テストに焦る美由
空き地での交渉は終了し、解散になる。
美由は自分の家へと向かい歩きはじめる。その横をタヌキ主がついてくる。
美由は足を止め、タヌキ主を見下ろす。
「タヌキ主。何故、ついてくるんでしょう?」
「そりゃあ、お前さんのウチに行って、お茶でもと。」
「断固、断ります。」
「即答とは酷い。少しぐらいの優しさは見せんと男にもてんぞ。」
「そういうのは、高校を卒業したら考えますので、今は必要ありません。」
「臭いくらい男ならするもんだぞ。それくらい目をつむってやらんと。」
「それくらいなら、問題ありません。臭いが2・3日襲って来るのが嫌なんです。」
「・・・。あきらめるか。」
「当然です。」
美由はタヌキ主と別れた。
帰り道、タヌキ主の事が片付き、テストについて思い出していた。
『問題のレベルが2年と比べて明らかに上がっている。学校のテストの点なんて捨ててたつもりだったけど、流石に大きく下がると嫌だなぁあ。今までは運良く私の勉強レベルと同じぐらいの問題が出てたから良い点が取れてたけど、今日のレベルの問題だと、本当に予備校行きながら毎日かなりの時間、勉強漬けになるか、天才的感覚が無いと良い点は無理だろうし。私のメッキがはがれちゃうな。流石に焦ってしまう。』
美由は晴天の空を見上げた。
『今更、方針を変えるわけにもいかないしなぁあ。でも、テスト用の勉強をした方が良いのではとも思ってしまう。まあ、自分で決めた方法だし、ウチは予備校や家庭教師を雇える程のお金は無いし。今の方法でがんばらないと。』
テストの事は一旦置き、猫について考え始めた。
『今日は、あの傷だらけの猫、いつもと感じが違ったな。いつもみたいに、裏のある言い方ではなく、早く話しを終わらせる話方だった。』
腹の探り合いは好きではないが、こうあっさりなのも物足りなさを感じた。
あの普段とは違う話方や、忙しいと言っていた事、直ぐに用があるとも言っていた事から推測するに、どうも、猫達は焦っている。
封鎖はタヌキ主の嘘ではないのかと何処となく疑ってもいたが、どうも事実らしい。封鎖の理由は言えない、封鎖がいつ解除されるのか分からない。それに彼等はかなり焦っていると推測できる。
『猫の中でかなり、とんでも無い事が起こっている。』
助けようか?とも思ったが、猫はどうも、自分達の中で解決する事にこだわる傾向がある。
それに以前、蛙主に言われた事がある。化け物にも生きるために社会がある以上、必ず大人の事情があると。そこに下手に関わっても、トラブルが増すだけだと。だから、手出しは出来ない。
前の様に向こうがこっちに非公式にでも依頼があるか、放置していたら何らかの危険性があると判断できる判断材料が無い限り、この件には介入すべきではない。
でも、かなり大きな事件だというのは分かる。
そうでなければ、猫達の社会を危険にさらすような、かなり目立つ『封鎖』という手段を選択しないはずだ。しかも、街全体の猫グループがそれをやっているらしい。
『それにしても、何故、自分達の縄張りに化け物が出入りしない様に封鎖しているのだろう?』
タヌキ主が集団が自分達の縄張り内を移動するだけならどうも問題は無いらしい。そうでなければ、あんなに、あっさり認めないだろう。
『後、この事件は昨日の早朝より前に起きている。昨日の早朝、あの傷だらけの猫は私に会いきている。要するに、事件直後だ。どうせ、私がこの件に感づいて、介入してこないかどうかを探りに来ただけだろうけど、でも、わざわざ、接触する必要があったのだろうか?いつもは、私を監視しているらしいけど、でも、さっきの猫達の反応だと、私が来る事を知らなかったみたいだし、と、言う事は、私を監視する余裕がないくらい『封鎖』に人手を回している事になる。』
美由は自分に与えられている判断材料を繋ぎ推理するが、答えは出てこない。
『駄目だ、判断材料が少なすぎる。猫の事は気になるけど、自分達で解決するみたいだし。私は勉強、勉強。』