バスにて
「処で桜間さん。ピッチングの方はどう?」
「何です?唐突に。昨日、初めて習ったのに、上手く出来るはずがないじゃないですか。夜に少し投げてみましたが、それが全然で。」
「おお。秘密特訓とは、やる気あるね。関心、関心。」
「だって、ピッチングを覚えないと、ピアノの練習につきあってくれそうにないので。」
「そんな事無いわよ。うーんと、そっちの方は練習してるの?」
「毎日かかさずにやってますよ。」
「ふーん。どこまでやったっけ?コードは説明したっけ?」
「いいえ、全然。」
「そう。じゃあ。これ丸暗記しといて。ドミソシレファラド。」
「待って下さい。突然言われても、メモしますんで。そう言って、鞄からノートとボールペンを取り出す。」
「ドミソシレファラド。」
「ドミソシレファラド。ですね?」
「そう。白鍵盤でいう処の二つづつ上がっているから。」
桐野は、美由の顔の前に手の平を出す。
「ど・れ・み・ふぁ・そ・ら・し」
そう言って、指を折る。
「7個でしょ?」
「はい。」
「奇数だら、ドミソシの後、一つずれて、レファラになるの。レファラの後、一つずれてドミソシに戻るの。二個づつ音階をあげると、全ての音階を1度通った後ドに戻る。」
「??良く分かりませんが・・・・。」
「まあ、分からなくてもいいのよ。音階を二つづつあげていけば、そういった法則でループするという概念があると理解してれば。」
「それが、何かの役にたつんですか?」
「役に立つも何も、音階のループ概念が理解できないとピアノでコードを弾くのはまず無理。」
「ピアノで?」
「ギターなら、この概念を理解する必要は無いわね。指の位置を覚えればいいし、半音ずらしの概念も簡単だから。」
「へぇえ。良くわかりませんが。ドミソシレファラドですね。」
「それを覚えたら、今度は、ドミソシとレファラドを分けて覚える。」
「何でですか?わざわざ、分けなくても。」
「後で分かるわよ。ピアノが無いのに教える事は出来ないでしょ。」
「分かりました。今日の放課後、教えて下さいね。」
「まあ、今日はずっと、雨っぽいしね。私としてはピッチングの方をやりたいんだけど。」
「ピッチングと言えばですね、昨日の夜、練習していたら、野球マニアらしき女性がやってきて、体重移動がなってないと言われました。」
「へぇえ。変わった女の人もいるもんね。見ず知らずの女性に声をかけて、野球の指導なんて。」