テスト三日目の朝
朝になった。テスト三日目が始まる。
美由は思いつめた顔をして歩いていた。
昨日の夜の化け物殺しのことが重い影を落としていた。
こんな顔は見られたくないので、交通事故にあう危険性を無視して、最大限に自分の存在を下げている。流石にここまで存在を弱めると、自分に興味がある人でも、中々気づかない。
ただ、朋は別だった。
「美由せんぱーい。」
そう言いながら、テケテケ走ってくる。
美由は朋の顔を見るが、顔を伏せた。
今、一番、自分の顔を見せたく無い相手が朋だった。
だけど、彼女は存在が薄いモノを見る事に関しては目が良い。自分の存在を最大限に下げても見つかってしまう。皮肉なものだと、美由は思った。
朋は美由の顔をのぞきこんだ。
『今の自分の顔を見ないで欲しいな。』
「美由先輩どうしたんですか?顔が暗いです。何かあったんですか?」
『今はほっといて欲しいけど、でも、逃げられないんだよね。受け入れ無いと駄目だ。戦いになれば弱い処だけを相手は攻め立ててくる。多分、今、朋ちゃんに会った事は不運なのだけど、受け入れないと先に進めないという神様のメッセージと思っておこう。』
朋は心配そうな顔で美由を見つめた。
「朋ちゃんにはかなわないな。」
美由は笑顔を無理につくる。
「昨日の夜ね戦いがあって、初めて化け物が死ぬ処を見たの。昨日はそんなにショックじゃなかったんだけど、朝目覚めて、冷静に思い返してみたら段々とね。」
「あうー。何と言っていいか分からないです。」
朋も暗い顔になった。美由は朋の頭を撫でる。
「朋ちゃんが、暗くなる事は無いよ。私のミスでそうなったんだから。」
「美由先輩でもミスをするんですね。」
「ミス何て、しょっちゅうだよ。というより、私はミスが多い方だから。ただ、昨日のミスは正直辛かった。ああゆうミスを犯さない様に、もっと成長しないと。」
「はい。」
「今日は暗い顔してたから、正直朋ちゃんには会いたくなかったんだ。」
「えー。私じゃ頼りになりませんか?」
「そういう事じゃないんだけど、でも、朋ちゃんに会えてよかったよ。前に進むしかないって気づけたし。」
「うー。良くわかりません。」
「いいのいいの。朋ちゃんはそれで。」
美由は自分の存在を元に戻し、一緒に学校に向かった。
そこへ加奈が走ってやってくる。
「美由先輩。朋ちゃん。おはよう。」
加奈は息をきらせていた。
「加奈ちゃんおはよう。」
「はい、おはよう様。」
加奈は息を整え、いじわるそうな顔で美由の顔を見る。
「美由先輩。噂聞いてます?」
「噂?」
美由の脳裏に色々な事がよぎる。
『まさか、魔法少女の事が噂に・・・。』
「い、いいえ。知らないけど。」
「そうですか、あの、須王寺麗菜おねぇえ様の事なんですけど。」
『ほっ。須王寺さんの事か、良かった。良かった。』
「須王寺さんが、何か?」
美由は気が楽になり、笑顔でそう聞いた。
「美由先輩がおねぇえ様になる事に前向きな考えを持ってて、美由先輩をライバル視しているらしいという噂が流れていて。」
『安心したのが馬鹿だった。これは、これでかなり問題ある噂だ。確かに彼女はライバル宣言をしたし、私におねぇえ様になる事を楽しみにしているとか言っていたが、あれは、お嬢様ジョークだしなぁあ。「らしい」という噂なわけだし、上手くごまかさなくては。』
「いい?加奈ちゃん。私と須王寺さんとは、私がすっぽんで、彼女は月なの。まさしく月とすっぽん。そんな彼女が、私をライバル視するはずが無いでしょ。」
「そうですか?成績と言い、人気と言い、運動能力といい、結構良い勝負をされているような。」
「そんな事ないよ。成績は彼女は学年5番だし、私は9~13番の間をウロウロしているし、それに、自分でいうのも何だけど、私はそんな人気なんて無いよ。」
「そうですか?」
その時、後輩女子3人が「桜間おねぇえ様、おはようございます。」と、挨拶をした。
『何て、タイミングの悪い。』
美由は顔をひきつらせながら、「ごきげんよう」と挨拶を返した。
「ほら、結構人気ありますって。」
「彼女達は面白がっているだけだと思うなぁ・・・。」
美由はたどたどしく答える。
「美由先輩には魅力があります。」
朋が真剣なまなざしでそう言い放つ。
「朋ちゃんまでぇえ。良い?加奈ちゃん。私は彼女のライバルになれるほどは優秀じゃないし、おねぇえ様と呼ばれるのも実はイヤなの。それに自分の事で手一杯でとてもそんな大役が務まるとは思えないんだよね。」
「残念だなぁあ。聖エルナール学院のお嬢様でない、王子様的おねぇえ様というのも面白いのに。」
「あははは・・・。」
美由は乾いた笑い声を出す。
「ああ、それと美由先輩、噂で聖エルナール学院のお嬢様方が、あまり良い思いをしてないそうですよ。一応気をつけた方が良いかも。」
「気をつけろと言われましてもねぇえ。」