美由と須王寺
美由は教室に来て、カバンから教科書とノートを取り出し机にしまっていると、須王寺が近づいてくる。
「桜間さん。ちょっといいかしら。」
美由はキョットンとした顔で、須王寺を見る。
「はい。どうぞ。」
須王寺はまわりを見回すそぶりをみせて「ここでは、あれですので、廊下の隅の方で。」
美由は須王寺についていった。
「桜間さん。すいません。」
美由は意味がわからない。
「須王寺さんが謝るような事を、私はされた記憶が無いのですが。」
「いいえ。噂で聞きました。昨日、派閥の件で圧力を受けたと。昨日ちゃんと、伝えておけば、こんな事には・・・。」
「あの、須王寺さん。おっしゃている意味が良くわからないのですが?昨日の昼休み、私の事が嫌いだという方が私を取り囲んで文句を言われたのは事実ですが、派閥だの圧力など一言も言ってませんでしたよ。」
「そうですか。では、分かる様に説明します。あなたは、私たちが、ここの学校の生徒で無い事は知っていますか?」
「今朝、後輩から聞いて、はじめて知りました。聖エルナール学院の生徒さんで、こちらに交換学生として来ていると聞きました。経営母体が同じなので、単位を共有できるとかなんとか。」
「学園の三大派閥は、昔から聖エルナール学院から来た生徒が代々受け継いできたんです。ですから、派閥というのは聖エルナール学院の生徒にとっての誇りでもあるわけなんです。」
「はい。」
「で、その聖エルナール学院の生徒の誇りである派閥を、ここの生徒さんに作られるのが許せない方々が結構おりまして・・・。」
「別にそれを知っていたからと言って、昨日の件が回避できたとは思えませんよ。」
「まあ、それはそうなのかもしれませんけど・・。」
「ところで、聖エルナール学院のお嬢様方が、何でこんな学校に来るのでしょう?」
「恥ずかしい話ですが、世間的には二流大のある優秀な聖エルナール学院とは呼ばれおりますが、内実は酷いものなんです。」
※あくまでフィクションであり、作者の思いつきで書かれています。実際にはこんな学校は無いのでフィクションとしてお読み下さい。
「酷い?」
「私どもの学校の新学期の日に何をするかご存知ですか?」
「知りません。」
「服と靴をつくるんですよ。学期毎に学校で。」
「へぇえ。そうなんですか。」
「一流のデザイナーとか職人さんたちを呼んで、上流階級のあるべき服や靴のオーダーや採寸の作法などを習うのが目的らしいのです。」
「凄いですね。」
「授業も、上流階級にあるべき、作法とか、ダンスとか、帝王学などが中心におかれているんです。」
「すいません。話が見えませんが?」
「そうですよね。で、そう言った事をしていたら、どれくらいの学力が身につくと思います?」
「わかりかねます。ただ、私が、大学に行くために勉強しているのを基準にして考えるなら、高い学力がつくのか疑問ですね。」
「聖エルナール学院は、国が決めた高校卒業の最低単位をとれば、後は自由に勉強しろいう校風なんです。それは漫画で出てくる様な不良学校卒業生と同程度の学力であっても問題はないって事なんです。最低単位をとれば後は自由になんて言われて、勉強する方がどれだけいるでしょうか?」
「しませんよねぇ。特に無試験で大学に行けるとなれば、なおさら。」
「そうなんです。それでは駄目だと思う方は、家庭教師をつけたり、学校で先生に必死に勉強を教えて貰おうと頑張る方もいますが、周りが圧倒的にやる気がなく、優雅な高校生活を送れさえすればそれで良いと思っているので、次第にそっちへ流れていくんです。」
「まあ、勉強をしなくてはならないという空気が周りにないと、個人の決断だけじゃ駄目ですよね。それに勉強をするなら、ある程度、周りとギリギリの競争をさせていかないと。」
「だから、学力がなければ将来、駄目だと考える変わり者が交換学生で、ここの学校に来るんですよ。」
「なるほど。」
「まあ、ここに来ても、1年の間に、この学校の水が合わないと言う理由で、聖エルナール学院の方に戻る生徒が半分程いますけどね。私だって、何度も聖エルナール学院に戻ろうと思ったことがありましたし」
「そうなんですか。」
『まあ、お嬢様には、合わないようなぁあ。この学校の勉強第一主義の校風って。私はずっと、トップクラスだったから、1年で居なくなった人に出会わなかっただけで、他のクラスでは結構、抜ける人が多かったのか。』
「あ、でも、土曜日は聖エルナール学院の必須単位である礼儀作法やダンスや帝王学を学ぶために行ってるんですよ。だから、私を土曜日の補習で見たことないでしょ?」
『そういやぁ。見たことが無い様なぁあ。強制ではないから気にはしなかったけど、確かに先生はスルーしてたな。でも、土曜の補習って、授業をすすめたり、基本問題や応用問題なんかをやるから、大変な事になる気もするが・・。まあ、彼女は学年上位だし、家庭教師なんかでそこらへんはカバーしてるのかな?それより、彼女が昨日の登校中に、私に派閥やらおねぇえ様やらライバルとか言っていたのは皮肉と忠告だったのか・・・。分かる様に言ってくれないと・・・。』
「それと、ひとつ、勘違いなされては、困ることがあります。あなたが私のライバルになってくれるのを期待しているのは本音です。」
そう言って、須王寺は去っていった。