タヌキ主(2)
タヌキの化け物は、美由の知る他の化け物と、生き方が違う。
普通の化け物は都会か山かどちらかに暮らしているが、彼等、タヌキの化け物はその両方に棲む。
タヌキの化け物達は放浪暮らしをしており、ある程度、定住したら、また何処かに移動して棲家を探し、定住先が決まったら、しばらくそこに滞在して、また何処かに移動する。滞在するのは数ヶ月の事もあれば、2・3日の事もある。
かれらの棲家は、都会の真ん中でも山中でも構わない。暮らしやすそうな隠れる場所さえあれば、木の穴だろうが、ドブだろうが、配管の中だろうが棲む。
彼等タヌキの化け物は、血縁関係のある家族と一緒にそれを行っている。
常に放浪しているため、どこにいるわからない。
以前、タヌキ主と会ったのは、彼と一緒に行動していた家族が暴走した時で、その暴走を蛙主と一緒に止めた以来だった。
「中に入って良いか?」
美由の脳裏に以前、タヌキ主が自分の部屋に上がりこんだ時の記憶を思い出す。彼は異常に獣臭く。2・3日臭いが充満してとても部屋にいられず、寝る場所は自分の部屋しかないので我慢したが、毛むくじゃらの巨大な臭い化け物にひたすら追われ続けるという悪夢を見た。
「駄目です。」
「なぜ。何の迷いもなく。」
「臭いからです。」
「酷い魔法少女だ。それでも正義の味方か?」
「私は正義の味方でもないですし、酷くて結構です。」
「鬼!悪魔!臭いで差別するとは!」
「鬼、悪魔、差別主義者、結構。多少の臭いは我慢できますが、タヌキ主の臭いは2・3日強烈に続くので、あの臭いにうなされるぐらいなら、あえて汚名をかぶります。」
「・・・・・・・。」
「と、言うわけで、そこで話してください。」
「むむむ、仕方ない。まあ、長居するわけにもいかんしな。」
「で、猫との仲介役と言ってましたが、何でしょう?私は猫への仲介役になれる程、信用されてませんが。」
「ここいらの猫のボスの処に連れていってくれるだけでいい。」
「私はボスがいる処を知りませんが?」
「自分が知っている。お前さんはついてくるだけでいい。」
「では、一人で行けばいいじゃないですか?」
「それが、そうも行かなくてな。」
「どうして、ですか?」
「ここいらだけでなく、この街全体の猫が今朝から、あちこちに居て、ワシ等の様な化け物が出入りしないように封鎖をしているからだ。」
「はい?」
「良くは分からないが、猫どもがあちこちに居て、ワシ等の様な化け物を、自分達の縄張りに入れさせない様にしているのだ。」
「そうなんですか?」
「さっき、封鎖を突破しようと4匹ががりで一匹を襲ったんだが、あっさり返り討ちにあってなぁあ。」
「タヌキ4匹ががりでも、猫は倒せないんですか。猫ってかなり強いんですね。」
「あんなに可愛い顔をしておいて、わしらより圧倒的に強い。」
「へぇえ。」
『タヌキでも猫を可愛いと思うのか?』
「と、言うわけでだ、封鎖の突破に失敗した我々は作戦を変えて、自分一人で猫に見つからんように、こっそりと、ここに来たわけだ。」
「なるほど。」
「そこまでして来てやったのに、部屋に上がらせないなど、何たる仕打ち。」
「まだ、言いますか?」
「というわけで、この封鎖を解いてもらうため、交渉に行きたいのだが、その時、猫にあったら襲われる可能性があるので、ボディーガードとしてついていって欲しい。」
「わかりました。あしたの昼頃、学校の裏庭でいいですか?」
「了解した。」