10話終わり。
「何故だー。」
元部下の猫は、傷だらけの猫にマウントをとられ、首根っこを前足で押さえられながも、もがきながら叫ぶ。
「不穏当な発言をしていて、あれだけ殺気を放っていて、我々が電線という不利な立ち位置にいて、あれだけスキがあれば、それは狙うでしょ。」
「卑怯だぞクロ。勝負だー。正々堂々と戦え。」
「ええぇえ。私は戦いたくないんですけど。」
「ジロー。私が戦っても良いよ?」
「あなた単体ですか?」
「まさか、ジローの体をかりて。」
「だそうですが。どうします?私はやめておいた方が良いと思うのですが。」
「いいだろう。それで受けてやろう。」
「知りませんよ。」
黒猫は後ろへ飛び退く。
元部下は起き上がり、戦闘態勢に入る。
「よくも、私がのし上がる計画をつぶしてたな。クロ。」
「全く記憶に無いんですけどねぇえ。私がした事と言えば、うちがお隣のグループに昨夜迷惑をかけたという事でそこのボスのクレームを聞いた事と、昼にうちがお隣に攻め込んだとき、どうも惨敗しそうな状況だったので、しんがりを勤めたぐらいで。他には何も。」
「嘘をつくな。お前が裏から手をまわさなければ、我々の精鋭部隊が隣のグループに負けるなど・・。」
「精鋭部隊?ウチで一番弱いメンツだったような・・・。」
「しらばっくれるな。あいつらがおめおめ帰って来た後の話しだ。」
「それは私は知りませんね。何せ、私に怨みを抱く三匹の猫にリンチされていたので。手の出し様が無いというか・・・・。てか、あなたが黒幕だって、今、はじめて知りましたし。」
「嘘?」
「いや、本当に。のし上がりたければ、私に地位があった時に言えばよかったのに。すぐに変わってさしあげたのに。」
「何故だ?計画は完璧だったはずなのに。」
「あなたは私より遙かに優秀ですし、他人を動かす魅力も能力も私より遙かにあります。ただ、あなたは組織を運用する能力が足りなかっただけですよ。ただ、それだけです。」
「そんなハズはない。あんたの下で組織を動かす実績を積んできた。」
「あなたは華やかなモノや、格好いいモノしか知らないんですよ。組織運用は、現場で泥水をすすり、辛酸をなめてもがき苦しむ、かっこわるいモノの方が遙かに大事なんです。」
「ジロー。難しい話しはいいよー。それより、勝負。勝負。」
「相変わらずの戦闘民族ですね。」
黒猫は元部下を見る。
「さあ、いらっしゃい。」
元部下は黒猫に飛びかかる。黒猫は横に飛びかわす。
「ジロー?この猫、強いね。」
そう言っている間にも元部下の攻撃が続く。
「ええ。多分、私より強いかと。」
「ジローの『ジローより強い』はあてにならないからなぁあ。」
黒猫は1m程高く、後方にジャンプしたかと思うと、前に飛び込み二・三発相手の腹に前足をうちこみ、そのまま頭突きをかます。
元部下はその場に倒れ込むが、すぐに起き上がる。
「おおやるねぇえ。」
「何故だ。クロの実力はしれているハズ。それに体を動かしているのは女。負けるはずが無いのに。」
「だから、やめとく事をすすめたのに。私ならこの格闘馬鹿少女と戦うなんて馬鹿なマネはしません。」
「ジロー。女の子に馬鹿は失礼だよ。」
「褒め言葉として受け取って下さい。」
黒猫は元部下に飛びかかる。
ハッキリ言ってしまえば、勝負にならない状態だったが、本田は致命傷を避けているため、相手が中々負けを認めず、ダラダラと戦いが続いていく。
「うるさいだぎゃ。あんさんがた、なに、人ん家の前で暴れとるね。」
ボス猫が家から出て来た。
「ああ。これはボス。こんばわです。私に今取り憑いている幽霊さんが、あなたに用事があるとかで、連れてきたんですけど。」
そう言いながら、元部下の攻撃をかわす。
「ごめんね。元部下さん。」
そう言って、重い一撃を与える。元部下はうずくまり動かなくなる。
黒猫はボス猫の方を見る。
「ボス猫さん。お願いがあるんです。私、もう少しジローと一緒にいたいの。だから、それを認めて欲しいんです。」
「そないな事をいちいち言いにきたんね?」
「そうです。ジローと私にとっては大事な事です。」
「今はそぎゃーな事にいちいち構っている場合じゃねぇえでよ。勝手にすりゃええ。」
「だって、ジロー。良かったね。」
「そんかわり、クロ。この内乱をおさめるだーよ。」
「私ですか?無理ですよ。」
「おみゃあさんの無理は、わしゃしんじん事にしてる。」
「ボス、無茶言わないで下さいよ。それに、私では誰も言う事をきかないですよ?」
「クロ。、まかしたでーよ。わしゃ、内乱がおさまるまで引き籠もるで。」
そう言って、ボス猫は家へと戻っていった。
「勝手な。」
「良かったじゃない。私も消え無いですみそうだし。」
「そのかわり、アホみたいに仕事が増えましたけどね。」