7話はじめ
近藤ジェミニは、昼休みになって直ぐに早退していた。
当然、自分の派閥の人間が美由に暴力を振るった事など知るよしもない。
彼女は黒塗りの高級外国車の後ろの席で、本を見つめていた。
『この本はリスクが高すぎる。』
そこに、突然、携帯が振動しはじめた。
相手は自分の派閥のNO2の女性だった。ジェミニは通話ボタンを押し携帯に出る。
「どうしたの?え?派閥の子達があの女へ暴力?そう、須王寺さんが割って入って事なきを得たの。」
ジェミニは携帯を切り、強く握り締めた。
『本の効果が強く出すぎたのか・・・。あの女へはどうでもいいけど、須王寺さんに迷惑をかける結果になった。もう、この本を使うのはよそう。リスクが大きすぎる。このままいけば、私の派閥が壊滅してしまう。それは避けなければならない。』
ジェミニは、ある1シーンを思い出す。それは、朋が本を握った時に見えた輝きだ。
「なんだったのかしら、あれ・・・。」
放課後、朋は走っていた。
赤いジャージに、長くて細いストレートの黒髪を一本に束ねている。結んでいる位置から下はあまり膨らみが無く、一本の線の様になっている。そのポニーテールを左右振りながら走っていた。
相変わらず、歩く様なペースで走っていたが、初日みたいに直ぐにバテるという事は無くなった。でも、他の人に比べればまだまだ、バテるのが早い。
『美由先輩が言った通りやって、距離が伸びているのは実感出来て、達成感はあるけど、まだまだ全然駄目だ。あうー。』
朋が道路の真ん中で足を止め、ぜいぜい言っていると。
ブロック塀から、傷だらけの黒猫が降りてきた。
「これは、これは、魔法少女様。何をしているのでしょう?」
「ぶー。見て分かりませんか?体を鍛えているのです。」
「そうなのですか。あまりにゆっくりだったので。」
「良いんです。美由先輩に教えて貰った方法なので、しかも、ちゃんと、成果が出てるんですよー。」
「何かそういう風には見えませんが。」
「あうー。他の人と比べるとそうですけど。運動神経0の私的には物凄い進歩を遂げているのです。」
「なるほど。そう言えば、もう一人の魔法少女様なんですが。」
「美由先輩がどうしたんですか?」
「学校の昼休みに複数の女子に囲まれて暴力を振るわれたそうですよ。魔法少女様は一切抵抗しなかったとか。」
「ええ。美由先輩大変なのです。怪我とかしてたら大変。」
「あの方が、もし怪我をしても、自分で治せるので問題ないと思いますが・・・。」
「そういう事ではないのです。あの綺麗な顔に怪我の跡なんてついたら私が困ります。美由先輩怖かっただろうに。」
「大丈夫ですよ。もう一人の魔法少女様はあれ以上の修羅場を幾つも抜けているので、ロクに鍛えもしてない女子数人に囲まれたからといって、恐怖に感じる事はないでしょ。私が聞いた話では平然としてたらしいですよ。」
「気丈に振舞ってたんですね。」
「そうでも無い様ですよ。何も反論もせずに、されるがままだったみたいです。その時、あなたの学校の派閥の一番目の長の人が助けが入り、その場はおさまったそうですよ。」
「須王寺おねぇえ様が・・・。後でお礼を言わないと。」
「言っても迷惑なだけだと思いますよ。」
「ぶー。さっきから否定ばかり。」
「すいません。こういう性格なのもので。」
「私、行きます。サボってたら、勉強する時間が足りなくなるので。」
「頑張ってください。」