第4話
説明ばっかりなわりに、作中の大筋とは今の所、関係無い内容なので読み飛ばしてかまいません。もしかしたら、必要になるかもしれませんが・・・。
部室棟の一角に、他の部室より2倍の広さがある空き部屋がある。
そこは、部室の扉の鍵は、閉められる事も無く、いつも開いている。
この広い空き部屋は表向きには、綺麗に後片付けをし、タバコや、気に食わない人間を集団で取り囲んでリンチをするなどの問題がある行動をしなければ、どの生徒も自由に使って良いとされている。
もし、発覚した場合は、数週間の閉鎖というペナルティーが科せられる。
表向きは誰でも使って構わないとなっているが、実際は違っており、特定の人たちにしか使う事の出来ない暗黙のルールがあった。
この部室は、生徒会で、緊急に広い場所が必要になった時や、文化祭や学校の備品の一時的な物置になったりするが、それ以外の場合、大きな派閥の社交場となっていた。
要するに、派閥に属している人間以外は、緊急の場合を除いて使っていけないのだ。
派閥は幾つもあるので、派閥に属していても、完全に自由に使えるわけではなく、派閥の代表が裏で話し合い、使う日時を決めて、競合しないように取り決めがなされていた。
勉強をドロップアウトした不良達もここを使う事は無かった。
昔何回が揉めた事があったが、女子の集団を敵に回すわけなので、人間関係で追い込まれていって痛い目を見るたるため、手を出さない様になっていた。
この部室はライバルの派閥も使うわけなので、後で陰口を叩かれない様に、使った後は綺麗に掃除をして帰るという暗黙のルールがあった。掃除をするのは聖エルナール学院のお嬢様達ではなく、普通にこの学校に入り、派閥に属した一般生徒達なわけだが。
今日は、須王寺 麗奈の派閥がこの部室を使っていた。
別に何か会議をするわけでもなく、ただ、しゃべっていた。
一般人にはあまり必要ではないが、お嬢様方には、馬が合わない人とでも、意味も無くしゃべり続け、会話を続ける事は結構、重要なスキルであった。
社交界には『壁の華』という言葉がある。
意味の無い会話を続けられず、壁にずっと立ったままの女性を差す言葉で、壁の華になると、その後、社交界には呼ばれなくなる。
こういった、大人になった時に、壁の華にならないため、意味の無い会話をひたすら続ける能力を磨く必要がある。そういった会話の訓練のため、この、ただ、集まってしゃべるだけの派閥の集まりは聖エルナール学院のお嬢様達には必要なことであった。
当然、先生方も、この事を理解しており、部屋の使用問題が出てきた時に派閥側の意見に賛同することになる。
無駄に会話を続ける事を訓練するこの集まりで、黙っている人がいた。
その人物は須王寺 麗奈だった。
普段は、彼女もこの集まりの時は、良くしゃべるというより、派閥で壁の華になっている子に声をかけ、会話をさせたり、考え方やノウハウを伝える事で、テクニックを磨かせているのだが、今日は黙って考え事をしていた。
『私は大した事は無い。この学校に来て、色々な経験をすれば、するほどそれを思い知らされる。私は自信満々な態度を演じているから、皆が気が付いていないだけで、私の実力はそんなには無い。だから、もっと実力が必要なの。そのためにはライバルがいる。ライバルを見て嫉妬して、もがき苦しんで、もっと、もっと、自分を成長させなければならないのに、後の二つの派閥の人たちは、私のライバルになってくれない。差がつきすぎているし、最初から向こうはこっちと競いあう、つもりがない。彼女達は上流階級で金持ちで自分達は高貴で特別だというプライドと世間と周りが勝手に思っている常識と自分の作り出した固定観念にとらわれているから、あれ以上成長する事はない。私は常識は嘘ばかりだという事を知っている。派閥の統治を行って、常識の嘘を自分で考えて超えなければならない事を知った。だから、この派閥を何とかやっていけている。』
他の派閥は今年に入り、去年と比べ現状維持か少し数を減らしていたが、一番というブランドがあるとはいえ、去年より数を増やしていたし、全体の士気も高かった。
『桜間さんは、私のライバルに十分になれる。彼女がライバルなら共に成長していけるはずなのに。彼女にその気が無い。』
どういう根拠で、須王寺がそう考えているかはわからないが、彼女はそう考えていた。
彼女は美由が、派閥の長になりたくないのも、おねぇえ様と呼ばれる事が嫌なのにも、恥ずかしがり屋なのも知っていた。
彼女のネットワークを使えば、直ぐにでも、聖エルナール学院の美由に不満を持つ人たちの誤解を解くことが出来た。
だが、あえてしなかった。
美由と登校中に話した内容を聞いていた人たちにも、口止めをしている。
それをしていれば、妙なトラブルに発展する事もなかっただろう。
『彼女はこの試練を乗り越えなくてならない。私のために。』