朋と加奈 美由の話
朋は、自分の靴箱の前にやってきた。
大きく息を吸い。深く息を吐き出す。
その時、後ろから背中を叩かれる。
「おはよう、朋ちゃん。」
朋は後ろを振り返り、相手を見る。そこに居たのは加奈だった。加奈は少し意地悪な笑顔を浮かべている。
「あ、加奈ちゃん。おはよう。」
「見たわよ、聞いたわよ。須王寺おねぇえ様と桜間先輩と一緒に登校。」
「あはは、恥ずかしい処、見られちゃったね。」
「何、言っているの、今をときめく、学園のアイドル二人と、一緒に登校なんて、羨ましい。」
朋は自分の靴箱を開け、上履きを取り出す。
「あうー。でも、ああいう話は苦手で、私、逃げちゃた。」
朋は革靴を脱ぎ、上履きを履き、靴をトントンする。
「朋ちゃんは、それでいいのよ。可愛いから。」
「あうー。」
朋は、革靴を拾い、下駄箱に入れ、フタを閉めた。
二人は1年の教室に向かい歩きはじめる。
「ああ、でも、失敗したなぁあ。まさか、あの噂で恨みを買っていたなんて。」
「もしかして、広めたの加奈ちゃん?」
「ふっふっふ。秘密。」
「駄目だよ。美由先輩は、すっごく、恥ずかしがり屋さんだから、クールに受け流している様に見えても、内心では『おねぇえ様』と呼ばれるのを凄く嫌がっているんだから。」
「それ、さっき、朋ちゃん達が三人で歩いている時に聞いたわよ。まさか、恥ずかしがり屋さんとはねぇえ。クールなのも、照れ隠しってわけだ。」
「がっかりした?」
「まさか。全然。恥じらいは萌えよ。」
「萌えって・・・。」
朋は『加奈ちゃんには、美由先輩がどう見えているんだろう?』と、不思議に思った。
「今の3大派閥のおねぇえ様方は、気品に溢れるけど、目立つ事に終始して、恥じらいというのが欠けていたいたのよ。ここに来て、恥じらいの有る、おねぇえ様の登場よ。かなり、萌える展開でしょ。」
朋には良くわからなかった。恥ずかしがり屋さんというので、がっかりはしなかったし、むしろ、自分と近い処があって、安心感を覚えたが、『萌え』という感情は浮かんでこなかった。
「加奈ちゃん。美由先輩は『おねぇえ様』って呼ばれる事も、注目を浴びるのも、凄く嫌がってるよ。私だって、さっき、美由先輩に、『絶対、おねぇえ様と呼ばないで』って、釘を刺されたし。私だって、呼びたかったのに。」
朋は少し顔を膨れさせた。
「そっか、そっか。でも、もったい無いなぁあ。あれだけ才能があって、学園のアイドルにならないなんて。」
「才能?」
「私も、知らなかったから、詳しく調べてみたんだけど、そしたら、学園の3年女子で、色々と総合すればNO3の実力があるのよ。」
「3年、女子の中で3番目?」
「そうそう、3年女子の中で3番目。この学校って、女子が7割で男子が3割だけど、男子が頑張るから、上位って男子じゃん。だから、目立たないけど、男子を除いて考えれば総合点では、桜間先輩って3位なのよ。」
「へぇえ、しらなかった。」
「でしょ。私も、この事実を知った時、驚愕したわよ。まあ、私も昨年度の成績表を職員室で隠れて覗いたから、知ってるんだけど。」
「加奈ちゃん危ない事するね。先生に見つかったら大変だ。」
「それくらい、しないとねぇえ。」
加奈の教室の前についた。
「じゃあ、またね。朋ちゃん。」
「うん、また。加奈ちゃん。」