猫のボスに会いに向かう。
テスト初日が終わり、美由はタヌキ主と約束を果たすため、学校の裏庭にやってくる。
タヌキ主は約束どおり、裏庭に来ていた。
来てはいたが姿が見えない。でも、彼が放つ獣臭さで居るのは分かる。
「タヌキ主、来ているんでしょ?」
タヌキ主は排水溝の中から、泥だらけになりながら出てくる。
「おお、魔法少女来たか。なぜ、自分がいる事がわかった?」
「あなたの体臭がきつ過ぎるからですよ。隠れるのであれば、その体臭を何とかしないと、隠れている意味が無いと思いますが?」
「むー。そんなに、きついか?」
「きついです。」
「何故、何の迷いも無く、そんな酷い事を。」
「事実だからです。」
「っく・・・。でも、自分ではそんなに感じないのだがなぁあ。」
「化け物化して、知恵がついたんですから、たまには体でも洗ったらどうですか?」
「嫌。」
「何で、即答なんですか。ドブとかから出て来た時もそのままだから、臭いが強いんですよ。」
「水浴びはどうも苦手でな。それより早く行くぞ。」
「わかりました。」
美由はタヌキ主の後ろからついていく。
「ところで猫は、まだ、封鎖を続けているんですか?」
「もちろん続けている。正直、ここに来るのも一苦労だった。」
「そうなんですか。」
「何で封鎖をしているか、分かりましたか?」
「さぁあ。さっぱり。何せ、理由を聞いても何も答えないしな。ちょっとしつこくすると襲って来るし。調べようが無い。」
「そうですか。ところで、昨日の朝からでしたっけ?」
「自分が気づいたのはそのころからだったなぁあ。」
「昨日の早朝なら、ここらへんの縄張りにしている猫達の使い走りを自称する傷だらけの黒猫が私に会いにきましたけど、特にそんな雰囲気はありませんでしたよ。」
「黒猫?ああ、あいつか。あの下手に出た丁寧な言葉遣いをしながら、裏で人を馬鹿にする、しゃべり方をする猫だろ?」
「どうでしょ?変な言い方をしますよね。理由を複数、挙げているのに、本音は語ってなかったり。本人はあれで通じているつもりなのかもしれませんが、良く、話が通じてない時もありますし。」
「それが馬鹿にしている。」
「そう、言われてみれば、そうなんですかね。でも、そんな感じはあまり受けないんですけど。」
「まあ、感じ方は人それぞれだからな。」
「あの猫に、前、言われたことがあります。私は表面だけを見て、話の裏を読もうとしないと。」
「話の裏なんていちいち読んでいたら面倒だ。裏を読んでも勘違いだったりする事の方が遥かに多い。あの猫みたいに、相手が自分の話をいちいち読む事を前提とした話し方は、自分は嫌いだ。」
「私も苦手ですね。」
一人と一匹は学校周辺の郊外を抜け、住宅街へと入っていく。
こんなにタヌキ主が堂々と歩いているのに、猫が襲ってくる気配はない。
『私と一緒に居るからこないのだろうか?』
まぁあ、封鎖している情報は、タヌキ主にしか聞いてないので、彼が本当の事を言って無い可能性もある。
「猫のボスは、昼間は、もう少し先の空き地にいる事が多い。夜は何処に居るかつかめんが。」
「そうですか。」