3.正義の味方との邂逅
「誰だっ!」
振り返った未愛は声の主に吼える。
そんな彼女をニヤニヤと見下ろす男がいた。
「ん、俺?正義の味方だよ。そういうお前は、悪の総統なんだろ?」
「うむ、いかにも…。…ッ!なんだとッ!?」
未愛はバッとゴミ袋を投げてから後ろへ走り、男と間合いを取る。
そしてすぅ、と息を吸い込んだ。
「貴様何者だっ!」
ビシッと指を指す。男はのんびりとした風でズボンのポケットに手を入れていた。
「さっき言ったけど。聞いてた?」
「違うだろ!こういう時はお前は「このような悪事を見逃すわけにはいかん!」とか言うものなのだ!」
「へぇ。でもお前今ゴミ拾ってただろ?あんまし悪事にも見えなくてさぁ」
「お前はタイミングが悪いのだ!さっき私は自分の野望の為、一般市民に危害を加えたばかりなのだぞ!その時に来ればちゃんと悪事が見れたのだ!」
「あぁごめんごめん、ちょっとコンビニ寄ってたから」
あまりのやる気のなさっぷりに未愛は憤慨する。
こんなのは聞いていない。父の話す我らが敵「正義の味方」はこんな奴ではなかったはずだ。
「お前っやる気があるのかー!正義の味方なんだろうが!」
「うんまぁそうなんだけど。じゃあお前さんは悪の総統ってことで間違いないのか?」
「くくく…よくぞ聞いたな!」
未愛はばさりとマントを翻した。裾が長いので、頑張って力を入れて翻しても裾は地面についたままだから少しだけ格好悪い。
「私は悪の組織ゲアラハの総統!暗黒の魔法使い、大成未愛だー!」
決めポーズもしっかりつけて、未愛は名乗りを上げる。
男は「おー」と言いながらぱちぱちと拍手をした。
「ちゃんと練習してんだなぁ、偉いぞ。でも俺も色々悪の総統について聞いたけど、普通コードネームとか、偽名使ってるよな。それ本名?」
「うっ!?しまった!!」
コードネームはちゃんと考えていたのに、つい本名を名乗ってしまった。
「違う!ちゃんと考えてあるぞ、コードネームは…ええっと……。そうっ『ドリーオハト』だ!」
「ふーんそうか。まぁよろしくな、ミアちゃん」
「ミアって呼ぶな!ちゃんとドリーオハトって呼べー!」
はぁはぁと息切れする。さっきから叫んでばかりで未愛は疲れてしまった。
思えばこんなに大きな声ばかりを張り上げたのは初めてだ。世界征服も楽ではない。
「ああ、疲れた?そりゃそんだけ叫んでれば疲れるよな。珈琲飲む?」
「敵からの施しは受けん主義だっ!それよりお前も名乗らんかっ」
「んーそうしたいのはヤマヤマだけど、まだ人数揃ってないっつぅか」
未愛はハッとした。そうだ、この「正義の味方」は一人ではないはずなのだ。
父の話では必ず正義の味方は群れる。何人かはわからないが――。
彼女が昔聞いていた話を思い出そうとしていると、男の後ろから何人かの男女がやってきた。
「煉、ごめんねー。ちょっと携帯ショップ寄ってて」
「休日出勤なんて本当、勘弁してほしいわよね」
「ってなんかもうそれらしいヤツがいるじゃないか!お前連絡するのが遅すぎるぞ!」
「すまないな。俺も当直明けだったから寝ていたんだ」
男が3人、女が1人。さっきまで話していた男を合わせると男4人に女1人の合計5人だ。
バッと未愛はステッキを身構える。
「何奴だっ!!」
「いやそれさっき…」
未愛が仕切りなおしとばかりに彼らに名を問うと、さっきまで話していた男がツッコミをかける。
しかしそのつっこみは、後ろから来た一人の男に阻まれた。
「お前の悪事、見てはいないがきっと悪い事をしていたのだと想定して言わせて貰おう!とにかくキサマを見逃すわけにはいかないっ!俺達は正義の味方、クロウレンジャー!レッドだ!」
ばーん、と未愛と同じようなノリで男が返してきた。
思わず未愛は「おお…」と感嘆の声を上げる。これだ、このノリを求めていたのだ。
しかしそのノリを維持してくれるのはそのレッドと名乗る男だけで、残りはそうでもなさそうだった。
「だからその、なんとかレンジャーってまじやめて。あ、私ピンクね。でもこの年でピンクとか言われたら恥ずかしくて死にそうだから「綾」って呼んでね」
「はじめましてー僕イエローです。ほら、このジャケットに黄色のプレートついてるでしょ?これで判断するといいよ。僕も「翔」って呼んでくれたほうがいいな」
「…俺は何色だったかな。…そう、青だ。「昴」でいい」
次々と挨拶され、未愛はおたおたと慌てる。
「まっ待て!そんな急に話し出すな!ええっと…れっど…と、アヤと、しょう…と、すば…る?」
「アタリ。ちなみにそこの赤いプレートの男は「岬」って言うんだ。そんで俺が「煉」。ジャケットのプレートが緑だろ?」
「なるほど、翔が言っていたように色の区別はプレートでつけるのだな」
煉が未愛に近づいてプレートを見せてくるので、自然と未愛も近づいてまじまじとプレートを見る。
「ほう…ちゃんとクロウレンジャーと書いてあるじゃないか、プレートに」
「ああ~これね、俺達の上司みたいなヤツの趣味なんだわ。こういうノリ好きでさぁ、参ったよ」
「本当、ネーミングセンス最悪よね」
煉の言葉に綾がうんざりしたような反応をする。
「お前達!不真面目なのもいい加減にしろ!これも仕事なんだぞ?休日出勤手当てがちゃんと出てるのだからしっかり働け!」
レッドのプレートを下げた岬が叱り始めた。
しかし他の4人はだらりとやる気がなさそうで、未愛は何となく岬が可哀想に思えてくる。
「そう言われたってな…あ、そうだこの子は大成ミアちゃんって言うらしいぜ?」
「ミアちゃんって言うなぁ!しかも私の自己紹介をすっとばして勝手に紹介するなっ!」
「まぁいいじゃん。で、どうするの、戦うの?」
「うっ…戦ってもいいが、少し待て」
本当ならすぐにでも悪の総統として戦わなければならないが、未愛にはまだ用事があるのだ。
煉が不思議そうに未愛を見てくるので、彼女は後ろに放り投げたゴミ袋を見た。
「不届きな連中がこれを片付けずに逃げてしまったのだ。これを片付けてからにしても良いか?」
「ん?いいけど。何があったの、これ」
イエローのプレートを下げた翔が聞いてくるので、未愛は説明することにした。
「朝からそこのスピーカーで大音量をかけ、ここで騒いでいた者たちがいたのだ。さらにゴミをあたりに撒き散らしていてな。腹が立ったので叩きのめしたのだが、奴らはこれを片付けずに逃げてしまったのだ」
「あーそれは迷惑な話だねぇ。ミアちゃん注意してくれたんだ」
「注意ではない!私の支配下でこのような景観を損なう事や安穏と生きる住民を脅かすような真似は許さぬ。だから私の世界征服の礎として贄にしてやったのだ!」
「ふぅん、でも偉いわよ、ミアちゃん」
翔に続いて綾もにこにこと笑ってきて、未愛の頭を撫でてくる。
「こら、気安く触るでない!」
ぶんぶんと頭を振りながら未愛はスピーカーを動かし始める。しかし重くて持ち上げる事が出来ない。
それを察したのか煉が近寄ってきた。
「手伝うか?」
「いらぬ!これは私の世界征服への足がかりなのだ。正義の味方に手伝わせるわけにはいかん!」
「じゃあどうすんの?これ、どう考えてもデカイしミアちゃんには重過ぎるぜ?」
スピーカーのセットは未愛の背ほどもあり、大きい。
しかし彼女は「ふふふ」と腰に手を当て、スピーカーの上によじ登る。
「フハハ!こんなモノごときで私が諦めるとでも!私は偉大なる暗黒魔法使い大成未愛なのだぞ!」
「なんかどんどん、名前長くなってね?あとまた実名名乗ってるし」
「ああっ!ど、ドリーオハト!」
「もういいじゃんミアで。ミアのほうが呼びやすいだろ。ミアミアー」
「ミアミアみあみあ言うなぁ!とにかくっお前達は指をくわえてみているがいい、私の歩む覇道をっ!」
スピーカーの上でステッキを振る。思いを込めて言葉を紡ぐ。
「私と共に空を舞え!」
するとふわり、と未愛の周りに風が吹き、未愛とその周りにあるスピーカー、そして彼女の真近くにいた煉までもが宙に浮いた。
「おわっ…と」
「おーすごい!煉が浮いてる!」
少し慌ててバランスを取る煉を見て、翔が面白そうに反応する。
「…初めて見たな。これが話に出ていた『魔法』か」
「課長から聞いたときは頭沸いたのかなこのオッサンって思ったけど、本当だったのね」
昴がぼそりと呟き、綾が目を丸くして驚いた。
「お前らな!なにこの娘の言う事聞いてるんだ!さっさと戦って片付けるぞ」
「このへんに固めて置いて、警察に電話しておけば落し物として処理してもらえるだろうか」
「ああ?そこでいい。てか俺達も警察官なんだからこっちで連絡してやるよ!だからさっさとしろ!」
岬がイライラと怒っていると、ふわふわと未愛がスピーカーと煉を連れて飛んでいく。思わず彼は未愛に指示してしまった。
「…警察官だったのか。なるほど、正義の味方にふさわしい職業だな…了解した」
岬に言われた通りの場所に固めて地面に下ろすと、未愛はそのままサンシェードまで歩いて近づき、また魔法を唱える。
「私と共に…って、なんで一緒についてくるんだ」
未愛の後ろには先程スピーカーと共に地面に下ろされた煉と、更に岬以外の3人までもが彼女のすぐ後ろにいた。
「いやほら、何事も経験っていうか」
「そうそうっ」
「…俺も宙を浮いてみたい」
「俺もういっかーい」
「こら!私の魔法は世界征服の為に使われるのであって、お前達のおもちゃではなーい!」
腕をぶんぶん回して怒ると、「まぁまぁ」と煉がなだめてきた。
「ほら、早くやらねぇと岬が待ちくたびれて帰ってしまうぞ?それでもいいのか?」
「…くっ!」
敵を見逃すなど不名誉な事はできない。仕方なく未愛はステッキを振った。
「私と共に空を舞え!」
サンシェードと一緒に4人もふわりと浮かぶ。
4人は様々な反応をした。泳ぐ真似をしていたり、足を上げてみたりと実に楽しそうだ。
むすっとした顔をしながら未愛は4人とサンシェードをスピーカーの所へふわふわと運ぶ。
「ねぇミアちゃん、この魔法ってどうやってやるの?私と共に~とか言ってたけど、あれを言えばミアちゃんは空を飛べるの?」
興味津々といった風に翔が聞いてきた。未愛は「違う」と首を振る。
「言葉に決まりはない。私がしたい事をイメージして、思いを心に込めるんだ。そしてその思いを言葉にすると魔法が成立する」
「成程、集中して言葉に出す事が必要なのだな」
宙を浮き、あぐらをかいて腕組みをしながら昴が頷く。
「ミアちゃん、それってどんな事もできるの?」
綾も聞いてくる。未愛は真面目に答えた。
「イメージと思いが固まればな。だが基本的に私は父から教わったイメージしか想像できない。…時間をかければカタチにはできるだろうが」
ふよふよと浮いてやがてスピーカーの所にたどり着き、4人とサンシェードを下ろす。
そして未愛は更にステッキを振った。
「解体せよ」
すると、サンシェードの骨組みが勝手にぽろぽろと取れ、綺麗に畳まれる。
後ろで見ていた4人が「おおー」と拍手した。
「その魔法便利すぎだろ。俺もほしい」
煉が顎を撫でながら物欲しそうな声を出す。
「ククク、残念ながらお前達のような只人には一生無理なのだ。この技は我らだけのもの。血の力が必要なのだ!」
ばさりとマントを翻して仁王立ちをし、未愛はニヤリと笑った。
「なるほど、遺伝みたいなものなのね」
綾が納得したように頷く。
「さて、お遊びはこれまでだっ!」
ステッキを振って未愛はふわりと飛ぶと、5人から少し離れて着地する。
「さぁ待たせたな!これからキサマ達を地獄の釜に突き落としてくれようっ!」
「なぁその、ステッキ振るのは意味あんの?」
煉の一言に未愛がガクッと肩を落とす。
「だーかーらーっ!もういいだろ!ステッキはお父様に「魔法とはこうやるものだ」って教えられたのだ!」
「…そういう趣味を持ってたのね、あの人」
ぽそりと綾が呟いた。
しかしやっと未愛の作業が終わったのかと岬が進み出る。
「あーもー、さっさと終わらせるぞ!おいミア、お前のような存在が非現実的で世界征服を企むようなヤツは放っておくわけにはいかない。捕まえて、こんな下らない茶番を終わらせてやる!」
そう言うなり、岬が懐から警棒のようなものを取り出し、未愛に襲い掛かった。
しかし未愛はフッと笑うとステッキでその警棒を受け止める。
カン、という音がして岬の動きが止まると未愛は魔法を紡いだ。
「地よ潜れ!」
すると岬の足を支えている地面がボコッと音を立てて穴を開ける。
「うわぁ!?」
バランスを崩して尻餅をつく。しかし岬はすぐに起き上がり、警棒を未愛の腹に突いた。
「うぐっ…!」
「あんまり女にこういう事はしたくないが…!」
岬が警棒のスイッチを押すと、未愛の体にビリリと電気が走る。
「きゃぁ!」
慌ててステッキを振り、空を飛んで岬から離れる。
体はまだピリピリとしており、未愛の髪は静電気でゆるく逆立つ。
「くっ…文明の力に頼ってからに!」
「本当に話に聞いた通りだな。普通スタンガンくらったら倒れるぞ?」
「フハハ!我ら世界征服の為に戦いはつきもの!そのような攻撃など防御結界でさほどにもない!」
「めんどくせーヤツだなぁ。てかお前ら手伝えよ!」
岬以外の4人は後ろに控えていて、全員動く気配がない。
昴は腕を組んで二人の戦いを観察しているが、翔は携帯をぽちぽちやっている。綾は何故か「ミアちゃんファイトー」とか言っているし、煉はコンビニの袋から煙草を取り出して吸っている。
「お前らなぁ、課長に言うぞ?」
「しょうがねぇなー減給されたら困るし、さくっとやるか」
流石に告げ口は困るのか、煉が煙草を咥えたまま一歩踏み出す。
ステッキをぎゅっと握って身構える未愛を見据えながら煉は「ほい」と軽く言って岬に咥えていた煙草を渡した。
「お前、消しとけよ!」
「携帯灰皿忘れたんだよ。持っといてくれ」
そう言うと、未愛に向かってのんびりと歩いてくる。
明らかになめきっている態度に未愛はムッとした。
「お前のような腑抜けには氷水を食らわせてくれる!…氷と共に…ッ …!?」
未愛が言葉を紡ごうとした所に、煉がダッとスピードをつけ走ってくる。
一瞬で距離を詰められ思わず言葉を失ってしまうが、構わず煉は彼女の頬を手で挟み、唇に口付けた。
「…!?!?」
唇を完全にふさぐような深いキスをされ、未愛の頭が一瞬まっしろになる。
慌てて煉の背中をぽかぽか叩いたり、押したりしてみるが全く動いてくれない。
「んーっんんっんー!」
息ができなくて苦しい。未愛は空気が吸いたくなるのに煉は全く許してくれず、角度を変えてまた深く口付ける。
「んんー!?」
上唇を食み、軽く下唇を撫でるように舐め。
ちゅ、と小さく音がしたと思えば未愛の小さな唇を食べるように煉は唇を重ねてくる。
やがて彼女がその行為に頭がクラクラしてきたところで、彼はやっと未愛を開放した。
「これで一件落着か?」
「ふぁ…」
唇を解放されても頭がついていかず、ぼうっと煉を見ていたが、手首が動かない事に気づいて未愛はハッと我に返る。
「なっ…て、手錠!?いつの間にっ!」
「お前が俺のチューで感じてる間にちょいちょいっとな」
「何て非道なことをー!!」
手首を手錠で嵌められたまま、未愛は後ろに跳んで煉から離れる。
「キサマそれでも正義の味方かっ!なんて非人道的なことをするんだこの馬鹿者ー!」
「はぁ?だってお前、集中して言葉言わなきゃ魔法使えないんだろ?だから唇を塞いで、遊んでやったら集中できなくなるかなーと思ってな」
「なっなんという…っ!!なんというふしだらな方法を…っ!」
未愛の顔は真っ赤になっていて、肩はぷるぷると震えている。悔しくて涙がにじんできた。
それを見て翔がぽん、と手を打つ。
「あれ、もしかしてミアちゃん今のファーストキスとかだったの?」
「あらまぁ」
綾が手を口に当て、驚くような仕草をする。未愛は泣きそうな顔をして喚いた。
「当たり前だこの馬鹿!こんなのした事ない!する機会なんか皆無だろ普通!」
「おお、そりゃすまんかったな」
ゴメンゴメン、とかるーく謝られて、未愛は手錠をガシャガシャ鳴らしながら怒った。
「そんな軽いノリで謝られても嬉しくも何ともないっ!責任取れこの馬鹿!」
「責任って、結婚でもすりゃいいの?」
「けっけっ…結婚!?そんな事は言っていないっ!…風の刃よ舞え!」
今度こそ思いを込めて言葉を紡ぐ。
すると未愛の手錠が紙のようにサクサクと切れて、地面に落ちた。
「おーそんな真似もできるのか。失敗したな」
「私をなめるなよ。こんなアルミの手錠ごときで私は捕らえられぬ」
「そうみたいだな、次はもっと強固な首輪でもかけてやろう」
ニヤリと煉が笑う。
その笑みは、未愛がずっと練習してきたニヤリという笑いと全然ちがっていて、およそ正義の味方には見えないくらい邪悪な笑みだった。
「つ、次はないと思え!今日はこのくらいで勘弁してやろうっ!」
殆ど捨て台詞のような、ある意味悪役にふさわしい言葉を吐いて、未愛はゴミを入れた袋を持つと魔法で空を飛ぶ。
煉がニヤニヤとしながら未愛を見上げた。
「お、逃げるの?」
「戦術的転進と言えっ!作戦を立て直してくるのだ!」
「そうかぁ、次に会える時が楽しみだな。どうでもいいけどパンツみえてるぞ?」
「キャー!見るな!」
5人の丁度真上に飛んでいたので、未愛は慌ててスカートを手で押さえる。
「白かぁ、フリルにレースリボンもついてて可愛いね」
「ああいうのって、若い子だけの特権みたいな下着よねぇ」
うんうん、と翔と綾が下着談義を始めてしまい、未愛は肩を震わせる。
「…ミア」
ぼそり、と昴が声をかけてきた。彼はあまり喋らないし、未愛を特に怒らせた人でもないので素直に見下ろすと、彼は組んでいた腕を外して未愛を見上げた。
「少し身体が小柄で細身なように見える。昼飯はちゃんと栄養のあるものを食べるんだぞ」
「そ、そんな心配は無用だー!!」
逃げるように未愛はぴゅーっと空を飛んで行った。
残された5人は河川から彼女を見送る。
「…ああ、面白かった。この仕事最初は嫌だったけど、ミアちゃん相手なら全然いいかも」
にっこりと翔が言う。
「そうよねぇ、今時正義の味方、5人戦隊?なんてテレビの特撮だけにして欲しいと思ってたけど、私も翔の意見に賛成。ミアちゃん可愛いわ」
綾もうんうんと頷く。
「…あいつは、確か…一人なんだろう?家族もいないと聞いた。…ちゃんと飯を食べているんだろうか」
昴は真面目に彼女の心配をする。その姿はまるで兄のようだ。
「お前らなぁ…俺は早くこの仕事終わらせて、普通の業務に戻りたいの!せっかく「先代」が死んだってのに…なんですぐに後釜が来るんだよ」
岬はイライラとしている。彼だけは彼女に好意があるとかは関係なく、ただこの「正義の味方ゴッコ」を終わらせたい一心だ。
「それにしても、煉。別にキスまでする必要はなかったんじゃない?手でふさぐとか方法はあるのに」
不思議そうに綾が煉に聞いてきた。
彼は岬から煙草を受け取って残りを吸い始める。
「そうそう、明らかにミアちゃんそういう経験ゼロっぽいのに」
「んんー何となく?ちょっと気に入ったし。俺は気に入ったもんはとりあえず手に入れとく派なんだ」
「駄目よ?弄んじゃ。彼女はまだ未成年なんだから」
少し嗜めるように綾が言ってくるが、煉はニヤニヤ笑いながら空を見る。
「ふ…じゃあ弄ばないように、ちゃんと手に入れてみるか」
「本気なのか?」
昴も聞いてくる。彼はいつの間にか未愛の兄のような立ち位置に自ら収まっているようで、彼女を心配しているようだ。
「あ、ヒドイ。俺わりとちゃんと手に入れたら大事にするタイプだぞ?」
「…ならいいが」
「それならいいわね。どうせならミアちゃんをこっちに抱き込めばいいのよ。そしたら世界も平和になるし、私達も通常業務に戻れるわ」
綾の提案に、翔が「いいねそれ、名案!」と拍手する。
「そうしてくれるなら俺もありがたい。俺こそ早く通常業務に戻りたいんだ。お前らもこれからはちゃんと真面目にやれよ?」
岬の言葉にはいはーい、とやる気がなさそうに返事をする3人。昴は黙ったまま頷いた。
「こちらに抱き込む…か、それは確かに面白そうだな」
スピーカーやサンシェードを落し物として連絡し始めた岬を見ながら煉はくすりと笑った。