コード
桐野と美由は、昼休み音楽室にいた。
桐野は、音楽室備え付けのアコースティックギターをピンピン鳴らしては、ギターの先端のネジをくるくる回している。
「あのー。桐野さん?何をしてるのですか?」
美由はピアノを習いたかった。だが、桐野はギターを握りしめている。謎の行動をしている桐野に疑問をぶつけた。
ギターの先端を見つめていた桐野は、美由の顔を一瞬見て、また、ギターの先端をみる。
「そんなの、決まっているじゃない?チューニングしているのよ。」
「見れば、それは分かりますけど、何でギターを握っているんですか?私が習いたいのはピアノなんですけど?」
「・・・?ん?ああ・・。もうちょっと、待ってね。」
彼女はギターをピンピン鳴らしては、ギター先端のネジをいじるのをやめなかった。
「よっし。」
桐野は強い視線で、美由を見た。
「えっとね。桜間さん。今からコードというのを教えるんだけど。ピアノだと概念を説明するのが難しいから、ギターで教えるね。ギターに金属が埋め込まれているでしょ?これをフレットって言うんだけど、このフレットをまたぐと、音が半音・音が変わるのね。」
「半音ですか?」
「そう。半音あがるの。」
桐野は一差し指と小指の二本を立てた。
「これがCメジャーね」
「Cメジャー?ってなんですか?」
「ドを基軸に2度づつ上がる三和音」
「っは?」
「うーん。流石にわからないか・・・。ドレミファソラシドで、ドの二つ上は、ミでしょ?」
「黒鍵を考えず、白鍵だけで考えるなら・・・・。」
「今はそれでいい。で、ドの4度上はソなのね。」
「はぁあ・・。」
「ああ、分かってないね?」
「すいません。わかってません・・。」
「ドレミファソラシドで、ドの4つうえは ド・レ・ミ・ファ・ソでしょ?ミで言った方がいいかな?ミの二度上だとミ・ファ・ソ」
「そうですね。」
「ド・ミ・ソの三つ。ドの二度上のミと、ドの4ド上のソ。ドを基軸とした2度上のミと4度上ソの3和音がCメジャーなのね。」
「・・・・・。Cメジャーはドミソだというのは分かりました。」
「よろしい。一差し指は、全ての弦を押さえているのを頭にいれてね。この指の形を保ちつつ、一つギターの内側のフレットへ移動すると、C#メジャーになるの。」
「??? それだと、黒鍵は常に白鍵の位置に無いので、単純に二度や4度あがらないのでは?」
「そうよ。」
「??」
「まあ、今はドミソを押さえている 指の形を維持しつつ、フレットを超えると、半音上がるとだけ理解してればいいわよ。」
「・・・・・・。わかりました。」
桐野は指の形をキープしつつ、フレットを移動させる
「これが、Dメジャー、E♭メジャー Eメジャー・Fメジャーと、フレットを移動させる毎に半音あがるのね。」
「はい・・・。」
「うーん。いまいち分かってないようね。」
「いきなり そう言われても・・・。」
「まあ、Cメジャーはドミソの三和音で、メジャーは、Cのドミソを基軸に半音づつ上がるって理解すれば。」
「・・・・。えっと。黒鍵の位置って、ばらばらじゃないですか?」
「ん?」
「ギターでCの指の形のまま、半音づつあげいったら、次のCの時同じドミソになるのかが・・・。」
「あ、ああ。ちゃんと一オクターブ上のCでもドミソになるわよ。」
「そうなんですか。」
「次は、Aマイナーを教えるわね、」
「はい」
「Aマイナーはラの音が基軸になってて、ラシドレミだから、ラの二度上がドで、4度上がミ。ラを基軸とする三和音、ラドミがAマイナーね。マイナーもAmを半音づつ上げていけば、A#m・Bm・Cmとなっていくね。」
「えっと・・・。そのメジャーにしろ、マイナーにしろ半音ずらしをピアノで再現するのは、ほぼ無理なんでは?」
「そんなこと無いわよ。」
「そうなんですか?」
「そうよ。だって、全ての指の形を覚えれば可能じゃん。」
「無理そうです・・・。」
「まあ、今からそう言ってようじゃ、本当に無理かもね。」
「そんなぁあ。」
「まだ、たかだか長短の三和音よ。世の中には減三和音とか増三和音とか4和音とかあって、4和音とかもっと複雑で・・。」
「いいです、ひとまず、AmとCメジャーを覚えます。」
「よろしい。」
桐野はギターを置き、ピアノに座る。
「ギターは、もう、いいのですか?」
「三十和音のコードはドとラの音を基軸にして全部半音上がるだけ理解させるために、持ってただけ。」
桐野はピアノの白鍵のドミソを押さえる。指と指の間が綺麗に一つづつ、白鍵が開いている。
「ドミソがC。」
「はい。」
桐野は、指の形をキープしつつ白鍵を一つ移動する
「これがレファラDm。」
「マイナーって、Am。ラの音が基軸のを半音ずつづらした?
「そう。まあ、そういった、事は良いから、ひとまず見てなさい」
「わかりました。
そう言って、指の形をキープしつつ、白鍵を一つずつ移動していく。
「これがミソシでEm。ファラドがF。ソシレがGで、ラドミがA。」
「と言うことは、白鍵を一つ飛ばしに3和音をかなれでれば、必ずメジャーかマイナーになると?」
「違うわよ。」
「え?」
「シだけ、その法則からはずれるの。」
「ではシを基軸とした和音はどうなんですか?」
「さあぁあ・・・。」
「さあって・・・。」
「だって、作者が理解してないんだもん。まあ、白鍵で二度と4度あげるだけの三和音はC・Dm・Em・F・G・AmでBだけその法則からずれると理解してればOKよ。はい、練習。練習」