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魔法少女ガラミン  作者: からっかす
1話 魔法少女誕生
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おねぇえ様との出会い

 武汎辺津(むはんべつ)高等学校という学校がある。

 県内で最上位という程ではないが、高いレベルの私立の進学校だ。

 この学校では女子生徒が多く、全校生徒の7割を占めていた。

 確かに、女子受けしそうなヨーロッパ風の上品な校舎ではあるし、管理が行き届いており清潔感あるので、如何にも女子受けしそうな建物なのだが、それは大きな理由ではなかった。

 一番の理由は、ここら辺で頭の良い女子が公立以外で行くとなると、この学校ぐらいしか無いという事情があるからだった。

 武汎辺津学校より学力が上の高校は、私立では男子校か元男子校ばかりで、当然、男子校には女子は行けないし、元男子校は女子に人気が無い。そのため、どうしても頭の良い女子がこの学校に集中してしまうのであった。


 私立武汎辺津(むはんべつ)高等学校は、県庁所在地がある自治体の隣の自治体に建っており、そこの中心地から少し離れた山手に建っていた。

 そのため、周囲にあるのは道路と、草が伸び放題の荒地と山ぐらいのものである。

 街の中心から離れているため、15分ほど歩かないと駅は無いが、学校の横には国道が通っており、バス亭が校門前に設置されているので、交通の便はそこまで悪くは無かった。


 ゴールデンウィークが終わり、中間テストを目前に控えた平日の金曜日。

 武汎辺津(むはんべつ)高校では、持久走大会が開かれていた。

 ここら辺の地域での持久走大会は、3学期の寒い時期にやるのが普通なのだが、この学校は大学進学を売りとしているので、受験に影響が出る三学期を避け、まだ暑くないゴールデンウィーク明けに開催することにしていた。

 男子が20Km、女子が15Kmの距離を走りる事になっており、校庭からスタートして学校の裏手にある山へと向かって走り、山中に設定された折り返し地点まで行って、また学校へと戻って来るコースを走る。

 山道をずっと走る事になるので、当然、アップダウンの激しい坂道が続く、運動慣れした人でも結構ツライ道のりである。

 難易度の高いコースである事は生徒全員が理解しているので、運動が出来る生徒にとってはヒーローに成れるチャンスであり、それ以外の生徒にとってはただ苦痛でしかなかった。


 男女共に既に走り出しており、生徒達は延々と続く山道を進んでいた。


 そんな集団の中に成美矢(なるみや) (とも)という女の子がいた。

 彼女を一言で現すと、ちっちゃい女の子で、高校生のはずだが、小学生高学年にしか見えない。

 背は低いし、骨格も出来上がって無く、体つきが柔らかく、ブラジャーの必要を全く感じさせない胸がそう感じさせていた。

 腰まである綺麗なストレートの黒髪を一本に束ね、それを左右に振りながら、荒い息遣いで走っていた。


 

 彼女なりに一生懸命走っているのだが、後ろから簡単に数えられる順位であった。

 後ろにいる生徒は、最初からやる気が無く歩きを決め込んでいる人達ばかりで、最初から歩いている人達と大して変わらない現実に、泣きそうになっていた。

 『あうー。みんな、一緒に走ってくれるって言ったのに、先に行っちゃった。』

 (とも)は、遅くても、みんなでゴールすれば憂鬱な気分にならないですむという希望を抱いていただけに、自分だけ置いてけぼりにされた事にガッカリしていた。

 彼女は足を止め、前かがみになり、目蓋を閉じて荒く呼吸をする。

 汗だくになった顔からポツポツと汗が滴り落ちて行くのを感じる。

 『すぐ、苦しくなって、足が止まっちゃうよ。みんな、何であんなに走り続けられるんだろう?』


 立ち止まっている朋の横を折り返してきたトップの女子が走り抜けていく。

 朋は目を閉じていたが、足音とすれ違う時に起こる風圧でそれを感じ取っていた。

 『私、まだ5キロしか走ってないのに、もう帰ってきたんだ。』

 そう考えているうちにも、何人かの女子生徒が朋の横を走り抜けていく。

 朋は走らなきゃと思うのだが、なかなか足が前に出なかった。

 その時だった。

 今まで走っていた一人が足を止める。

 「大丈夫?」

 それは、女性の声だった。

 朋は目を開け、汗だくになった顔を手で拭い、声がした方に顔を向けた。

 そこには身長が高めの女子が立っていた。

 彼女は高校生にしては少し大人びた綺麗な顔立ちをしており、顔にはそれなりに汗をかいていた。セミロングの黒髪を後ろに2本に束ねていて、Dカップはありそうな胸の上に桜間(さくらま 美由(みゆ)と刺繍が縫い付けられていた。

 高い身長と大人びた顔立ちは、中学生にしか見えない朋にとって素敵なおねぇえさんに見えた。

 『王子様みたい・・。』

 朋は無言で、ボーっと彼女の顔を見つめていた。

 「本当に大丈夫?」

 背の高い女性は、何もリアクションを起こさないで自分を見つめている小さな少女に聞き返えした。

 「だ、だ、大丈夫です。わ、私、走るのが苦手で、息があがって・・・その」

 背の高い女生徒は可愛らしく慌てる朋を見て、笑みを見せる。そして短パンにあるポケットからハンカチを取り出して朋にそれを差し出した。

 「はい」

 ハンカチを握った彼女の手は、(とも)の手より大きな手で、安心する手だと感じた。

 「あ、ありがとうございます」

 朋はハンカチを受け取り、汗だくになっている自分の顔を()く。

 「じゃ、頑張って」という言葉を残して彼女は走りだした。

 朋は美由のハンカチを持っていたことに気づく。

 「あ、待ってください・・・。」

 そう言いながら美由を追いかけ様とした瞬間に足がもつれて、何の抵抗も出来ないまま大きな音を立てて道路に倒れ、おでこをぶつけてしまった。

 その音に気づいた美由は振り返ると、そこにはハンカチを握り締めながら、つぶれたカエルの様に倒れている朋がいた。

 美由は朋のもとへ走り寄り、彼女を包み込む様に腕を回して、うつぶせになっている(とも)を仰向けにする。(とも)は痛さをこらえて、まぶたをぎゅーっと閉じており、おでこには傷ができていた。

 朋は美由の柔らかい体に抱きかかえられながら、申し訳ない気分でいっぱいになった。

 美由は上位を走っていたのに足を止めさせたうえに、自分のドジで心配をかけさせしている。

 朋は、片目を開けて「ごめんなさい、せっかく前の方を走っていたのに」と、申し訳なさそうに答えた。

 「気にしない。それより、おでこに傷ができてる。」

 美由は朋の手に握られていたハンカチを手にとり、朋のおでこにある傷口に充てた。

 朋は自分の左手をおでこに持っていき、ハンカチを押さえる役を変わる。

 フリーになった美由の手は人差し指を立てて、ハンカチに優しく触れ、指の先で撫でながら「痛いの痛いの飛んでけー」と呪文をかけた。すると不思議とおでこの痛みが和らいだ気がした。

 「なんてね。」

 そう言いながら美由は笑顔を浮かべた。ちょっと恥ずかしそうにしている美由の笑顔を見て、朋も自然に笑顔になった。

 「それより、立てる?」

 「はい、大丈夫です。」

 朋はそう言って、ゆっくりと起き上がった。

 「駄目なら、先生のところまで付き添うけど。」

 「大丈夫です。最後まで頑張ってみます。」

 「そう、無理をしないでね。」

 美由は、学校の方へと走り始めた。

 朋は逆の折り返し地点に向かって、ハンカチでおでこを押さえながら、ゆっくりと歩きはじめた。

 彼女は少しおでこに痛みを感じながらも、ニヤケていた。

 「えへへ、素敵なおねぇえ様にであっちゃった。」

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