犬に絡まれる。
朋が走っていると、一方通行の細い道路の真ん中にブルドッグが座っていた。
彼女は犬はTVで見る分にはかわいいと思うが、怖いからその場にはいて欲しくないというタイプの子だった。
朋はブロック塀に張り付き、そっと、そっと、ブルドッグの横を抜けようとする。
ブルドッグは彼女の怪しい動きを追いかけるように、顔を移動させる。
『こわいよー。』
ブルドッグは口を開く。
「こら、そこの小娘。失礼でしょ。」
「あう、しゃべった。」
「私が見えてるんだろ。まるで汚い物を露骨に避けるように。」
「ごめんなさい。犬さん怖くて。」
「怖いなら引き返すとか、あるじゃん。」
「うー。それは思いつかなったのです。」
「あんた見えているなら、私と一緒にご主人探しを手伝いなさい。」
「ええ、イヤです。」
「ワガママ言うんじゃありません。」
「ワガママ言って無いもん。」
「そんな事言っているとずっと、何日もあなたの後ろ着いていきますよ。」
「あうー。それはイヤなのです。」
朋は渋々犬の要求を呑んだ。
「何処に行けばいいですか?」
「知らない。それを知っていれば、あなたになんて頼らない。」
「ぶー。それじゃあ、どうしようも無いのです。」
「私の首輪の裏に住所が書いてあるから、そこに連れてけばいいのよ。」
「あうー。触るんですか?」
「私が首輪取れると思うの?」
「むりそうなのです。」
朋は恐る恐る、ブルドックの首に触れ、首輪をはずす。
首輪を確認すると、学校よりちょい山に入った処の住所だった。
「わかりました。着いて来てください。」
そういって、朋は学校の方向へ向かう。
「こら、小娘。私を抱いて行きなさい。歩きつかれて動きたくないの。」
「ええー。怖いです。」
「暴れたり噛んだりしないわよ。」
朋は渋々、犬を抱き上げる。ちょっと重い。
「うー。少し重いです。」
「私、これ以上存在を薄くできないから。軽くはなれないわよ。」
「存在を薄くすると軽くなるんですか?」
「軽くなるよ。」
「へぇえ。」
朋はブルドックを抱きかかえながら、歩き始めた。