹴りして、くるんっと身体をまわすと男の車の天井、ルーフ部分にトン、と乗った。
遅れてふわりとマントが舞いおち、テーブルクロスのようにルーフへだらりと落ちる。
「良いか!この町にいる人間は全て私の支配下にある。子供は未来の労働力。いずれ私の町を大きく発展させるための手となり足となるのだ。そんな大事な人材に対してそのような愚挙は許さん!」
「痛ってぇ…はぁ!?お前なに!?ていうか、どこから現れたんだよ!」
「私がどこから現れようが関係ない!だいたいだな…子供が立ち往生しているというのに、回りの車どもは全く止まる気配もない。これはいわゆる、モラルの低下!現代病だ!私の理想とする町の住民ならば、そんなノーモラル精神は矯正してくれる!」
「てかてめえ俺の車から降り…!」
男は怒鳴りながら窓から身を乗り出し、ルーフ上に立つ未愛を見上げる。するとばっちりスカートの中が見えてしまった。
「………。 …ハッ!?お、降りろよてめえ!」
つい、可愛らしい白のフリルに目を奪われてしまったが、慌てて男は首を振り、改めて未愛に抗議する。
「ふっ…降りてもいいが、用事をすませてからだ。お前達皆、粛正対象だからな!…緑よ枷となれっ!」
未愛がステッキを振ると、どこからか蔓がにょきにょきと現れ、未愛の周りを走っていた車をぐるぐると巻いていく。
「わぁっなんだ!?」
「車が動かない…っつ、蔓が絡まってる!?」
未愛の辺りは緑に絡み動けなくなった車だらけとなり、騒然となる。
しかし彼女は顔色ひとつ変えず、トンと車のルーフから地上へ飛び降りると、子供の手を取った。
「行くぞ子供よ」
「えっ…あ…ウン」
こくり、と子供が頷いたので未愛はニヤリと笑い、堂々と横断歩道を歩いていく。
やがて歩道までたどり着くと、男の子はぼうっとした顔で未愛を見た後、みるみると目を輝かせた。
「おねえちゃんすごい!魔法使いみたい!」
「なにぃ!?なぜ分かった!!」
自分の職業をこんな子供に言い当てられるとはっ!未愛の顔がサッと青くなる。
父の声が耳に響く。――正体を知られたからには必ず消せ!――
(しまったぁー!私は人の消し方がわからんのだっ!消しゴムのように消すのか?)
想像したことがないものはイメージが作れない。
しかし、父の言う事を守るため、未愛はぶっつけ本番でステッキを構える。
「フハハ!よくぞ私を見破ったな。しかし知られたからにはただでは返さぬ…っ!き、きえろ!」
ふにゃふにゃしたイメージを作って言葉を紡ぎ、ぶん、とステッキを振る。
すると子供がかぶっていた帽子がぱっと消えた。そして未愛の頭にぽとりと落ちる。
「……」
「……」
しぃん、と妙な静寂のあと、子供が拳をぐっと握り締めて感動したように未愛を見上げた。
対して未愛は頭を抱える。
「すっげぇえ!魔法使いだー!!」
「ち、ちがーう!イメージとちがーう!!」
「おいお前!これどうするつもりだ!」
未愛と子供が騒いでいると、後ろから蔓の被害者らしいドライバー達がわらわらと出て来て彼女に凄む。
しかし未愛はチラリと彼らを見据え、腕を組んでフンと鼻を鳴らした。
「なんだ?私はお前達を矯正してやったのだ。よもや子供が見えなかったなどとは言わせんぞ」
「はぁ?俺が走ってた道路にはいなかっただろうが。それより早くなんとかしろよ!」
彼女は男の言葉を聞いてかちんとくる。マントをばさりと翻すと魔法で空を飛び、街灯の上に立った。
「だからお前達はノーモラーなのだ!子供が見えたなら車をとめろ!道路の真ん中で立ち往生させては可哀想だろうが!もし子供が慌てて飛び出してしまったらどうするつもりだったのだっ!」
と、一息に捲くし立てた後、ハッとした顔をして首をぶんぶんと振る。
「ち、違う、訂正だ。可哀想じゃなくて、私の支配下における労働力」
「ごちゃごちゃ言ってねえで、どうするつもりだよ、この惨状!」
「ふっ…それは普通の蔓だから、ひっぱればちゃんと千切れるぞ。自分で何とかするがいい。それも矯正指導の一つだ。決して消し方がよくわからないわけではないっ!」
そう言うと、すぅっと未愛は浮かび上がる。
「よいか!この町は私の支配下にある。管理下であるこの町で、私の趣旨に反する行動は許さんっ!それでは皆、これからも精進するのだぞ。悪の組織ゲアラハの為にっ!」
ちゃきーん、と決めポーズをすると、ワハハハハー!と笑いながら未愛は警察署に向かって飛んでいった。
残された人々と男の子、蔓にまかれた車が残る。
誰かが蔓をひっぱると思ったよりあっさり蔓は千切れた。
「お、これ簡単に切れる。タイヤの近くを切ればすぐに走れそうだな」
「まじか。…本当だ」
ドライバーの一部はわいわいと話しながらぶちぶちと蔓をちぎる。
「ってか、おかしくね!?ちょっとアレなんなんだよ!?」
一番未愛に怒鳴っていた蔓の被害者が怒り出すが、皆あまり深く考えようとしない。
考えても仕方のないことを考えるより、とりあえず車を動かしたい人のほうが多いらしい。
「…くそ、俺もちぎろ…」
ドライバー達は皆、自らの車に向かっていく。
残った男の子は、地面に落ちていた帽子を拾って空を見上げた。
「…すげー…まほーつかいだ…」
家に帰ったら絶対報告しないと!と心に決める。
報告したところで、母親に「そんなのいるわけないでしょ」とすげなく言われるのだが。
◆◇◆◇
「全く、とんだ寄り道をしてしまった」
やっと警察署近くの路地裏を見つけて降り立った未愛は、さささと走って路地から警察署を見る。
「さて…あいつらは来るかな」
寄り道を考えたとしても、あの河川からこの警察署までの距離を考えるとこっちのほうが早い。
未愛の飛行は割と早いのだ。しかも地上と違って信号機などもない。
路地にしゃがんで待っていると、未愛のお腹が「きゅう」と鳴った。
「…う、お腹…減った」
ポケットから携帯を取り出して時間を見れば丁度正午。お昼時だ。
「何かないかな…」
マントと背中の間に隠している小さなリュックを外して中を探すと、今朝貰ったばかりの干し柿が見つかった。
「おお、これがあった。小沢さんに感謝しなければな。世界征服の暁には待遇を良くしてやろう」
袋をかさりとあけて干し柿を食べる。くにゅりとした歯ごたえの後、凝縮した柿の甘味が広がって美味しい。
だが、未愛がもきゅもきゅと干し柿を食べ、3つめの干し柿にかぶりついたところで、後ろからポンと肩を叩かれる。
「!!??」
ぱくついた干し柿が喉に詰まってばたばたと手を振った後、胸を叩く。
「んーっんー!」
「おぉ、どうした。何か詰まったのか」
後ろにいる人物がよしよしと背中をさすってくれたおかげで何とか干し柿を飲み込んだ。
「っはぁ…。死ぬかと思ったぞ…って誰だっ!」
未愛がバッと振り返ろうとするが、それより早く後ろの人物の長い腕に囲われる。
そしていきなり耳にちゅ、とキスをされて未愛は「ひぇあ!!」と叫んでしまった。
「誰ってひでーな。さっき会ったばかりじゃん」
聞き覚えのある声と、未愛から見える腕のジャケット部分にハッと気づく。
「れ、煉かっ!?」
「そうそう、さっきぶりだなミア」
後ろの男は、先程河川敷で会ったクロウレンジャー、グリーンの煉だった。
腕で囲われながらも未愛は悪い魔法使いらしい台詞を述べようとステッキを構える。
「ククク!そちらからノコノコと現れるとはな…クロウレンジャー煉よ!ここがキサマの墓場になるひゃふぁ!」
しかし間髪いれず煉が未愛の耳をぞろりと舐めてきたので、背中がぞわりと逆立った。
そのまま彼はぴちゃりと音を立てながら舌で耳を攻めはじめる。
くすぐったさに耐えられなくなった未愛は慌てて身をよじった。
「ひゃあは!やめ!ひぇは!」
「耳弱いんだなー覚えとこ。あと、クロウレンジャーってまじやめてくれ、完全課長の趣味なんだよ」
「そんなものは知らぬ!クロウレンジャーはクロウレンジャーだろ!このグリーひゃっああん!」
耳の穴にも舌を差し込んできて未愛は背中がぞわぞわとする。
「俺の言う事聞かないと、もっと色々するぞ?」
「ひゃはは!わかった、言わないからやめっひやぁ!」
未愛が了承するとやっと彼は耳を舐めるのを止めた。しかし腕は解かない。
「ええい、どかんかっ!」
「魔法で攻撃されると分かってて手を離す馬鹿がどこにいる?お前、妙な魔法使ったらまた耳舐めるぞ」
脅しのように耳をかぷりと噛む。その刺激に未愛は肩をびくんとさせた。
「やめっ…」
「くく…色々敏感そうだなぁミア。耳だけで力抜けてどうするよ。…で、ここで何してるんだ?」
耳舐め攻撃に疲れ果て、くたりと脱力した未愛はつい、企みを口にしてしまった。
「落とし穴を作ろうとしていたのだ…」
「落とし穴?」
「お前達を地獄の底に突き落とすために…」
「ほぉ、地獄の底ねぇ」
彼の馬鹿にした物言いで未愛はハッと我に返る。
「とっとにかく離せ!」
「拘束が解きたかったらそういう魔法使えば良いじゃん」
「ええっ!?」
思わず彼の腕の中で振り返った。
「……」
「……」
ぶろろー、と時々車が通り過ぎる音がする。
「お、お前が近くにいると、何もできないではないか!」
「?どういう事だ」
「だっ、だって、氷水を降らせたら私にもかかるし、風で飛ばせば私も飛ばされてしまう」
「…なるほど、な」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべて彼は笑った。
ぞくりと未愛の背中に怖気が走る。今、とんでもない失言をしてしまわなかったか。
「つまりミアは、真近くに標的がいると、自分もその魔法の被害に合う…個人攻撃じゃなくて、範囲攻撃なわけだ。ふぅん、いい事聞いた」
「はう、しまった!!」
「確かにミアの魔法は万能じゃないな。ただ空を飛ぶみたいに自分自身にかける魔法は別なのか」
「ばれただと!?」
目を細めてニヤニヤと笑う男はどう見ても正義の味方ではない。どちらかと言うと、この男のほうが悪人のような雰囲気だ。
「ミアちゃんってアレだな」
「…あれ?」
「頭弱いっていうか…若干バカっていうか」
「!!!!」
未愛の頭が沸点を越える。
真近くに標的がいるのも構わず未愛は思いを込めてステッキを振った。
「土と共に…」
「あっミアちゃーん。こんなところにいたの~」
甲高い声で未愛の集中が途切れた。
後ろを振り返ると丁度警察署の近くに翔と綾が立っている。
未愛はわたわたと煉を見上げて腕をばたつかせた。
「しまった!ばれたじゃないか!!」
「うん、俺が見つけた時点で負けだけどな」
煉は未愛を抱きしめたままよっこらと立ち上がり、そのまま小脇に抱えて警察署に向かう。
「!!は、はなせー!」
「さっきぶり、お前ら。俺ちょーいい情報聞いたぜ」
彼女の腰は彼の腕一本で抱えられて、しかも翔達から見れば未愛はお尻を向いている。
腰をひねって未愛は前に向いた。
「きさま!悪の総統に対してこの扱い、もうちょっと敬え!お前より偉いんだぞ、私は」
「でも俺一応正義の味方だから。悪者に対してならこれくらいの扱いで丁度良いんじゃないか?」
「くっ…なめるなよっ!地よ潜れ!」
小脇に抱えられたまま未愛が思いを込めて言葉を紡ぐと、煉の足元に穴がぼかりと空いた。
「チッ」
「とうっ!」
足元に穴が開いてバランスを崩した煉は舌打ちをしながら体勢を整える。
その間に未愛は彼の腕から離れると、いつもより長めに間合いを取ってステッキを構えた。
「ふっ…風よ舞え!」
今度こそ思いを乗せて言葉を高らかに告げる。
すると煉、翔、綾の周りにふわりと風が舞ったと思うと、そこだけ台風になったように彼らは宙を浮き、警察署の壁に向かって飛ばされる。
しかし煉と翔は宙に浮きながらくるりと一回転して壁に足をつき、更に翔は片手で綾の身体を支えて勢いを殺し、トン、と地に足をつける。
「なっ…!」
壁にぶち当てるつもりで風の魔法を使ったのに、難なくあしらわれて未愛は驚愕の表情を浮かべる。
「ほぉ~俺に盾突くとはいい度胸だなぁ?」
「何を言うかっ!お前は敵なんだから攻撃するのは当たり前だろうが!」
煉が凄みのある笑みで未愛を睨むと、少しだけ未愛はひるむ。
あの人は正義の味方だというのに、どうしてあんなに目つきが悪いというか、悪人面なのだろうか。
ちなみに顔でいうなら翔は可愛い系の優しそうな男性で、綾は綺麗で大人な女性だ。
一見優しそうな翔はにっこりと笑った。
「だめだよ?ミアちゃん。おいたはほどほどにしないと…煉に襲わせちゃうぞ♪」
「下品な正義の味方ねぇ…」
綾が呆れた目をして翔を見た。
構わず未愛がもう一度別の魔法を唱えようとステッキを振るった時、突然真後ろから声かけられる。
「ミア」
「ひゃい!!」
思わず飛び上がって後ろを振り返ると、昴が見下ろしていた。
彼は、背が高い。190くらいありそうだ。そして身体も大きいので壁のようだと未愛は思う。
そんな壁が真後ろにいたのだ。驚かないほうがおかしい。
しかし彼は身体の大きさの割に声が控えめだ。静かに男は聞いてくる。
「ミア、昼飯は何を食べたんだ」
「はっ?」
思ってもみなかった質問をされて未愛はキョトンとした。
するといつの間にか未愛の隣に移動してきた煉が「そういえば」と声を出す。
「お前さっきなんか食べてたけど、あれが昼飯?何食ってたの?」
「な、なんでもいいだろ。あっきゃ!ひゃあ!」
煉がまた抱きしめて耳を食みはじめた。
「言う事きかないと舐めるつっただろ」
「ひゃははっやめろぉ!ほ、干し柿だっ!干し柿!」
「干し柿ぃ?」
彼は彼女の耳元で呆れたような声を出す。
未愛は何とか煉の腕を潜り抜けて逃げようとした。しかしぬっと大きな手が出てきて未愛の行く手を阻む。
それは昴の手だった。
彼は未愛の手首を握ると、じっと見つめてくる。思わず未愛がたじろぐと彼は控えめに口を開いた。
「それはよくない。ミアのような育ち盛りはもっと食べなければ」
「よ、よけいなお世話だー!…っ!光よ雨と降れ!」
ぶんぶんとステッキを振って、未愛はとても魔力を使う魔法を行使した。いわゆる必殺技の一つだ。
未愛の周りから眩しい程の光を発した天使の輪のようなリングがぶわっと出現し、それが空中にふわりと浮かび上がったかと思うと光の粒が雨となって地面へ落ちていく。
「へぇ~」
「わぁ!」
「キレーイ!」
「光の…雨か」
4人がその幻想的な情景に目を奪われているうちに未愛は空中へと逃げ出す。
そして空から仁王立ちをして自慢げに腕を組んだ。
「見たか!これが暗黒大魔法の一つ。『ソーラスシー』だ!」
「そーらしど?」
「ソーラスシーだっ!光と妖精って意味だ!ちゃんと辞書引いて考えたんだぞ!」
「お前、微妙にネーミングセンスないな。前のドリーなんとかとか」
「ドリーオハトだっ!」
煉と掛け合い漫才のような会話をしているが、未愛は至極真面目に怒っている。しかし唐突にバっと彼女は空中でマントを翻した。
今度はスカートの中が見えないように微妙に距離を置いている。
「とにかく…っ今日はこの位にしてやろう!次に会う時がキサマらの終わりだ」
「おお、あの大魔法とやらは逃げる為だったのか、『大』魔法が泣くぞ」
「うるさいうるさーい!一日でこんなに魔法を使ったのは初めてなのだ!だから魔力が…あっ」
「…魔力が?」
煉が意地悪そうな声を出してきて、未愛は「うっ」と目をそらす。
「あぁ、もしかして…ガス欠ならぬ、魔力欠?」
翔の言葉に未愛は図星のような顔をする。
「ち、ちがーう!そのこれは、その…うわーん!覚えてろー!」
殆ど虐められっ子みたいな捨て台詞を吐いて、未愛は半泣きで飛んでいった。
「あーあ、泣かせちゃった。翔だめよ?あんまり虐めちゃ」
「いやぁ~何てわかりやすいんだろう。イジメがいがあるなぁくふふ」
綾の言葉に、煉と負けず劣らず悪人のような笑みを浮かべて翔は含み笑いをした。
「…しまった。まだまだ夜は寒いから、暖かくして寝るよう言おうと思っていたのに」
「昴はすっかりお兄ちゃんだなー」
彼女が去った方向に向かって心配そうな声を上げる昴に、煉がポケットに手をつっこんで笑う。
「ん?そういえば岬は?」
「デートに走ったわよ。あいつ今日は特に機嫌悪いと思ったら、4年遠距離やってる彼女とのデートだったんですって、そりゃ機嫌も悪くなるわよね」
「あぁ…よく遠距離なんて続くな。尊敬するよ俺は」
かちん、と煉がジッポで煙草に火をつける。
「じゃあ、岬以外揃ったし、一応正義の味方初出勤だから、課長に報告していこ?」
翔が提案して、皆もそのつもりだったのか一様に頷き、警察署に入っていった。