電柱
傷だらけ黒猫は電柱の上で寝て夢を見ていた。
「ごめんね。ジローごめん。」
ジュースやお菓子、花束が置かれた電柱の前にいる半透明のセーラー服の少女がそう言った。
黒猫は、人って簡単に死ぬんだなと思った。
彼女は元気で、高い身体能力と白兵戦能力を持ち、幾つもの修羅場をくぐり抜けて来たはずなのだが、そう言った彼女が積極的に関わってきた危険とは全く関係無い、交通事故で亡くなった。
彼女が車にはねられた瞬間や、彼女の遺体は見て無いが、伝え聞く話では彼女にはほとんど外傷は無かったらしいが、即死だったらしい。
ミンチにならないで済んだのがせめてもの救いなのかもしれない。
「あなたが謝る事は無いじゃないですか・・・。」
「だって、私の不注意で、みんなに辛い思いさせたから。お父さんやお母さん友達もここに来たから、一生懸命ごめんって伝えたけど、伝わらないし。せめて伝える事の出来るジローだけにはと思って。」
黒猫は何か言おうとしたが、そこで目覚めてしまった。
彼は起き上がり、電柱の上から街を見下ろす。
すると、一匹の猫が器用にボルトで出来た足場を使いながら、登ってくる。
その猫は黒猫の前の部下であった。
黒猫は飛び降り、変電機の上に座る。登っていた猫ももう一方の変電機の上に座った。
「おやおや、どうしたんですか?こんな処まで。」
「クロ様。もうすぐこの地区に大規模な攻撃があるそうです。」
「そうですか。ありがとう。それから、さっきも言いましたが、その呼び方はやめなさい。」
「いえいえ。私としてはこの呼び方の方が合っているので。処で、今回の件は動いては貰えないのでしょうか?」
「分かりませんね。」
「という事は動かないと?」
「今、私は何の情報も持っていませんから。動くも動かないも判断のしようがありませんので、分からないとしか。」
「では、時期が来たら動くと?」
「それも含めてわかりません。私は別に誰が上になろうが構わないと思っているので。誰でも良いので、この馬鹿げた騒動が早く納めて欲しいと願うのみです。」
「クロ様は上に立たれる気は無いと?」
「??何故、そんな聞き方をするのかは分かりませんが。私は今の一番下っ端ぐらいが丁度、自分のレベルに合っていると思っているんですけどね。上のイザコザに関わる事なく適当に組織の歯車として頑張って生きていくのが一番だと思ってますし。」
「分かりました。私はこれで失礼します。」
「はい、ご苦労さまです。」
「クロ様も戦いに巻き込まれる前に、ここから離れた方が・・・。」
「ここの方が安全な気もしますけどね。ここまで登ってこれる猫はそう多く無いので。」