保健室
朋は近藤遙人にお姫様抱っこをされながら、保健室へと向かっていた。
登校ラッシュ時なので、彼女達が進む先には当然、登校して来た生徒がいっぱおり、冷たい目線で朋を見つめていた。
イケメンの先生に抱かれている、小柄な少女は頭の回転が鈍いために、そういう視線には全く気付かずにいた。
保健室は靴だなの隣にあった。扉は閉まっている。
「月見君。保健室の扉を開けて貰えるかな?見ての通り両手がふさがっているんで。」
「ええ構いませんよ。」
そう言って、月見は扉を開ける。
「ありがとうね。月見君」
「どういたしまして。」
近藤は、づかづかと保健室の中に入り、室内を見回す。
「あれ?保健の先生はいないのか。」
近藤はベッドの上に朋を置き、毛布をかける。
「月見君。僕は保健の先生を呼んでくるから。今日は特に伝える事も無いし教室に行っていいよ。」
近藤は、『朋』に気を回しすぎて、待ち合わせ場所を決める事を忘れていた。
「気になさらずに。行って下さい。私はこの子の様子を見ておりますんで。」
「そうかい?」
近藤は朋のほっぺをつつく。
「良い子でいるんだよ。」
そう言って、振り返ると、複数の女子生徒が保健室の入り口で、三人を覗いている事に気付く。
「ハイハイ、君たち。良い子だから、そこ開けてね。」
入り口を塞いでいた女子達は、すぐさま道をあけた。近藤は保健室を出て行く。
そして、女の子達はまた、保健室内に目をやる。
その視線に気付いた月見は、彼女達を見て言う。
「申し訳ありませんけど、彼女、気分が悪いの。そっとしてくれるとありがたいんだけど。」
「あ、すいません。月見さん。」
野次馬の女子達は慌てて、去っていった。
月見は、朋を見つめる。
朋は毛布で口を隠しながら、ちょっと怯えた表情で月見をみていた。
「あなた、昨日、瞑想を使ったでしょ?」
朋は不思議そうな表情をする。
「昨日、全校朝会があった後に、私の前で桜間先輩に使ったやつ。今のあなたの症状は覚え立ての子が、自分の力量も考えずに調子にのって使った症状にそっくり。」
「あ、あのーえっと。」
朋は何か言おうとするが、頭が回転しないために、何を言って良いかわからない。
「いいわよ。無理にしゃべろうとしなくて。私もなった経験があるから。今はじっくり寝なさい。寝れば治るから。」
朋はしばらく月見を見ていたが、視線をはずし、ゆっくりと目を閉じた。
「あなたは何モノなのかしらね。」
「失礼します。」
そう言って、保健室に入って来たのは、桜間美由と桐野舞奈だった。
「あら、桜間先輩に桐野先輩。おはようございます。」
「月見さん。そこで寝てるの朋ちゃんだよね?どうしたの?」
「うーん。ただの寝不足だと思いますよ。」
美由も桐野も、月見の言い回しが奇妙だとは思ったが、無視してベッドに寝ている朋を見る。
朋は目を閉じていたが、目蓋を開き、美由を見た。何かボーっとしている。
美由にもこの症状に心当たりがあった。イメージ戦闘のやり過ぎで脳に負荷がかかりすぎた時に出る症状だった。
「美由せんぱい・・・・。」
「朋ちゃん。大丈夫?」
「桜間先輩。今は寝かしてあげましょう。」
「そうだね。」
近藤と保健の先生が帰ってくる。
近藤は新しく増えている二人を見る
「あれ?君たち。どうしたんだい?」
「朋ちゃんが、先生に連れられて保健室に入るのを見たので。」
「なんだい。僕のメイドさんになたいって言いに来たんじゃ無いのか。」
「ハイハイ。冗談はいいから。そこの三人どいて、邪魔。」
保健の先生がベッドにむらがる三人をどけて、朋の横につき、指を一本つきたてる。
「はい、これ何本?」
「・・・・・・。一本です。」
「じゃあこれは?」
「三本です。」
「一足す一は?」
「・・・・・3いや。2です・」
「一引く1は?」
「2?いいえ0です。」
先生は毛布をはぐ。
「右手をあげて。はい、つぎひだりてあげて。ぐっぱーぐっぱーして。どっか、しびれるとか、逆に動かないとかある?」