魔法少女ガラミン
美由は猫を探しのため、まず、学校の裏手にある排水路にやってきた。
排水路に沿って早歩きで歩きながら中をなめるように見ていく。
『いた。』
彼女が見つけたのは蛙だった。
美由は足を止め、その場にかがみこむ。
「かえるさん。かえるさん。三上の蛙主に、伝言を伝えて欲しいんだけど。」
三上というのは、持久走大会の日に会った蛙主がいた場所の地名だ。
蛙は、美由を見つめながら、おなかを一瞬膨らませ。「げー」と鳴いた。
「私のいる学園に、化け猫が現れた。一人、被害を受けた。猫を探すのを手伝って欲しい。特徴は茶色のトラ柄の猫。以上。」
それを聞いた蛙はお腹を激しく、膨らましたり、へこましたりして、鳴き始めた。
「お願いね。」
そう言って、美由は蛙の前から走り去る。
蛙はずっと鳴き続けていた。
美由は正直なところ、焦っていた。顔にも動きにもかなりの焦りの色を感じる。
実は倒れた女子生徒の様態を確認した後、すぐにでも猫を追いかけたいと、何度も思ったのだが、どうしても、彼女のそばから離れる事が出来なかった。
突然、倒れて、意識がハッキリしない彼女を置いて、離れられる程、美由は冷たくなれなかった。
自分の頭の中で、『ここに居たい。』と思う気持ちと、『猫を探さなければならない。』という、葛藤がせめぎあっていた。
結局、美由は結論を先送りにしながら、救急車で運ばれるまで、彼女のそばに居る事になった。
気がつけば、昼休みは残り少ない。もうすぐ授業が始まる。昼休みまでには決着がつかない。
そう考えると、ますます焦りが出てくる。
美由が学校を走り回っていると、後ろから、声が聞こえてきた。
「こら、そこの魔法少女。ちったぁあ、おちつけ。」
美由は声の方向へ顔を向ける。
「蛙主・・・・・。」
「目の前にわしが居るのに気づかんで、そのままスルーするとは、よっぽど焦っておるのじゃな。」
「すいません。」
「今のお前じゃあ、存在の薄い化け物が目の前にいても見つけられないだろ。ワシらが探しておいてやるから、もう少し状況を詳しく説明せい。」
確かに今の美由では探すのは無理だった。
美由の存在の薄い化け物を見る能力はそこまで強くない。ある程度、離れた距離から、ちゃんと彼らの姿が見える様にするためには、一定の集中力を彼らを見る事に割く必要がある。
自分は、今、とても、焦っており、見る事に集中力を割けないでいる。
現に、蛙主が存在をだいぶ強めて自分の前に現れたのに、それに気づかず、見落すぐらいなのだ。
確かに、今の美由では探す事ができない。
美由は大きく息を吸い、心を落ち着かせ、話始める。
話を聞き終わった、蛙主は口を開く。
「ふむ、役に立たん、魔法少女だのう。」
「・・・。それは言わないでください。」
「ちなみに、わしら蛙は探す事は出来ても、手出しは出来ないぞ。」
と、蛙主は言う。
「なぜ?」
「猫だからじゃ。あいつらは、ワシら蛙をいじり倒して、疲れた処を踊り食いするのが好きだからのう。恐ろしくて動けん。」
「天敵だったんですね・・・。すいません。私が他に知っているウサギ主やタヌキ主とは連絡の取り様がなかったんで。」
「ええ、ええ。せっかくの魔法少女の頼みだかのう。それより、お前さん、猫を見つけてどうするつもりじゃ?駆逐するのか?」
「え?」
「考えておらんかったようじゃな。」
「・・・・。はい。でも、このまま放置するわけにもいかないので。」
「やつが、精神吸収をやったのは一人じゃ。単純に肉体を維持したかったのかもしれないし、何か複雑な事情があるのかもしれん。」
「ですね。暴走であるんなら、もっと無差別に人を襲うでしょうし。」
「それに、もうこの学校におらんかもしれん。自分の縄張りになりそうな土地を探して、たまたま学校に来てただけかもしれんし。」
昼の授業のチャイムが鳴る。
「ほら、授業の時間じゃ。詳しい事はしらべといてやるから、授業に行って、その間、頭を冷やしとれ。」
朋も猫を探していた。
誰も見えてはいない。でも、自分には見える。何とか出来るのは自分だけだ。そういう思いが、朋を猫探しに駆り立てていた。
昼の授業が始まるチャイムの音が聞こえてくる。授業にいかなくてはならない。
『きっと、もう、学校でちゃったんだよね。』と、自分にいいわけしながら、クラスへ戻ろうとしたとき、階段の下で震えている、大人の茶トラの猫を発見する。
「大丈夫だよ。こっちにおいで。」
おそるおそる、朋は猫に近づいた。
美由は蛙主と別れ、クラスに戻ろうとしていた時、階段の下で、何かをしている朋を見かけた。
彼女の前には、探していた猫がいる。
『あの子、見えてるの?』
「駄目、触っちゃ。」
大声で朋に呼びかける。
「えっ。」
と、美由の方に首を向けた瞬間。
猫が朋に飛びついてきた。
美由はつまる処、ミスを犯していた。蛙主から、朋が存在の薄いモノが見えるという忠告は受けていたし、朋は猫が駆け抜けた時『猫さん。』と、言っていた。気づくべきだったし、あの時、こっそり忠告しておくべきだった。近づくなと。
猫は朋に触れた瞬間、精神吸収を行う。朋の体に強力な電気ショックが走ったような痛みを覚え、体がエビゾリになる。
次の瞬間、朋の胸の辺りが強い光を放ち、青白いシャボン玉のような光の球が彼女を包み込み猫を弾き飛ばす。猫はコンクリートに叩きつけられ、気を失った。
『魔法少女のシールド?これって、私の時と同じ・・・。』
朋の全体が強い光を放ち、光の塊となった。
凄い風圧が美由を襲う。
『何?私の時とはまるで、力が違う。』
朋の体の光が徐々に弱くなり、朋の姿が確認できるようになる。
「魔法少女ガラミン・・・。」
朋は魔法少女に変身していた。
白のスクール水着の様な厚手の生地のような素材で作らたバトルスーツだ。
彼女はエビゾリになりながら、宙に浮き、体全体から輝きを放出しながら、気を失っている様だった。
美由は気づく。彼女の肉体が徐々に薄くなっている事に。
『力を放出して、存在が薄くなったいるんだ。このままいけば・・・。』
「いけない、このまま行けば、彼女が消えてしまう。」
彼女は大声で叫ぶと同時に、自分も魔法少女に変身し、朋の下へと走り出すため、一歩を踏み出し、地面を蹴り付ける。その時、破裂音の様な独特の音が鳴り響いた。
それは美由が魔法少女になった時に仕える、超加速という技を使う時に出る独特の音だった。物体が止まっている状態から、動き出す時、加速度を加える必要がある。止まっている状態から、いきなり急激なスピードを出すためには、かなりの力を地面に伝える必要がある。この時、地面に伝える力はかなりのものだ。地面に伝えた力は美由の体にそれと同じダメージを与える。このダメージを減らすために、魔法力で、足の周りに力場を作り、足が地面から数センチ離れた状態でも力を伝えられるようにしてクッションをつくり、また、魔法力で足の周りに力場をつくり、実際の足より大きな足にすることで設置面積を広げ、確実に地面に力を伝える効率をあげる事でダメージを減らしていた。そのため、地面を蹴りつける時に独特の破裂音の様な音が鳴り響く。
美由は4歩地面を蹴った後、10センチ程浮きながら、滑る様に移動し、右手を前に差し出す。
朋は体から強い力を全体に放出しており、美由が近づくにつれ押し返されそうになる。それを超加速の蹴り足を使い強引に入りこもうと前へと進む。
美由はやっとの事で、彼女の右手首をつかむ事が出来た。
強引に彼女の手首を引っ張り、自分の体を朋にくっつけ、左腕を彼女の首に回して朋から離れない様に抱きしめる。