画鋲と落書き
月曜日になった。
美由は今日は一人で登校していた。後輩の女子の何人からか「おねぇえ様」と呼ばれるのだが、どうにも慣れないでいた。しかも、声をかけられる数が日に日に増えてる気がする。
『何か、私の虚像がどんどん大きくなっている気がするなぁ。最近、学校では人気が落ちそうな変な事しかしてない気がするのだが。」
朋が校門前でカメを見せた時とか、昨日の遅刻で間抜けな姿を見せた事を思い出していた。
美由は須王寺の巻いた噂を、未だに知らないでいた。
『お嬢様学校の人たちが不満を抱いているっていうし、彼女らが爆発する前に、早くこのブームが去ってほしいなぁ。」
美由は靴箱につき、下穿きを床に落とす。
すると、何か小さな輝くものが、下穿きから落ちた。
美由は何だろう?と、輝くものを見る。
それは画鋲だった。
画鋲を拾い、自分の目の前にそれを持っていく。
『ふー。ついに来たか。』
それは、危惧していた事がついに現実になった事を告げていた。
美由は、自分のカバンを開け、筆箱を取り出し、筆箱の中に入れる。
自分の教室に行って、自分の机を見て驚いた。
机に油性ペンで卑猥な言葉で落書きされているのだ。
美由は唖然とする。
『ここまでするか・・・・。』
美由は席に座り、何事も無かったかの様にカバンの中身を机にしまった。
HRがはじまる。
先生が入って来て、全員立ち上がり、挨拶をして着席をする。
美由だけ座らない。美由は手をあげ発言する。
「先生。私の机見てください。」
「桜間、何を言っているんだ。」
「油性ペンで誰かが落書きをしています。かなり卑猥な言葉を書いています。これは明らかないじめなので、この証拠を先生に確認していただき、こういった事件があったことを知って欲しいのですが。」
いじめ対策で最も大事なのは証拠を残し保存する事である。その証拠を先生に突きつけ問題を大きくした方が、後々、相手を追い詰めるのに便利だし、これで止まる場合もある。
先生が美由の机を見る。
「こりゃ酷いなぁあ。桜間、お前、何かやったのか?」
「いいえ。まったく心あたりがありません。今朝来たらこうでした。」
美由は心当たりはあったが、心当たりがある人数が多すぎるのと、誰が犯人なのかめぼしをつけていない事、それに確証が無いのに犯人を限定させるわけにもいかないので、あえて嘘をついた。
「まったく、こんな卑猥な言葉を使うなんて、品性が下劣としか思えません。これをした人の人間性を疑います。」
美由は相手が、お嬢様学校の人間の誰かだろうと思っていたので、当人たちが一番の誇りにしている品性を貶める発言をあえてした。「自分たちの誇りである品性はこんなもんだと」ただ、やった人間から見れば負け犬の遠吠えとしか聞こえないんだろうとも思った。
「こら、桜間、そんな事を言うもんじゃない。それと昼休みに生徒指導室に来なさい。」
「はい。」
「それから、これをやったヤツ先生絶対許さないぞ。覚えておけ。」
美由は机はしばらくこのままにしとこうと決めた。
実は美由はこれを消す方法を知っており、道具も持っている。油性ペンで文字をなぞり、すぐに拭けば消すことができるのだ。
それをあえてやらないのは、クラス全員にいじめがあったという証拠を見せ付ける必要があるのと、これをやった人間がこれを見て、心に負荷を追わせる必要があったからだった。
ちなみに、この事件を起こしたのは片奈ではない。
彼女はまだ、何もしていない。何かしようとはしていた。
そんな時に、美由の机が卑猥な言葉でうめつくされているのを見て、気分が良かったのも事実だった。
自分の仲間がいると思った。だが、美由にこれが品性下劣な行為と指摘され、自分がやったわけではないのだが、苦々しい思いを抱いたのも事実だった。