電話
「はぁあ?救済者?何、それ?」
神園は自宅で携帯電話を片手に、そう言った。
「ふん。ふん。はぁあ。ああぁーあ」
神園は相づちを打つ。
「ああ、末世論者の事か。で、そいつらが、須王寺家を襲ったわけ?」
『その鬼、単独なのか複数なのかは分かりませんが、まあ、そういう事みたいです。』
電話口から、男の声が漏れ出てくる。
「あいつら、金があるからねぇえ。で?理由は分かっているの?」
『詳しい事は何も。』
「了解。ありがとうね。」
そう言って、神園は電話を切り、仕事に出かけようと後ろを振り向くと、そこには、腕組みをして、不適な顔をしている須王寺月見がいる。
「うお。あんた、いつの間に私の後ろへ、てか、いつ、この部屋に入ってきた?」
「今の電話、誰から?」
月見は微妙な表情で、神園を問いただす。
「私が使っているオカルト関係の商品を取り扱っているデブおっさんからよ。」
「あんた電話中に『須王寺家を襲った』とか言ってたわよね?あの鬼の事でしょ?何を教えて貰ったの?」
いつに無く、月見は真剣に聞いてくる。だが、神園は彼女が知っていると思われる以上の情報をもっていない。
「私より、あんたの方が詳しいだろ?家に身柄があるんだし。」
「家の者は、何故か、私にはその類いの情報を教えてくれないのよ。」
「ああ。ここ数日のあんたの動きを見て、変だとは思っていたけど、そういう事か。説明すると話が長くなるから、仕事から帰ってきてからな。」
「駄目。今、話して。今日も深夜シフトでしょ?朝まで帰って来ないし、その後は寝ないといけないんでしょ?そう考えたら、いつ話が聞けるか分からないじゃん。」
「ああ、もう、分かったよ。手短にな。末世論者・・・。いや、救済者ってーのが、あんたんちを襲ったの。」
「何で?」
「知らないわよ。私が聞いたのは、その救済者だって事だけ。」
「救済者だか、末世論者だかって、何?私知らないんだけど、何なの?」
「あー。ええーとだな。人間の行いが悪いから、神の怒りを人間が買って、世界の終わりがやってくると訴える連中の事。」
「何?カルト系新興宗教か何か?」
「まあ、そういう連中もいるな。私達の業界で、末世論者だの救済者だのを指す場合は、ただ、人々にそういう教えを広めるだけじゃなくて、世界の終わりがやってこないために、自分達の手で世界を終わりへ導こうとする、矛盾に満ちた行動をとる連中等の事を言うんだけど・・。。」
「何で、そんな事するの?」
「知るかよ。そんな事言って、実際に、行動を起こしている連中なんて、ごまんといるんだぞ。そいつ等、一人一人の考えなんて知るか。まあ、でも、私が実際に出会った末世論者の幹部達は、金儲けと自分の支配欲を満たすためにやってたな。」
「何で、世界を自らの手で終わりに導く事が金儲けにつながるの?」
「まあ、色々とあるんだけど、一番、分かりやすいのが、信者からの寄付。」
「ああ、なるほど。」
「それ以外にも、世界情勢が不安定になれば、物資が不足すだろ?物資が不足すれば、足下を見て、物資の値段をつりあげられるだろ?信者からの寄付より遙かにボロ儲けが出来る。」
「救済者って、そんな即物的な連中なの?」
「純粋に幹部連中でも神の怒りを信じてやっている連中もいるんだろうが、私が知っている限りでは、そんな連中ばっかりだな。まあ、どっちにしろ、迷惑このうえない連中である事には変わりないけどな。」