亀の依頼
校門の前では、帰宅する生徒が続々と出てくる。
そんな中、不思議な行動をしながら独り言を言っている朋は当然みんなから不思議そうな目で見られているし、その不思議ちゃんに声をかけられた美由は当然、目立っている。
『目立ってるなぁあ。』
「朋ちゃん、ひとまずここじゃ目立つから。目立たないとこに行こうか。」
そう言って、学校にまた入り、裏庭に向かう。
朋は、亀の甲羅を両手でつかみながら強引にカバンを握って移動する。
「駄目でしょ朋ちゃん。化け物にかかわっちゃ。」
「ごめんなさいです。」
「で、このカメは何?」
「この前の夜に会った、でっかいウサギさんに会いたいそうです。」
美由は膝を折って、朋の懐にいるカメと視線を合わせる。
「あなたはウサギ主にあいたいんですか?」
「ウサギ主?ああ、やつは主になったのか。何処にいるか、教えてもらうだけでいいんだが。」
美由は裏庭のフェンスの向こうにある山を指さす。
「あの山の上の方に棲んでますよ。」
「何、あんな遠くか。」
「はい。私の足でここからだと急いで行って1時間ぐらいかかりますけど、でも、ウサギ主が住んでいるところは道が無いので斜面をずっと登る事になりますよ?」
「私の足だと、何日かかるだろか?」
「カメの足でつけますかね?結構な斜面を登る事になるので。」
朋が突然、手を上げた。
「私、連れていきます。」
「朋ちゃん道わからないでしょ。」
「あ、そうか。だったら美由先輩も一緒にいきましょう。私、ウサギさんにも会いたいです。」
「まあ、朋ちゃんの足でも行けない事は無いと思うけど、大変だよ?」
「頑張ります。」
朋はカメの甲羅を握り締め、強いまなざしで美由を見た。
「うーん。あんまり、賛成できないんだけどなぁあ。ひとまず、カメさん何しにウサギ主に会いに行くつもりなの?」
「それは、果たし状を渡しに行くのだ。ウサギとカメどちらが速いか競争するのだ。」
「なんです?その昔話ウサギとカメみたいな話。」
「私とあのウサギとは因縁のライバルなのだ。数年前、ひょっこり海岸に来ていたヤツと砂浜で競争して私は負けたのだ。私は再戦を心に誓い、修行を積み晴れて、ヤツとの勝負をつけにいくのだ。」
「えーと。ウサギとカメって確か、ウサギが怠けて勝負の途中で寝たからウサギが負けたんでしたよね?」
「そうだ、私もヤツに負る前まで何匹かのウサギの化け物と戦ってきたのだ。やつ等がサボタージュして寝ている隙に勝ってきたのだ。だが、ヤツには負けた何故だ。」
「歩みが遅いからでは?その前にウサギ主はウサギらしくないので、勝負となると全力を尽くすタイプですよ。」
「それでも戦うのだ。私にとって、あの敗北はそれ程までに意味があるのだ。」
「がんばりましょうカメさん。」
朋はカメを力強く応援した。
「おうよ。」
美由は、とてつもなく無駄なことをしている気分になった。