6話終わり
裁縫中に桐野が話し始める。
「それにしても、彼女達もバカね。集団で、あんな強引に一人の女性を引っ張って来れば、完全な拉致監禁よ。」
「私が拒否したので。彼女達も仕方なかったんでしょうね。」
「文句があるなら、人前であろうと、直接言えばいいのよ。来る事を拒んだ桜間さんの判断は正しいわね。」
「そう言いながら、それを見ていた桐野さんは満面の笑顔でスルーしましたよね。」
「だって、あのままで終わらすと、警察に行っても相手にしてもらえないでしょ。どうせなら、相手にしてもらえる位に酷い状況になるまで放置しようと思って。」
「酷いですね。」
「あら、あの時、あなたって、随分余裕そうだったわよ。それに、関わるなって顔をしてたから。別にいいじゃない。」
『確かに、暴力沙汰になる可能性もあったから、あの時は、そうだったなぁあ。』
「それにしても、脅すだけならともかく、問答無用で暴力とはねぇえ。脅すだけなら口裏を合わせれば何とか逃げられるだろうけど、暴力となるとそういうわけにもいかないから。それに服を破いて、写真をインターネットに公開して、証拠を残すなんて自分達で退路を断っているのと同じよ。もし、これが問題になれば良くて全員、長期謹慎、下手すれば退学よ。」
「あそこで、須王寺さんが入ってこなかったら、桐野さんはどうしたんですか?」
「先生を呼び行ってたでしょうね。でも、随分余裕そうだったら、もう少し、見てたわね。」
「桐野さん。桜間さんは女の子なんですよ。顔に傷でもつけたら大変でしょう。そんな計算ばかりでなく、もっと早く助けるべきです。」
「確かに。ごめんなさい桜間さん。」
「いえいえ。」
『私もほとんど同じ計算してたから、怒る気にはなれないなぁあ。』
裁縫が終わり美由は桐野のジャケットのボタンを止めた。
胸の辺りにシワがより、窮屈そうだった。
「あら、これは不愉快ね。おなかの辺りは問題無いのに、胸がそんなに窮屈そうなんて。」
この事から桐野は幼児体系であることがわかる。
「そんな。私、骨太なのできっと、横が広いために、こんなになるんでしょう。」
「まあいいわ、でも、それじゃあ逆に目立つから、ジャケットのボタンはずしたら?」
美由はジャケットのボタンをはずした。
ジャケットのボタンはキッチリ止める主義の美由は、自分が裸にされた様な、無防備さを感じてしまう。美由は少し前かがみなり、胸を隠す様なしぐさをする。
「桜間さん。恥ずかしがっていけませんわ。逆に胸に注目が集まりますよ。」
そう須王寺が言う。
「はい。」
「もっと、堂々としなさい。弱そうな態度をとったら、さっきの様につけこまれる元ですよ。」
「そうそう。堂々と王子様の様に凛々しくいなさい。どちらにせよ、もう、日陰には戻れないんだから、あきらめなさい。」
美由はシュンとした。
美由はこれまで、日陰の奥を進んで歩くタイプの人間だった。なるべく、日のあたる場所に居たくないと思っていたが、どうも、戻れないらしい。
自分で願ったわけではない。
どちらかというと、逆を願っていたのだが、皮肉なものである。
状況が勝手に進んだため、願いと真逆の方向へと追いやられてしまったのだ。