朋と本
休み時間、近藤ジェミニはトイレの個室の中にいた。
自分の左の人差し指の腹をみつめていた。
そこには、3ミリ程の傷があった。
本の力を発動するためには血が必要で、その血を本にあたえるために、自分でつけた傷だった。
彼女は針を取り出し、何の躊躇も無く、傷口に差してえぐり、本の表紙に指を押し当てた。
『これでよし。』
さて、今日はどんな、面白いモノが見れるかしら?
彼女は本を内ポケットにしまい、トイレを出ると、突然何かがぶつかってきて、尻餅をついた。
ジェミニはぶつかってきた相手を見る。それは朋だった。
朋は大量のプリントを一生懸命運んでいたが、そこらへんにぶちまける。
朋は慌てて立ち上がり、大きく一礼をして「すいません」と、言った後、すぐに這い蹲り、プリントを拾い始めた。
そこに、みなれない文字で書かれたカバーのとれた文庫本の様な本がある事に気づく。
それは、ジェミニの魔法の本だった。トイレで内ポケットにしまったつもりだったが、内ポケットに入っておらず、朋がぶつかってきた時に落ちたのだった。
朋がその本を拾うと、本が青白い光を放った様に見えた。
ジェミニは起き上がり、本を乱暴に朋の手から奪い、高い声でどなりはじめる。
「何なのあんた?私を誰だと思っているの?この学園で二番目の派閥の長よ。それをあの程度の謝罪だけなんて。」
「すいません。次の授業で配るプリントを運んでいたら。」
「私はそういう事をいっているんじゃないの。ただ、平謝りして、私に気遣いをせず、プリントを拾い始めてるなんて、どういう教育うけてるの?」
「すいません・・・。」
朋は泣きそうなっていた。
「何?泣くつもり?泣きたいのは私の方よ。自分が悪い事しといて何様のつもり?」
「すいません・・・。」
誰かが、駆け寄ってきて、朋とジェミニの間に割って入った。それは美由だった。
「ちょっと、近藤さん。出会い頭にぶつかったのはお互い様でしょ。彼女はちゃんと謝っています。幾らなんでもその言い方は酷すぎると思います。」
「な、なに、この私に口答えするつもり?」
美由は朋の顔を見る。
「朋ちゃん、いいからプリント拾って。」
美由のその言葉に我を忘れたジェミニは、美由の顔を平手で思いっきりはたいた。
「何、私を無視して、勝手に許可だしてるの。」
美由はジェミニの顔を見る。
「近藤さん。周りを見てください。人が見てますよ。」
ジェミニは周囲を見渡した。大勢の生徒が自分に冷たい視線を向けているのが分かった。彼女は「ふん」と言いながら、教室へと立ち去った。
美由は這い蹲り朋と一緒に、プリントを拾い始める。
「朋ちゃん大丈夫だった?」
「はい、迷惑をかけてすいません。」
朋は身を守るような感じだった。美由は朋の頭に手を置き、ポンポンと叩く。
「朋ちゃん。迷惑だなんて思ってないよ。私だって朋ちゃんに助けられているんだから。お互い様だって。」
朋は笑顔になった。
ジェミニは自分の机に座り、深刻な顔で考え込む。
『何?私があんな事を言うなんて?本の効果なの?でも、あんなに強い効果ではなかったはず。周りの人は自分をどう思ったか、少し想像をめぐらせればわかる。高慢ちきなイヤな女と思われたはずだ。これもあの女のせいだ。』