ハンカチの染み抜き
朋はウチに帰って来た。朋のウチは少し古くなった公営住宅の団地の中にあった。
朋はウチの入り口の扉を開ける。
「ただいまぁあ。」
「はぁああい」
間髪入れずに母親の声が聞こえた。
「ママ、帰ってきてるの?ねぇえ、染み抜きのやり方教えて?」
朋は美由にハンカチを返すのを口実にして、お近づきになるため、自分で洗濯しようと考えていた。
中学校の時の技術の家庭科時間に一応、染み抜きを習ったが、洗濯なんてほとんどママに任っせっぱなしだったので、全く身についていなかった。
「染み抜き?」
「うん、今日の持久走大会で、ハンカチ借りたの。ちょっと、汚れちゃったから洗濯して返そうと思って」
「はいはい、良いですよ。お風呂場で待ってなさい。」
朋は玄関の横にあるお風呂場に入る。
お風呂場は白いタイルが張られており、ぎゅうぎゅうになれば、何とか大人二人が入れる洗い場と、足を伸ばすことが出来ないユニットバスがあった。
お母さんは染み抜きの道具を持って、お風呂の入り口にまでやってくる。
「ママ、これなんだけど」
そう言って、朋は母親にハンカチを見せた。
「あら、ちょっとだけど、血がついてる。あなた転んだの?」
「うん、その時、ハンカチを貸してもらって」
「そう、でも、どうしようか。血って、薄くは出来るけど、あんまり落ちないのよね。」
「そうなの?」
「まあ、やるだけやってみましょう。」
「うん。」
母親は、食器用の液状洗剤と、洗濯機用の粉洗剤を朋に渡す。
「その二つを汚れている場所の裏と表に塗りこんで」
朋は言われた通り通り小さな手で塗りこんでいき、母親に二つの洗剤を返す。
今度は母親が先が開き切った歯ブラシを渡す。
「これで、汚れをゴシゴシこすって見て」
朋はゴシゴシと歯ブラシでこする。
「それくらいでいいかな? 一度、水洗いして。」
朋は蛇口をひねり水でハンカチを洗い確認する。
「ちょっと、落ちたけどあんまり落ちないね。」
「血だからね。でも、もう少し頑張ってみましょ。また、洗剤を塗りこんで」
「うん」
母親は今度はヘラを渡してきた。
「これで、表面を掻き落としてみて。」
やってはみたが、あまり落ちない。
「うーん。後は漂白剤を使うしかないわね。幸い白のシンプルなハンカチだし。原液を汚れに垂らしてみましょ。水で濡らしているから、原液でもそこまで生地は痛まないと思うし。1時間ほど置いて駄目ならそれ以上は無理だから。」
「はーい。」
「ちゃんと、1時間したら水洗いして、洗濯機の中に入れとくのよ。漂白剤は生地を痛めるから、ママしらないわよ。」
「わかった。」