カメとウサギの競争
スタート地点が鳥居に変更になりました。
スタートが切られた。
カメはに4本の足をバタフライの様に回転させ岩場を走りはじめる。カメとは思えぬ人が軽く走るぐらいの速度が出ている。
美由と朋は「おー」と感嘆の声をあげた。
ウサギ主はカメが邪魔で、スタート地点の鳥居を抜けられないでいたが、カメが邪魔にならない位置まで移動したので、一気にジャンプをする。
蛙主は体長が3mあるので、鳥居に後頭部をぶつけた。周囲に「ゴーン」という音が響く。
ウサギ主は地面に落下しその場で倒れる。
その時、カメは振り返る事もなく、迷わず海に飛び込んだ。
ウサギ主は後頭部を前足で押さえ、立ち上がり、首を振る。
「ふう。油断した。」
「いたそーです。ウサギさん大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。」
美由は鳥居に頭をぶつけたウサギ主を見て、猫の暴走の時にウサギ主に乗った事を思い出し、恐ろしくなった。
『ウサギ主は上への配慮が足りないなぁあ。あの上に乗って移動した事があるけど、あの時よく、私達が木にぶつからなかったもんだ。』
ウサギ主は、四本足でゆっくりと鳥居を抜けた後、砂場に向けて、一気にジャンプする。
大きな音と共に、砂に大穴が開く、ウサギ主は大ジャンプを続けてやろうとするが、あまり高く飛べなかった。
雨で濡れた砂がクッションになり、力が拡散して上手く飛べないのだ。
『あちゃー。大穴あけちゃった。すぐ埋め戻さないと。』
ウサギ主は、大ジャンプでの移動をあきらめ、力を抑えて、砂場を走る事にした。
「朋ちゃん。すぐにあの穴埋めるよ。」
美由がそう言って走りはじめる。
「え?なんですか?」
「目立つでしょ、あの大穴。今は化け物が競争しているのに。それに迷惑だし危ないし。」
「はーい。」
美由と朋はウサギ主があけた大穴を埋め戻しにかかった。
美由は迷わず、片足をつき、上半身をかがめて、穴へと砂を押していく。
朋は立ったままで、砂を両手ですくい少しづつ穴へいれていく。
朋がウサギ主の背中を見る。
「ウサギさんって、あれくらいの速さなんですか?」
美由は作業を続けながら、ウサギ主を見る。
「普段はもっと速いよ。多分、砂のせいで地面に上手く力をつたえられないんじゃないかな?ほら、ウサギ主って筋肉が無駄にあるから足の面積あたりにかかる体重が多するんだと思うよ。」
美由の超加速の場合は魔力で足元の面積を広げているので、こういった砂場で力いっぱい地面を蹴っても、そんなには沈まないが、ウサギ主は体重が重い上、魔力は弱い方なので魔法で足元の面積を広げる事が出来ない。更にウサギ主の走り方は飛び跳ねる事で徐々に加速を重ねていくわけだが、飛び跳ねるため重力という加速度が加わり自然に砂に伝える力が増える。そのため得意な走り方では砂に足が沈んでしまうから、猫の様な走り方にならざるを得ないのだろう。砂地はウサギ主に不利と言わざるを得ない。
「だったら、砂の上じゃく、防波堤の上を走ればいいのに。」
「たぶん、正々堂々とやりたいんじゃない?」
「別に違反ではないですよね?だったら?」
「男のロマンってやつじゃない?負けるより大きな問題なんでしょ。ウサギ主的には。」
美由は勝つための手段はどうでも良いと思っているタイプだった。
昔は正統派にこだわってはいたが、勉強や魔法少女の経験から、それでは勝つ事は出来ない事を理解していた。勝つためにはルールギリギリか、少し超えるぐらいの事をしないと駄目な事を知っている。
ルールギリギリを攻める必要性を理解した時、正統派は正統派なりのワケがあるというのも見えてきた
。ルールギリギリは所詮、邪道であり、一時しのぎにしかならないのだ。経験を重ねると邪道は研究され全く通じなくなるか、破綻するため、どうしてもある一定レベル以上を目指すとなると、正統派に回帰せざるをえなくなってくるのだ。
ただ、今回の件は、邪道に走っても問題無い気もする。相手は自分の都合の良いルールをつくりあげてやっているわけだから、多少のルールギリギリでも非難されることはない。それでも、正統派にこだわっているのだから、『男のロマン』という皮肉を言いたくもなる。
「なるほど。」
朋は美由の考えを理解したかどうかは別にして、納得したようだった。
カエル主は港の砂浜のすぐ近くに座っていた。
先に来たのは、海から砂浜に上がったカメだった。カメはバタフライの様に4本の足を使って砂を移動する。砂の上には彼の通った甲羅と足の跡が太い線となり残る。
「おお、カメよ。来たな。まだ、ウサギのやつはきとらんぞ。」
「はい。」
カメは蛙主の周りを一周し、港の岸壁から海へと落ちていった。
そこにウサギ主がやってくる。
「ウサギ、遅いぞ。カメはさっき、海に落ちたぞ。」
「分かっておるわ。」
ウサギ主は港のコンクリートの上に入ると、大ジャンプで蛙主を飛び越え、着地したあと、即、体を切り返し、大ジャンプをして蛙主を超え、砂浜へともどっていく。
「ふう。あの巨体が自分のすぐ上を飛び越えるのは恐怖だのう。潰されるかと思ったわい。さて、戻るか。」
蛙主はゴールの鳥居に戻ってくる。
美由は砂だらけになっていた。
「何じゃ。魔法少女その1よ。その汚れ方は。」
「ウサギ主に言ってください。ウサギ主が大ジャンプして、そこに大穴あけたんで、埋め戻していたんですよ。」
「あいつも迷惑なやつじゃな。」
1柱と二人は、遠くにいるウサギ主を見ていた。
しばらくして、カメが海から出て、岩場をよじ登りはじめる。
ウサギ主もゴール近くまできていた。
カメは岩場へとあがり、必死に4本の足を回しながら、鳥居を目指す。
ウサギ主も岩場へと足を踏み入れ、一気に加速をかけた。