3-6 数学の参考書
「そう言えば、朋ちゃん。来週から中間テストだね。」
美由は下校中の道を歩きながら、朋にたずねる。
「あうー。私、全然、勉強してません。テスト期間中は一夜漬けの毎日です。」
「あらあら。うちに帰ったら、勉強する癖はつけたほうが良いわよ。」
「はうー。判っているんですけど。美由先輩は一夜漬けとかしないんですか?」
「しないよ。と、言うより、私は一夜漬けに向かないタイプだから。」
朋は美由の言っている意味が分からなかった。
「『向かない』って、どうしてですか?」
「私、物凄く要領が悪いのよ。みんな、山が当たったとか言うんだけど、どうやって、そういう目星をつけて勉強が出来るかわからなくて。」
「意外です。」
「うーん。朋ちゃんの意外が何を指しているのか、良くわかんないだけど、黒板に書かれている内容と教科書に書いてある内容をただ単に暗記したって、テストには何の役にも立たないと思うんだけど・・・。」
「そんな事はないです。それは美由先輩が先生の話を、ちゃんと聞いていないからです。先生は優しいので、『ここテストにでるぞー』と教えてくれるのです。丸暗記しておけば、そこの問題が必ず出るんです。」
美由は自分の11年間の学校生活を思い返すが、そんな優しい先生に出会った記憶はなかった。
『どうも、私は運が悪いらしい。』
「それにですね。友達のネットワークを使えば、どこが出ると、教えてもらえるのです。」
そう朋は力説する。
『私の友達には、そういう友達はいなかったなぁあ。』
「ええっとね、朋ちゃん。ウチの学校は進学校で、大学に行くのが目的の学校なわけ。そういう、やり方では、大学にはいけないと思うのよ。」
「あうー。確かに、そうですよね。」
「朋ちゃん、何の課目が苦手?」
「全部苦手ですけど、得に数学が苦手です。」
『数学か・・・・。』
「朋ちゃん。数学、どんな勉強してる?」
「教科書とかノートとか使うけど、全然だめで、問題集買ってきても、何が書いてあるのかさっぱりで・・・」
『教科書を使っているのか・・・。それは、確かに駄目だな。』
「えっとね。朋ちゃん。教科書で勉強しても、数学は駄目だよ?」
「え?そうなんですか?」
「教科書には解き方も、問題の答えも書いて無いから。教科書は、先生の教えを聞かないと理解できない作り方をしているから、家で、教科書を使って勉強しても何の役にも立たないよ?」
「あうー。」
「そのために、参考書というのがあるわけで、参考書には問題の解き方も答えも書いてあるから、自分で勉強するには必須なの。問題集なんかは、参考書の内容をある程度理解した後、ミスを減らすためのもので、参考書をまずマスターしないと何の役にもたたないよ。」
「私、勉強の順番が違うんですね。」
「朋ちゃんには特別に私の数学の参考書をあげよう。」
「いいんですか?」
「私は、今は、もう一ランク上とそのひとつ上の参考書を使っているから、もう使わないし。まあ、あげても、どうせやらないとは思うけど、気休めぐらいにはなるから。」
「うー。数学の参考書は3つもランクがあるんですね。」
「私が使っているのは、3つじゃなくて、4つあるよ。私は赤本まではやる予定は無いから。と、言うより、黄色が後少しで、受験までに緑が終わるかどうか怪しい状態だけど。」
「赤本ですか・・・。」
「白・黄色・緑・赤の順であって、白が一番簡単で、赤が一番難しいのね。白は先生に教えられなくても、自分で数学の基礎を学べる様に作られてるんだけど、白を一通りやっても、黄色には歯がたたないの。で、白の隅っこに書かれている難しい問題がある程度解けるようになれば、黄色に入れるようになるって、感じかな。」
「先は長そうです。」
「この学校のテスト問題だと、黄色ぐらいまでは解ける様にならないと、良い点は無理かなぁあ。白までやれば、赤点は無いと思うけど。」