電話
神園は、二階の自分の部屋で布団の中でうつ伏せになりながら眠りについていた。彼女の隣には大きな黒犬のメリーが寝ている。
時間はもう昼である。
遮光カーテンを閉じているため、部屋は暗いが、太陽の強い光が隙間から漏れていた。
彼女がこの時間に寝ているのは、昨日、深夜のシフトに回されたからで、朝、帰ってきて、そのまま、布団へと転がりこんでいた。
漏れてくる太陽の光が気になり、なかなか深い眠りにつけないでいた。
そんな折り、けたたましく神園の携帯電話が鳴り響く。
神園の脳にも電話のコールが聞こえているのだが、曖昧な眠りの状態で体が重いため、無視することに決めた。
電話のコールが止まり、数秒すると、また電話がうなり声をあげる。
『うるさいなぁあ。』
神園はまた無視するが、何者かが自分の頭をゆるす。
やわらかい、ぬいぐるみのような感触だ。
「あねさん。電話です。起きてください。」
チェックの黄緑のぬいぐるみのクマゾウの声だ。
頭をゆすられ、かなり不快になった神園は上半身をムックっと起こす。
「ああ、うるさいわねぇ。」
そういって、クマゾウをつかみ壁に投げつけたあと、自分の携帯電話をとり、電話にでる。
「はい。だれ?」
「あんた、何で早くでないの?この私が電話をしてあげているのよ?」
怒りに満ちた月見の怒号が電話先から聞こえてくる。
神園はぼさぼさになった、金髪に染めているストレートの髪をかきむしる。
「ああ、悪い、こっちは、今日は深夜シフトで、今、寝ている最中だったのよ。てか、昨日話したよな?」
「あんたの事なんて、どうでも良いのよ。」
「・・・・・・。」
ここは怒るべきなんだろうけど、気力がわかないので流す事にする。
「なに?こっちは眠いんだけど。」
「あんた、確か、ねぇえさまの友達つけましていたとか言ったじゃん。桜間先輩。」
「ああぁ。」
「その桜間先輩の後輩で、なんて言えばいいのかしら?中学生になったばっかりの女の子みたな感じの子の事知らない?」
神園は朋の事を思いだす。雨の日に鬼を倒した魔法少女だ。
「あぁああ。あいつかぁ。」
「知ってるのね?何者なの?」
まさか、魔法少女だと言うわけにもいかなので、いろいろと考える。ただ、月見は『何者?』と、聞いているので、何かには気づいていると思ったほうがいい。
「詳しくは知らないが、あの女、えっと桜間だっけか?と、同じで良く見える目を持っている女だ。消えているメリーをハッキリ見る事ができたな。」
「それだけ?」
「・・・・。他に何かあったかなぁあ。何もできない女の子ぐらいの印象しかないなぁあ。会ったのは2回で、それもちょっとの時間だったし。」
「そう。」
「あのチビに、何かあったのか?」
「私の前で、桜間先輩に向かって瞑想を使ったのよ?」
「めいそう?何だそれ?」
「あんた、知らないの?夢に近い世界に入って頭の中で修行するの?」
「ああ、あんたの処では、瞑想というのか。私らの業界では、出来なきゃ話にならないが、一般人で知っているのは妙だな。別に秘術というほどでもないが。」
「でしょ?何かあると見たわ。あの子。」
「ほっといてやれよ。出来るからって、悪さが出来るわけじゃないし。」
「まあ、その話はもう良いわ。」
「何が良いんだか・・・。」
「それとだけど、今日、学校でモドキの猫をみたのよ。」
「モドキの猫?珍しくもない。」
「そうなの?」
「ここいらは、確かに多い方だけど、普通にそこら辺にいるだろ。」
「私、ほとんど、見た事ないんだけど・・。」
「普段から、家に引きこもっているか、学校に行くかしかしてないからだろ?」
「そんな事はないわよ。」
「だったら、あんたらが化け物退治をしまくったから、モドキに避けられてるんじゃないか?」
「あなた。自分も退魔師だって事忘れてない?」
「私も嫌われてるだろうな。ここに来た時、ここいらのモドキに喧嘩売りまくったから。まあ、大きな街を歩けば、良く見かけるさ猫のモドキなんて。それより、何だ?そのモドキを暇だから、駆逐でもするのか?」
「そんな事はしないわよ。でも、ねぇえ様に何かあってからでは。」
「うーん。気にし過ぎじゃないか?ここら辺は随分と安定しているからなぁあ。ここ最近の化け物関係の事件って、あんたらが連れてきた鬼と、恐竜ぐらいだろ?」