猫の話題
翌日になった。
6月である。衣替えの月だ。学園は中間服を推奨している月だ。
中間服と言ってもジャケットを脱ぐだけなのだが。
学園が推奨しているからと言って、皆が中間服に変わるわけではない。
すっかり、忘れているモノもいれば、趣向の問題で変えないモノもいる。
この学園の場合、冬服より中間服の方がカワイイので女子に人気がある。そのため中間服の入れ替えは早い。ただ、中間服より夏服の方が人気があるので、秋の方は中間服の時期が終わるまで夏服で通す子もいる。
そして、この時期の名物といえば、3年のスカートが一気に短くする人が増えるという事だ。5月はまだ、肌寒い日もあるので、するには早すぎるし、この学校では夏服と冬服のスカートは生地の厚みが違うだけなので、夏服を引っ張り出してミニにするのだ。1・2年がやると、目をつけられるのでやる人はほとんどいない。よって、3年生になったこの時期にミニスカデビューを果たす子が多く出るのだ。
美由は恥ずかしがり屋なので、ミニスカートなど論外なわけだが。
流石に美由のクラスは、トップクラスなのでミニにしている子は、ほとんどいなかった。
まあ、ファッションを捨てて勉強漬けになっている灰色の高校生の吹き溜まりの様な処なので、当然といえば当然なのだが。
派閥の長の一人がミニにしていた。近藤ジェミニである。
片奈にしろ須王寺にしろ、どことなく古風な考えがあり、ミニなど論外だという考えがあるのだが、ジェミニは違っていた。
だが、彼女はミニはしているが、冬服のままだった。
魔法道具の本を隠す必要があったからだ。だから、この時期恒例のミニデビューは果たしたものの、冬服という不思議な組み合わせになっていた。
朝のHRが始まる前、ジェミニが美由に話かけてきた。
美由は珍しい人に声をかけられたので、少しとまどった。もうひとつとまどったのは、ミニなのに冬服のままだという事だった。
「昨日の夜、学校の帰り道に車から、あなたを見たわよ。」
『夜?』
「はぁあ。どこででしょう。」
「国道よ。何してたの?」
「ああ、昨日、教科書が破かれたので、買いにいってたんですよ。それでけです。」
「あら、では、あの仲良く歩いていた、きったない黒猫はあなたのペットではないの?」
『黒猫?傷だらけの黒猫の事か・・・。おかしい。あの時は確か、人には見えなかったはず。』
「さあ、偶然私の横を通ったのかもしれませんが、ちょっと覚えてませんね。」
「そう。」
ジェミニは、美由にオカルト的キモさの噂を流すための材料に使えると思って聞いたのだが、シラを切られて心の中で舌打ちした。
『まあ、いい。ファッションのあのダサさだけでも、十分に使えるか。』
美由は彼女を良く見た。かなり大きな胸のラインの片方に何か四角いふくらみが見える。美由は文庫本かな?と思った。
鐘が鳴り、ジェミニは離れた。
美由は思った。
『おかしい。持久走大会の時に蛙主が見えていたのは私と朋ちゃんだけだと、蛙主は言っていた。前回の片奈さんの時は、彼女が呪いの指輪を使っていて見えないものが一時的に見えるようなったのではないか?と、蛙主から聞いている。
『彼女は存在が薄いモノは見えないはず。でも、昨日の傷だらけの猫は見えたと主張している。片奈さんの例を考えると、彼女も何か魔法的力を使っているのではないのか?』
美由は魔法の感知能力は無いに近い。
『まあ、いちいち調べててもしょうがないか。猫に言うと、彼女の身が危なそうだし。』