近藤 ジェミニ
学園第二の派閥の長の名は、近藤 ジェミニという。
日本名と外国名が組み合わさっているのは、親がフザケて外人っぽい名前にしたわけではない。彼女は日本とイギリスのハーフなのだ。
ハーフだが、外見は日本人ぽい処は無く、どう見ても白人・アングロサクソンであった。髪は白に近い細い金髪で、瞳は青いし、肌は赤みのある白だ。
見た目で英語がペラペラに見えるが、生粋の日本育ちなので、実際は日常会話程度しか話せない。それでも、高校の英語は得意であった。
今日の部室棟の空き部屋はジェミニの派閥が使っていた。
須王寺の派閥は、一般生徒の受け入れに積極的なので、どことなく雑味がある感じだが、彼女の派閥は一般生徒の受け入れが厳しいので、お嬢様方とその従者という感じで気品がある。
彼女達も今、ここで雑談の練習をおこなっていた。
ジェミニは須王寺の様に壁の華に優しくしたりはしない。出来ない子は元からいれない主義の人だった。
話題に挙がっていたのは、美由の悪口だった。
ただ、具体的に行動を起こそうと言う会話は無かった。
ここ二日ぐらいの美由にいたづらをしたのは、この派閥の人間なのだが、自分達の誰かがそんな事件を起こしたなどと思っておらず、いい気味という声が聞こえてくる。
ジェミニは制服の内ポケットにギリギリ入る本を入れていた。
本はアルファベットで書かれているが、どこの言語かわからない。
実際は英語で書かれているのだが、暗号化されていて、そのままでは読む事ができないのだ。
『いいわね。この不満の充満。この本の効果が十分に出ている。』
そうジェミニは思った。
この本は魔法道具である。
この本の効力は、ほんのわずかだけ、人の悪意を増やすというものだった。
悪魔のささやきで背中を押すと言う程のものではない。本当にちょっとだけ、悪意が表に出やすくなるというだけのものだった。
この本の力の代償は新鮮な血であった。
数滴、新鮮な血を垂らせば、ほんの数分ではあるが効果を発動する。
本の効果そのもの力は弱いが、集団が同じ悪意に満ちていれば、少し悪意を増やすだけで、暴走する者が出る。
彼女は自分の手を汚さず、命令を出さなくとも、兵隊が勝手にやってくれる状況を作り出していたのだ。
『さあて、今度は誰が私のためにやってくれるのかしら?』