下校2
桐野と美由は学園の裏庭へとやってくる。
茶トラ猫が現れ、桐野の足に頭を摩り付け甘える。彼女は猫の頭を撫でて、カバンから猫カンを取り出す。
『むー。おしゃべり猫だ。』
「ところで、私を助けないと言っていたのに、何故、あの時、私を助けたんですか?」
美由は体育終わりの休み時間に自分の教科書やノートが破かれ、落書きされていた件で、彼女がアドバイスや先生を呼びに行った事を聞いていた。
「あら、助けたつもりはないわよ。正直、見ているだけで不快な行為だったから、相手が何の罰も受けずに、心の中で笑っているのが許せなかっただけ。私は私のためにやったの。まあ、それに巻き込まれた他の生徒はいい迷惑だろうけどね。多分、須王寺さんも、同じ気持ちだったんじゃないの?」
「すいません。」
桐野は怒った顔を美由に向ける。
「桜間さん。あなたは簡単に謝り過ぎる。簡単な謝罪は相手をイラつかせるだけよ。第一、簡単な謝罪は敵に付け込まれる元よ。何より、あたな自身の言葉の価値を下げるわ。謝罪の言葉をもっと大切にしなさい。あなたのためにね。」
「わかりました。」
「破かれた教科書が、世界史と日本史だったのは大変ね。両方とも教科書が無いと大学受験ではどうしよう無い教科だから。」
「後で買いにいかないといけませんね。」
「教科書って、結構な値段するわよ。」
「無いとどうしようないですからねぇえ。大きな字で書かれている処だけ覚えて、大学に行ければいいんでしょうけど、大学受験は隅に小さく書かれている処から受験に出るんで。」
桐野はバス通学なので、校門を過ぎると直ぐにバス停があるのでそこで別れ、美由は一人で下校をはじめた。
いつもなら、朋がかけつけて、楽しい下校になるのだが、今はそういうわけにはいかない。
『ふー。淋しいな。でも、自分で選んだ道だから仕方ないよね。』
美由は昨日と今日の事件を思い返す。
彼女が手に入れた証拠を考えると、それぞれの事件が明らかに別の人間の犯行だと示している。
『幾ら大勢の人が私に不満を持っているとはいえ。これだけ別々の人間が、同時多発的に一線を踏み越えるものなのだろうか?』
集団催眠みたいなものなのだろうか?と、美由は考えた。
誰かがやった、その人物は罰を受けなかった。
それを見ていた人物が自分も自分もといじめっ子に加わっていく。
それは、誰かが罰を受けるか、相手が消えるまで続いていく。
イジメが一旦はじまると、イジメを行う人数が爆発的に増えるのは、そういう心理が働くからだ。
ただ、今回は高校生である。バレればへたすれば退学の可能性もある。
そのリスクがあると分かっていて、わざわざ、一線を越える人が、沢山でるのだろうか?とも思う。
美由は答えが出無いまま、家へと辿りついた。