早朝
朝の6時になった。朝早い時間だが6月なので外は明るい。
傷だらけの黒猫は、人のウチのポストから新聞を引っ張り出し、それを読んでいた。
「ねぇえジロー。」
そう言ったのは、彼に取り憑いているセーラー服を着た細身の女子高生の霊だった。
「そんな難しい新聞何か読んでないで、お散歩しようよ。」
「難しくは無いですよ。」
「ジローは人間じゃないから新聞読んでも関係ないじゃん。」
「全く関係無いわけじゃないんですけどねぇえ。」
「今、読んでる、年金運用損失とか絶対関係無いと思うんだけど。」
「まあ、関係ないですね。」
「第一、こんなの読んでもつまんないよー。」
「結構、面白いんですけどねぇえ。」
「絶対つまらないと思うけど。難しそうだし。」
「難しくは無いんですよ。ただ、あなたが知らないだけで。」
「私がバカだと言いたいのね。」
「そういう事を言っている訳じゃ無く。」
「じゃあ。どういう事を言っているの?」
「金融派生商品とか高尚な単語を使っているから凄そうに思えるだけで、やっている事は基本的はギャンブルで丁半博打とかわらないんですよ。」
「丁半博打?」
「二つのサイコロを振って、偶数か奇数か当てる博打ですよ。正確には二分の一ではないですが、だいたい二分の1の確立で偶数か奇数か当てるギャンブルですよ。」
「それが株や先物取引と同じなの?」
「そうですよ。利益が出るか、損失が出るか、どっちかに賭けて正解すれば儲ける事が出来るギャンブルですよ。」
「で、この会社はギャンブルに負け続けてオケラになったの?」
「新聞紙面上ではそうなってますけど、よくよく読むと、その意見には賛同できかねますね。」
「どうして?」
「書いてある内容だけで分析するなら、詐欺の可能性が高いですね。」
「でも、新聞には詐欺とか書いて無いよ。」
「まあ、詐欺というのは、私の印象に過ぎないので。」
「何だ。ジローのカンか。」
「カンだけではないですよ。ここに書かれている内容は、金融詐欺をやっている会社の計画破産のパターンに合致するので。」
「だったら、詐欺事件なの?」
「分かりませんね。もしかしたら、本当に運用に失敗しただけかもしれませんし。その可能性も半分くらいはあるわけで。」
「でも、ジローは詐欺事件だと思っているわけでしょ?」
「違いますよ。これは詐欺事件なのか、運用に失敗したのか。どっちなんだろう?と、思案をめぐらせているだけですよ。」
「私にはわかんないなぁあ。その感覚。」
「まあ、直接、私には関係無い話なので、積極的に調べはしませんが。こういう記事を読んで、ニヤニヤするのも、面白いですよ。」
「ジローは趣味が悪いなぁあ。」
「そういう猫に取り憑いているのは、誰ですか?」
「意地が悪いなぁあ。ジローは。」
誰かが走り寄ってくる。
それは桜間美由だった。