猫の戦争
セーラー服の少女にジローと呼ばれている傷だらけの猫は、組織の上に立つ者としては優秀ではない。
魅力や威厳が無いのものあるが、人材というか、この場合猫材を育てる能力にも欠けており、一人で何でもこなそうとするワンマンな処がある。
ワンマンは10人以下の組織を扱うにはもの凄い力を発揮するが、それ以上の組織になると駄目になる傾向がある。黒猫は自分でもその自覚があるので、上に立つべき存在ではないと常々思っており、それが心の重みになっていた。
黒猫は別に猫材を育てる努力をしなかったわけでも、他の猫に仕事を割り振らないわけでもなかった。むしろ、かなり丁寧にやってはいたが、中々動いては貰えないため、それでは駄目だと分かってはいても、どうしても自分で一人で解決する道を選ぶのだった。
黒猫の頭は、一手進める度、どうしても二手・三手先を予測する癖がついていた。ただ、二手・三手先までしか考え無い、行き当たりばったりな頭でもあった。頭の良いヤツは、もっと先まで考える力がある。そういう奴らを幾らでも見てきたので、自分は優秀ではない、もっと適したヤツが幾らでもいるという思いがある。
一手進める度に二手・三手先を予測する程度で、まあ、大抵の事は何とか解決出来るため、それで良いとも思っていた。
黒猫の頭は元部下の話から、自動的に先を予測しようとするモードに入ってしまう。ただ、情報が少ないため、結論が出ない。こういった場合、いつもなら似た様な事例から足りないピースを埋めるという作業に入るのだが、こういった派閥関係の事例に全く明るく無かったので、それも出来ない。ただ意味の無い思考がぐるぐると頭の中で回転していく。
「こういうのは、新たな動きがあるまで、考えても無駄だと分かっているんですけどねぇえ・・・・。」
『そう。まずは戦争がはじまって貰わないと。』
黒猫は、電柱のてっぺんまで上がり、電線を伝って移動を始め、携帯電話のタワーに飛び移り、その上から街を見渡す。
「おや、来たみたいで。5匹といった処でしょうか?固まりながら、道の真ん中を堂々と・・・。ん?」
黒猫は攻めてきた5匹の顔ぶれを見て、違和感を覚えた。
みんな下っ端であった。しかも、武闘派ではなく、派閥に属してもいないので後ろ盾が無い猫たちだ。
その中には桐野の猫もいる。
『攻めるにしては、おかしなメンツですね。絶対に落とせないと言うか、このメンツでは勝負にすらならない。』
黒猫は思考を回す。
『明らかにおかしい。亡命しに来たとも思えないし・・・。』
その時、蛙主の言葉を思いだした。
『『殉教者』を作るなと。』
『そういう事ですか・・・。』
そうしている間に、こちらを縄張りとしている猫たちが、その5匹に襲いかかった。
戦力差は圧倒的である。
黒猫は素早くタワーを降り、現場へと急ぎ、相手の猫と5匹の中に割って入る。
「クロさん。」
桐野の猫がそう言った。
「ここは私がしんがりをつとめるので、あなた達は早くこっから引きなさい。」
5匹の猫は一目散に逃げ出す。
それを追いかけようとする猫。
黒猫は体当たりをして、その猫を止めた。
その間に黒猫は、猫たちに囲まれてしまう。
猫たちは一気に黒猫に襲いかかった。
黒猫は巨大化し、一点突破で囲みを抜けるが、一匹の猫にお尻を押さえ込まれる。
このまま、背中に乗られると、背骨をかみ砕かれてしまうので、ブロック塀に体をぶつけてその猫を振り落とした。
体制を立て直し、自分に襲いかかってくる猫を前足で次々と払いのけていく。
「おうおう、まちな。お前等。」
そう声を発したのはここのボスである。
「お前等じゃ、こいつに敵わねぇえ。俺がやる。お前等は手を出すな。」
そう言って、黒猫の前までやってくる。
「あの。作戦は伝えといたはずですよね?」
「こっちにもメンツってもんがあるのよ。ただ、撃退するだけじゃあ。わけぇえものを納得させられねぇえのよ。」
「一度振り下ろされた拳はですか・・。」
「それに、お前さんとは一度ガチでやってみたかったんよ。」
「何度も戦ったじゃないですか・・・。」
「本気じゃなかったろ?」
「私は平和主義社の上に、あなたみたいな強い方とは戦いたく無いんですけどねぇえ。」