二階で
「これでよし。」
神園は二体のぬいぐるみの前に神饌を供える。
美由はぞうきんで畳を拭いていた。
「ほら、あんた達。これで動けるでしょ。」
二体のぬいぐるみは起き上がる。
「あのー。別に動かさなくてもいいんでは?」
美由はバケツの水でぞうきんを絞りながらそう言った。
「ああん?ねぇえちゃん。今、何て言った?」
黄緑の熊のクマゾウは仁王立ちになり、美由にガンをつける。
「私達を動かさない方が良いって。なめてるのかしらね?この私達を。」
ピンクの熊であるミミが、クマゾウに向かってそういう。
「このあまぁあ。いてこましたろうか?」
その時、ロットアイラーという大型の黒犬がクマゾウをくわえる。
「こら、メリー。それはゴハンじゃないわよ。お腹壊すから『ぺ』しなさい。」
大きな黒犬は、くわえていたぬいぐるみを畳に投げ捨て、もう一体のピンクの熊の周りをうろつきだす。
「な、な、何よ。このい・犬。私とやろうと言うの?」
ミミは怯えた様にうごかない。
「メリー。彼等はこれからしばらく一緒に暮らすんだから、仲良くしなさい。それより、今日はあなたに缶詰買って来たの。こっちに来なさい。」
メリーは神園のそばへ駆け寄り、彼女は犬の頭をなでた後、缶詰の蓋を開け、容器にいれて差し出した。それをむしゃむしゃ食べ始める。
大きな黒犬から解放されたミミとクマゾウは走り寄り、お互い抱き合った。
「クマゾウさん。」
「ミミ。」
二人は怯える様にメリーの食事姿を見ていた。
神園はぬいぐるみの方を見る。
「そこのぬいぐるみ二体。」
「は、ハイ。何でございましょう?」
クマゾウは直立する。
美由はこのクマゾウの態度を見て思った。自分との接し方が違うと。
「一応、あんた達は二階だけは自由に動ける様にしたけど、階段がある扉から先は適応外だから、階段がある扉から先に行かない様にね。」
「ハ、はい。」
「うーん。返事は良いけど、多分、分かって無いだろうから言っておくけど、階段がある扉から先にいったら、あんたら動けなくなるから、行くなとは言わないけど、いくならそれなりの覚悟を持って行きなさい。」
「了解です。」
「じゃあ。私が今、言った事を私に説明して。」
「は? ええと・・・。」
その時、外からの階段がある扉の方から「ドンドンドン」と扉を叩く音が聞こえる。
「ねぇえ。開けてぇえ。」
声の主は月見だった。
神園は無視して、ぬいぐるみに結界の外に出る危険性を再度、説明しようとする。
だが、月見はあきらめなかった。
また、扉を「どんどんどん」と叩く。
「開けなさい。ねぇえ開けってて」
「ええい。やかましい。」
月見のもうアピールに屈した神園は、外からの階段へ続く扉の鍵を開き、扉を開ける。
「なんだ、いったい。」
扉の向こうには申し訳なさそうな月見がいた。
「だって、さっき、何か空気悪かったから。」
「あれで空気が悪くならなければ、そっちの方がおかしいだろう。」
「空気悪いまま、顔を合わせなかったら、次に会う時に声かけづらいじゃない。」
「私としては、あんまり、あんた達に関わりたく無いんだが・・・。」
「そんな事いわないで、そして、あんたじゃなくて、月ちゃんでしょ。」
そういって、月見は神園の胸に抱きつく。
「ハイハイ。月ちゃん。月ちゃん。」
神園は月見の腰を叩いてそういった。
月見は神園の胸の間から上目遣いで彼女を見る。
「ねぇえ。入っていい?」
「・・・・・・・・。」
「何?その、露骨に嫌そうな顔。」
「ハイハイ、わかったら、月ちゃん。あがってください。」
「ありがとうね。」
月見は上がり込み、美由がぞうきんがけしている部屋まで入って来る。
「このねぇえちゃん。白のパンツか。てっきり、レースたっぷりのスケスケパンツかと・・。」
そう言ったのは、月見のスカートの中をのぞいているクマゾウだった。
月見は問答無用で、クマゾウを踏みつけた。
「何?この変態クマ。何でこんなのがいるの?」
「あんたが動く様にしたんじゃん・・・。」