不思議な踊り2
「もう。桜間さん。何が分からないの?」
桐野が腰に手をあて、上半身を少し倒しながら、そう言った。
「いいえ。回転モーメントなら、グローブをはめている方の手や左足をピンと伸ばせというのはわかるのですが、何故、ボールを持っている手の方を伸ばせと言わないのかが分からなくて。回転モーメントで言う処の腕の長さを変える事で、回転力を増すのであれば、もう片方のボールを持っている方も伸ばした方が効率が良い様な。・・・。」
そう美由は反論した。
「それは、ボールを持っている方は、ピンと伸ばす意識をすると不具合があるからよ。」
「はい?」
「回転モーメントの変化を得るために腕を伸ばす必要はあるのよ。ただ、意識して伸ばすと駄目なのよ。」
「うーんと、良くわかりませんが。」
「さっき、両腕を前に出した後、素早く後ろに引いたでしょ?」
「ええ。」
「手の先が肩の後ろに行った後、反動で肩より前に手が出るでしょ?」
「はい。」
「ボールを投げる方の手はその反動を利用して加速させるから、ピんと伸ばすイメージをすると、一瞬動きが止まるのよ。それに、ガッチリ、ピンと伸ばすと、手首や肘にも力が入って逆に遅くなるのよ。両腕とも回転モーメントの加速を得るために伸ばす必要があるんだけど、グローブ側とボール側の腕では事情が異なるのよ。」
「だいたい、わかりました。で、この歪んだ「オ」の体勢からどうすれば?」
「伸ばしている足を回転させながら、グローブを持っている腕をわきに入れて、ボールを持っている方の腕をL字にするの。そうしたら、腕の長さが変わって、回転力が増すでしょ?」
美由は言われた通りしてみたら、そのまま、バランスを崩す。
「ああ、ごめん。地面につけている足で蹴り込まないと。」
「先に言って下さい・・・・。」
美由は普通に立って、ボールを持った。
「違う。桜間さん。ボールの持ち方はそうじゃない。」
そう言って、桐野は美由のボールを取り、ボールを握る。
「いい?フォアシームはこうよ。覚えて。」
「はぁあ・・・・。」
「違う!!その持ち方は間違っている。」
美由の後ろから男の声が聞こえてきた。
三人は声の方を向く。
そこには、近藤遙人がいた。
遙人はズカズカと、桐野の下にやってきて、ボールを取り、握って、桐野に見せる。
「フォアシームはこう。親指の位置が違う!ボールと指の設置点で綺麗な台形を作るのではなく、親指は下。この親指の先の横っ腹で縫い目に食い込ませた方が縦回転をくわえやすいだよ。」
「美由せいぱい。ふぉあしーむって何ですか?」
「さあ?」
「ところで、君は彼女をどう育てるつもりなんだい?」
「それは、見て、あの桜間さんの手!あの大きな手なら、フォークが投げられるわ。フォアシーム・ツーシーム・フォークの縦の落差で勝負する投手にするつもりよ。」
「それには、賛成出来ないな。やはり、フォアシームの後は、王道のカーブを教えてから・・・。」
「いや、カーブなんて覚えなくても、縦よ。あの身長なら、対男子でも良い勝負が」
「美由せんぱい。あの二人は何を話しているのでしょうか?」
「大丈夫よ。朋ちゃん。作者も野球を知らないので、もっともらしい事を書いているだけで、基本的に言っているのは全部デタラメだから。」
「野球やっている人からクレームがきそうですね。複雑なのです。」