授業
朋は数学の授業を受けていた。
正直なところ、不思議な感じがする授業だと、朋は思った。
授業そのものは、いつも通りなのだが、彼女個人が感じる感覚が全く違っていた。
いつもなら、黒板に書かれた内容をそのまま書き写すのだけで、いっぱいいっぱいで、先生の話を聞いている余裕すら無かったが、充分に間に合うのである。
筆記速度が上がっているわけではないが、何故か充分に間に合うのだ。いつもみたいに混乱しながら必死に追っている感覚がない。
『不思議。今日は黒板を書き写すのが余裕なのです。先生の話が理解できるのです。』
美由から貰った白本で、既にやったところなので、授業内容は理解しているので、むしろ授業の進め方が遅く感じるぐらいだった。
余裕がある朋は、暇なので先生の話に対し、思考を回してみる。
すると、黒板には解いた式しか書かれてない事に気づいた。
解き方で必要な『考え』が抜けているのだ。
黒板に書かれている内容で抜けている『考え』というのは、いくつかある。
まず、『目的』や『どうしてその手段である必要があるのか?』というのが明確化されてない点である。
先生の話でも、この『目的』と『手段』が曖昧なままで、あくまで「これはこうなる。」という説明なのだ。
テスト問題が公式を単純に解くだけなら、これでも問題無いが、文章題だとアウトである。
朋は美由から貰った白の参考書を解いて、常々、思っていた事があった。あの参考書の内容を授業で習った記憶が無いのである。
正確には習っているハズなのだが、別物に感じていたのだ。
『むー。授業を受けるには少し、悪意が必要な様なのです。』
ラブホテルの駐車場でシスターを監視していた、傷だらけの黒猫は、雨が止んだので外へ出て、猫じゃらしに埋もれながら、自分の前足の肉球を舐めていた。
そして、顔をなで回す。
「ジロー。その癖、良く無いよ。汚い。」
彼に取り憑いている、少女の幽霊がそう言った。
「何を言っているんですか。あなただって、髪の毛をしょっちゅう触っているでしょう。」
「あれは、好きでやっているわけじゃなくて、ほっておくと髪の毛が徐々にねじれて、からまるからやってるの。からまりを放置しておくと収拾がつかなくって髪の毛が痛むから、髪を長くするためには、やらざるを得ないの。」
「私だってそうですよ。毛繕いはこまめにやらないと。毛が痛むので。」
「毛繕いのために、肉球を舐めて、唾液を顔にぬっていたの?」
「そうですよ。てか、つきあいが長いのに気づいて無かったんですか?」
そういって、また肉球を舐めはじめる。
「私はてっきり、悪癖だと思ってた。唾液を顔に塗りつけて、不潔だなと。」
「失礼な。猫なら誰でもしますよ。やらないと、夏場は蒸れて暑いし、皮膚病やダニの原因になるんですよ。取り憑いているあなたにも、少なからず、私が感じる刺激が伝わるんですから、皮膚病になって常にかゆいとかイヤでしょ。」
「イヤ。」
「だったら、我慢してください。」