物質透過とだるまさんが転んだ。
午後の授業が始まる。
蛙主は、トイレで水浴びをした後、3年の美由のクラスの扉の前に立っていた。
『さて、はじめるかのう。』
彼は存在を薄くしはじめる。
『流石に、ここまで薄くすると、しんどいのう。』
扉に手を触れると、手は扉に吸い込まれていく。
『大丈夫そうじゃの。』
蛙主は扉をすり抜け、教室に入る。
そこでは、男の先生が英語を教えていた。蛙主は英語がさっぱりなので、何かの呪文にしか聞こえない。
美由を発見する。彼女は、かなり体調が悪そうに見える。
蛙主は宇宙遊泳をするかの様に浮き上がり、ゆっくと移動して彼女の机を目指す。
『この状態は、浮けるが、移動が遅いのがネックじゃのう。』
美由の目の前に降り立つが、美由は全く気づかなかった。蛙主は彼女の顔の前で手を振るが、全く反応が無い。
『流石に魔法少女でも、ここまで薄くなると、見えんようじゃのう。しかし、こりゃ、だいぶ、きつそうだのう。』
そう言って、彼女の胸にさわろうとするが、指が通過するため、触れない。
『この能力も良し悪しじゃなぁあ。見えはせんが、セクハラが出来ん。』
蛙主は窓際の方へ顔を向ける。
『さて、こやつが見えんのだがら、相手が多少見える力があっても見えんじゃろ。どこにおるかな?確か、一番、後ろの窓際だったかのう。』
蛙主は片奈 麻奈加を見つける。
『おったおった。多分、あの子じゃな。魔法を使うと見えた場合、ワシが見えてしまうから、後ろにまわらんとな。』
美由の机の上から、浮いて泳ぐ様にゆっくりと、教室の後ろへと向かう。
そして、彼女の真後ろに着く。
蛙主は、そこから彼女の指を見た。そこには、緑の宝石のついたリングがはめられている。
『これか。よー見えとるが、確かに、人には見えん様になっておるなぁあ。多分、指にはめると、透明になる仕組みなんじゃろうな。』
蛙主は魔法的力を見る。
『ふむふむ、そこそこ魔力を発動しとるなぁあ。そんなに多くはないが、これが永続的に続くとなると、随分、きついじゃろうに。』
ふと疑問がよぎる。
『それにしても、呪いの誘導といい、透明化といい。魔法の道具的には、随分と手のこんだ作りじゃのう。まるで、ゆっくりと、時間をかけて証拠が残らないように、自然に死んだ様に見せかける暗殺のための道具じゃのう。装飾については全くセンスが無いが。』
蛙主は、魔法を唱えようとした。
その時、片奈 麻奈加の体が少し動いた。
蛙主の動きが止まる。
『気づかれたか?』
でも、彼女は後ろを振り向かない。
蛙主は10秒ぐらい動かなで彼女の後頭部をみつめていた。
彼女が動かないので、魔法を唱えはじめると、彼女の首が横に大きく動いた。
蛙主はまた動けなくなる。
『な、なんじゃ? 本当に見えとらんのか?』
今度は30秒ほど待つ。そして、再々度、魔法を唱える。今度は、彼女は動かない。
蛙主は窓の外に、見えるモノにしか見えないすずめの形を作り出す。そのすずめは、動き出し、窓の狭い空間を踊るように移動する。
彼女はそれに気づいたのか窓の外を見つめた。
『どうも、見えてるようじゃのう。』
すずめは、はばたき、いなくなる。彼女はそれを確認すると、黒板へと顔を向ける。
『見えてるのう。』
蛙主は、用が済んだので扉の前まで、ふわふわと浮かんで移動する。
そして、もう一度移動し、片奈を見た。