猫たちのクレーム
美由はとまどっていた。
いきなり自分を消して欲しいというセーラー服の少女に対し、どうして良いか分からなかったからだ。
「そっだ。今日、一日にあなたに取り憑いていい?」
女の子は満面の笑みでそう言った。
「い、嫌です。幽霊というだけでも怖いのに。取り憑かれるなんて。」
「ああ、それは良いですねぇえ。」
傷だらけの黒猫も同意する。
「同意しないで下さい。」
「大丈夫ですよ。彼女なら多分。」
「多分って・・・。」
「私、女子高生になる前に、幽霊になったから。女子高生生活というのを味わってみたいのよ。もしかしたら、自動的に成仏できるかも。」
「うう。そう言われると断り難いじゃないですか・・・。あ、そうだ、今日も私は学校があるんです。学校には桐野さんがいるから、見えちゃうじゃないですか。だから、駄目ですよ。」
「ああ、そうでしてたね。失念してました。まあ、でも、何とかなるんじゃないですかね?」
「イヤイヤ、絶対無理です。」
「見える人が他にもいるの?会いたい。そして、お友達になりたい。」
「そこの魔法少女様もそうですが、その方もおっさんみたいな性格なので、女子女子したあなたとは合わないと思いますが。」
「あのー。私に取り憑く事を前提として話を進め無いでください。それに、私の周りにはこわーい退魔師の方々が、勝手によってくるので・・。」
「退魔師の人に消されるのは嫌だなぁあ。」
「猫に消されるよりかはマシでしょ。」
「猫?」
「私、ここのボスに嫌われてるみたいなんだ。だから消されるの。」
「猫のこの手の処理の仕方は魔法少女様もご存じでしょ?」
「それは話には聞いてますけど・・・。」
「私は本当はジローに消して欲しいんだけど、ジローがそれを嫌がっていて、だから、あなたにお願いしたんだけど。あなたも嫌がってるし。」
「普通は嫌がるかと・・。それが何で私に取り憑くと話しにすり替わるんですか。第一いつもの黒猫さんらしく無いじゃないですか。いつもなら、化け物社会の安定のために動くのに。わざわざ、人間に介入させる危険性を増やすのは、おかしいじゃないですか。」
「彼女は人間の幽霊で魔法少女様も人間です。あなたに取り憑いてる分には、人間同士の問題なので、そこらへんは大丈夫じゃないかと。」
「私に責任を押しつけている様にしか聞こえないんですけど・・・。あ、そうだ。ボス・・。ふとっちょの三毛のメス猫さんを、あなたが説得すれば問題は解決じゃないですか。」
「それは無理です。」
「何故?」
「私が彼女を殺さない事を決めたために、一番下に降格させられたので。それくらいボスの決意は固いかと。」
「だったら、彼女が取り憑いていれば、私も襲われるじゃないですか?」
「大丈夫ですよ。私に取り憑いている時には襲えるでしょうが、あなたを襲えば人間の退魔師が介入してくるのは明かなので、手出しはしないでしょ。多分・・・。」
「さっきから、多分、多分って。なんかこう、すっきりとした解決方法無いんですか?」
「ありますよ。」
「どんな?」
「あなたが彼女を消せば、全てが解決します。」
「そうだね。と、言うわけで、魔法少女さん、どうぞ。」
「ああ、うう。」
「クロさーーん。」
遠くから声が聞こえてくる。
3人は声の方へ顔を向けると、走りよってくる桐野の茶トラ猫がいた。
「どうしました?」
「クロさん。隣のグループの猫たちとケンカが起こったにゃ。」
「私は今はあなたより下なので、私に言われても困ります。」
「おうおう。黒猫さんよ。」
他の猫3匹が、いつの間にかやってきていた。朋の家の近くを仕切っている猫グループのボスと手下二人である。
「あなた方、ここはウチの縄張りですよ。トラブルが起こるので、早急に出て行って下さい。」
「そうはいかねえんだよ。あんたんとこの猫たちが昨日の夜、突然ウチの縄張りに入ってきて悪さをしたんで、その落とし前をつけにきたんよ。」
「そうですか。ですが、昨日私は降格されて一番下になったんで、他の猫を当たって下さい。」
「そうできれば良いが、他の猫たちは殺気だっていけねえ。こっちは穏便にすましたいんよ。」
「クロ様。」
また他の猫が現れる。今度の猫は美由は見た事が無い。
「その呼び方は辞めなさい。私は今は一番下なのですから。それで?」
「どうも、派閥争いが起こりそうで・・。このまま激化して、内乱とよそとの戦争を抱え込む事になると、人間の介入を招きかねないというか。」
「ふう。何で、一夜明けただけで、ここまでトラブっているんですかねぇえ。」