怒られる黒猫
夜になった。
住宅街にある空き地に積まれた三本の土管の上にふとっちょの三毛猫が座っていた。
三毛猫の視線の先には、傷だらけの猫が地面に座っている。
「おみゃあさんにしては、珍らしゅう不手際だがあねぇ。」
「申し訳ありません、ボス。」
口では謝っていたが、顔は無表情だった。
「ほんで、あの生意気な白猫は、ちゃんと手配したんか?」
「はい。見つかるのも時間の問題かと。」
「石が覚醒する前に、何とかせんといかんなぁ。」
「はい。善処します。処で、ボスは何であの猫が嫌いなので?」
ボス猫は、その質問に何の躊躇も無く話はじめる。
「そりゃあ。若くて可愛いのにあぐらかいて、人が何とかしてくれると思いこんでいる処が気にくわんね。」
「なるほど。」
「クロも、あの色ボケ猫にやられてるかね?」
「いいえ、私はそういうのは卒業しました。ただ、仲間を殺すのは心が痛みます。」
「猫は独立心というのが強いがね。そげんなやつ等をまとめるにゃあ、ルールちゅーもんを厳格に適応せんと駄目だといつも言っておるとは、お前さんだぎゃね。」
「はい。今度は躊躇しません。では、行ってまいります。」
「成果を期待してるだーよ。」
「はい」
黒猫は空き地に隣接道路へと歩きだす。
道路には一匹の猫がいた。
「情報は?」
「これと言って特にはありません。」
「今から、行くところがあります。指揮をお願いします。2・3時間で戻ると思います。」
「何処に行かれるのでしょう?」
「最悪の事態に備えとこうと思いまして。そのための準備です。」
「わかりました。」
「彼女は必ず、我々の縄張りにいるはずです。彼女の目的は我々への復讐ですから。」
黒猫は相手の猫をしっかり見る。
「それではお願いします。」
「了解しました。」
そう言って、相手の猫は去っていった。
『さて。ひとまず、最初は蛙主の所にいきますかね。』
傷だらけの猫は、山道を登り、蛙主の処に来ていた。
「何?神石じゃと?」
蛙主は、黒猫の話を聞き驚いた表情を浮かべた。
「はい。それがとっても危険なモノで。」
「神石ぐらい知っておる」
「そうなんですか?」
「お主は知らんのか?蛙の化け物の主になるには、神石を扱える様にならんと駄目だと。」。
「申し訳ありません。存じあげておりませんでした。」
一瞬、間が空き、蛙主が話しはじめる。
「で、神石がどうした。」
「その神石が、かなり高純度で大きなもの何です。それを使って、我々に復讐しようという猫が現れまして。」
「何でそうなるんじゃ。使い方を知らんヤツが使ったら、先日の暴走どころではすまんぞ。」
あきれた表情でそう述べた。
「申し訳ありません。」
そう言って、形式的に頭を下げた。
「お前さん方が、街を封鎖していたのはそのためなんじゃな?」
「はい。紛失したのであれば、たまたま落ちている神石を不用意に化け物が触りでもしたらトンでもない事になるので。」
蛙主は頬に手をやり、あごをさする。
「確かに妥当な対応かもしれんなぁあ。で、ワシに何の用じゃ?わざわざ、迷惑をこれからかけますと謝りに来たわけでもあるまい。」
「良くおわかりで、もし、最悪の事態が起こった場合、手を貸して欲しいのです。多分、我々だけでは止められないと思うので。」
「よかろう。神石での暴走を止めるのは蛙主としての役目のひとつじゃしな。」
「・・・・。神石の暴走を止めるのが役目とは?」
「ん?神石の暴走の場合、ワシら蛙の化け物の主を頼れと聞いてないのか?」
「いいえ。初耳です。」
「まあ、前に神石の事件があったのは、ワシが生まれるまえじゃしなぁあ。随分前じゃから、下の世代に伝えそこなったのかのう。」
「そのようですね。」
「ワシは、神石を目覚めさせる事も眠らせる事も出来るし、当然、神石から暴走せずに力を吸収することも出来る。更に力が強ければ感知もできるのじゃ。」
「それは頼りになります。感知が出来るのなら、犯人を捜すのを手伝っていただけないでしょうか?」
「それが、ワシの仕事であるしな。」
「それでは早速ついて来ていただけますか?」
「しばし待て、猫と共に行動するのはこっちが怖い。お前さんはそうでもないが、他の猫を見るだけで恐怖で動けなくなる。そしたら感知が出来ん。仲間を集めてそいつらと共に行動する。それにお前さんがついて来くるのでは駄目か?」
「仕方ないですね。それで結構です。」
「よかろう。」
「あの、ひとつ良いでしょうか?神石が扱えるという事は、神石で暴走したモノを元に戻せるという事でしょうか?」
「さあ、知らん。ワシは少なくとも聞いておらん。ただ、神石で暴走した場合、急激に肉体の破綻がはじまるとは聞いておる。もし、戻せたとしても、死んだ方がマシな状態になるかもしれん。」
「そうですか。」
「そういやぁあ。魔法少女が、今日、神石についてワシに質問しておったぞ。多分、どこかでかおぬし等が神石を無くした情報を手にいれたのじゃないかのう。」
「誰か口の軽い猫がしゃべったんですかね。」
「かもしれんな。」
「まあ、魔法少女についてはひとまず、放っておきます。そこまで手が回らないのが現状なので。」
「まああやつも、こっちの助っ人として借り出すつもりじゃ。何せ、わしら化け物社会全体だけでなくこの街の危機でもあるんだしのう。」