茶トラ猫(2)
美由は地面で無邪気にバッタを追いかける茶トラ猫を見下ろす。
『私が知っている猫達で、こんなに、猫らしい猫は初めてな気がする。』
美由は膝を曲げ座り込み、視線を低くする。
しばらくバッタを追いかけていたと思ったら、存在を薄め、突然、キッリっとなり、美由を見る。
「魔法少女さん。この前は有り難うですにゃ。」
いきなりの変化に美由は、何かガッカリ感を覚えた。せっかく、猫らしい猫を見て可愛いと思っていたのに、普通の化け猫に戻ってしまっている。声の感じからしてメス猫らしい。
『語尾に「にゃ」って、私の知っている猫達では初めてだな。』
「いえいえ。」
「あなたのおかげで、また、彼女との楽しいひと時が送れますにゃ。見てください自由に存在も調節できるようになったし、精神吸収の発動も自分でコントロールできるようになったにゃ。」
「そうですか。それより、聞きたい事があるんですが?」
「何ですかにゃ?」
「猫が封鎖をしているって聞いたけど、何でしてるの?」
「・・・・。」
猫は顔を背けたが、直ぐに美由を見る。
「口止めされてるけど、命の恩人の魔法少女さんに特別におしえるにゃ。」
「ありがとう。」
「ボスの『しんせき』がなくなったにゃ。」
「あのメスのふちょっちょ三毛猫さんの親戚の誰かが、お亡くなりなったの?」
「その親戚じゃないにゃ。神の石と書いて『神石』だにゃ。」
「『神石』?聞いた事ないですけど、それって何?とっても大事なもの?」
「知らないにゃ。でも、みんなで探しているにゃ。」
美由は疑問に思った。落し物を探しているだけなら、封鎖をする必要はない。盗まれたのであれば、封鎖して犯人を捕まえるには効果があるだろう。しかし、あの対立が激しい猫のグループまで封鎖に協力をするかと言えば疑問だ。
「ねぇえ。探し物をするだけなら、街を封鎖する必要はないんじゃないの?」
「うーんと、良くわからないにゃ。とにかく、『神石』が無くなったから、縄張りから外に化け物を出すな、入れるなという命令しか受けてないにゃ。それから縄張りを堂々と歩いている化け物がいたら、ひとまず襲って、堂々と街を徘徊させないようにさせろとしか聞いてないにゃ。」
「誰かが、その『神石』というのを盗んで、その犯人を見つけて捕まえろって事じゃないの?」
「今の所、そんな命令は聞いてないにゃ。そういうのは、クロさんとこの部隊がやっていると思うにゃ。」
「クロ?あの傷だらけの黒猫の事?」
「そうにゃ。」
「で、そのクロさんが部隊だけが、犯人と神石を探していると。」
「我々下っ端は、封鎖とパトロールしか命令されてないにゃ。」
『良くわからないなぁあ。神石の事がわからないと判断しようがない。』
「ところで、あなたは行かなくていいの?」
猫はビックっとなる。
「本当は行かなくちゃいけないにゃあ。ただ、ここ数日、彼女に顔を出して無かったから心配していると思って抜け出してきたにゃ。直ぐにいかないと怒られるから、失礼なのにゃ。ひとまず、他の人には内緒にしといて欲しいにゃ。」
「わかりました。気をつけて。」
『その約束は守れないけどね。蛙主に聞いて見るか。』