元部下の猫
薄暗くなった町中の電線を渡る猫は独り言の様に話しはじめる。
「ねぇえ、ジロー?この内乱ってどれくらい続くと思う?」
「そう長く続かないと思いますよ。」
「何で?」
「戦争というのは、古来から総力戦だからですよ。」
「総力戦?」
「人も猫もゴハンを食べなきゃいけないでしょ?」
「うん。」
「平和な時でも、生きていけるだけのゴハンを手に入れるだけでも大変な労力がいるんですよ。」
「それで?」
「兵隊って生きるためのゴハンを得る労力を戦闘行為に回しているので、誰かが彼等のゴハンを見つけて来て、兵隊を養う必要があるんですよ。」
「うん。」
「戦争をやりたい方が食料をストックしているんでしたら問題無いのですが、大抵の場合、ギリギリの状態で戦争を開始するので、兵隊以外の関係者全員が彼等の食料の面倒を見る必要が出てくるんです。要するに、ちゃんと働いている一般の方々がいるから、戦争が出来るんですよ。兵を一人養うには、ちゃんと働いてくれる人々が何人かいないと、ずっとは、やっていけないんですよ。逆に言うと、労働人口がある程度いないと、戦争をずっとやり続ける事は出来ないんです。」
「ほうほう。」
「今は労働者も兵隊に回さないといけない状態にあるので、短期決戦か現地で略奪していくかしかありません。勝ち続けていれば問題はありませんが、戦闘が膠着状態になったら、一気に軍が飢えてしまうわけです。」
「ゴハンが無くなれば終わりって事だ。」
「そういう事です。」
「だったら、短期決戦で勝利して略奪に成功してるかもしれないよ?」
「その可能性も無いとは言えませんが、多分、無理だと思いますよ。」
「なんで?」
「私を倒すのに、三匹も割いているからですよ。戦争は数です。ただでさえ今は数が足りないのに、戦略的に全く重要でない私に戦力を割くという愚かな事をしているので。」
「それだけ、ジローは驚異って事だよ。」
「私は驚異と呼べる程の存在ではないんですけどねぇえ。」
「そう思っているのはジローだけだと思うよ。」
「あ。」
「どうしたの?ジロー?」
「いや、魔法少女様に同じ台詞を言ったなと思いまして。」
「美由ちゃんに?」
「ええ。」
「さて、もうすぐ、ボスの家ですね。」
「ねぇえ。ジロー。」
「ハイ、なんでしょう?」
「あの電柱の上に乗っている猫はお知り合い?」
傷だらけの猫は、自分が進んでいる電線の先にいる猫を発見する。
あれは、昼に自分の処にやってきた、元部下の猫だ。
「はて?彼はボスの家の前の電柱の上で何をやっているのでしょう?」
黒猫は足を止める事なく、電線を渡っていく。
元部下の猫は起き上がり、黒猫に話しはじめる。
「クロ様。いいえ、クロ。地位はいらないと言いながらやっぱり、ボスの処に来ましたね?」
「何を言っているか良く分からないのですが・・・。用事があるのは私ではなく、私に取り憑いている幽霊の方で。」
「あ、この猫、私がジローを結構遠くの場所で探してた時に、ジローの事を教えてくれて、ボス猫さんに合わせてくれた猫だ。」
幽霊の少女がそういった。
「へぇえ。そうなんですか。余計な事を・・。」
「もう、ジローったら、私に会えて嬉しくなかったの?」
「今はそんな議論をしている場合では・・・。」
「おい、そこのヒラの黒猫と女。いちゃつくのをやめろ。」
元部下の猫は怒気をふくませながらそう言った。
「ジロー。何か、この猫、態度が違うよー。」
「みたいですね。何か怒ってらっしゃる様ですし。」
「ジロー。また何か悪い事をしたんじゃ。」
「記憶に無いですね。」
「だから、いちゃつくのをやめろ。」
元部下の猫がそう言った瞬間だった、黒猫は電線を蹴り、電柱の上に座っている猫にタックルをあてる。
二匹の猫は電柱から地面に落ちていく。
ジローは空中で相手の猫につかみかかり話さない。そして上手く受け身をとって、くるくる回転しながら地面を転がっていく。
そして、黒猫はマウントをとる。
「体の主導権が私でなくて残念でしたね。」