保健室で見た夢
朋は夢を見ていた。
少しセピア色がかった、鮮やかな色のついた夢だった。
小学生高学年ぐらいに見える彼女は、車が一台やっと通れる、アスファルトで舗装された山道を一人で歩いていた。
右手にはコンクリートで塗り固められた崖が、左手には真新しいガードレールとその向こうには広葉樹の森が広がっている。
知らない景色だが、何と無く自分が何処にいるか分かる。
この道はこの崖の上に続いており、そこには住宅地がある。
20年程前に都市部の住宅需要を満たすために県が主導して山手に作ったニュータウンというやつだ。
何でこんな処にいるのか彼女は自分の記憶を辿る。どうも学校帰りらしいという言葉が浮かんだ。
自分の家は100K程先で、この崖の上の住宅街を越えなければ、家に帰り着けないらしい。
朋がカーブを曲がると、坂道が続く。
坂道を登ると住宅地が広がっている。
『道が分かる。この道をまっすぐすすで・・・。しばらく行けば、急に下る道があって、そこから国道に降りて・・・。私、何でわかるんだろう?』
『そうか、夢なんだ。』
朋は夢と気がついても、歩みを止めずに歩き続ける。
『夢はいっぱい見てきたけど、こんなに広範囲までハッキリと存在がある夢は初めてかも。』
彼女は辺りを見回す。
『蛙さんと来る、夢の中の世界とは違うのです。感覚がぼやけているというか。』
歩いている感覚はある。だが、歩いている感触は無い。早く歩こうとしても、どろりとした感覚に包まれ早く歩こうという気力が消えていく。
蛙主とのシミュレーションでも、ぼやけた感覚というのはあるが、こんなにぼやけてはいない。もっと、擬似的な感覚があり、自分の意思で動ける自由度合いが違う。
朋がそんな事を思いながら歩いていると、前から母親と男の子が手を繋いで、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
その親子とすれ違おうとする時に、目が覚めた。
保健室のベッドの上だ。
自分がハッキリ覚醒しているのが分かる。
「お、起きたね。」
保健の先生とアイスティーを飲んでいた、近藤がそう言った。
「すいません。今、何時間目ですか?」
「二時間目かな?」
近藤はそう答えた。
「わあ。私、授業に出なきゃ。」
「先生には、言ってあるから、ゆっくりしていけば?」
近藤は無責任な発言をする。
「駄目です。私、頭が良くないので、授業が分からなくなるのです。」
朋は教室に戻った。
二時限目の授業には間に合ったが、先生に謝っている最中に、終了のベルが鳴った。
自分の席につき、溜息をつくと、朋の友達3人が、ニヤニヤしながら寄ってくる。
「聞いたよ。朋。今度はあのイケメン先生にお姫様抱っこされたんだって?」
「あうー。」
「いいなぁあ朋は、あの桜間先輩に続いて、イケメン先生にまでお姫様だっこされるなんて。」
「美由先輩にはされてないのです。」
三人は朋の発言を聞き、顔を見合う。
「やっぱ、本当だったんだ。惜しいな。そんなイベント見逃すなんて。」
「見られなくて良かったよー。だって、恥ずかしいもん。」
「照れない。照れない。で、どうやって、近藤先生にお姫様だっこさせたの?」
「させてないもん。何か今朝は寝不足でボーっとしてたら、先生にぶつかって、気分が悪そうだとか言って、無理矢理、されたのです。」
「ほうほう。きっと、小学生ぐらいの女の子が気分が悪そうだから、みたいな感じなのかな?ああ、私もそういう可愛さがあればなぁあ。私みたいに成長したら、親ですら、ちょっとした風邪くらいじゃ、心配してもくれないし。」
「ぶー。全然嬉しく無いのです。私は大きくなりたいのです。」
「ええ。私は嫌だよ。せっかく、こんなにカワイイのに。」
「あうー。」