駆け落ちの果てに
「まあ、あの家の悪霊二体は、一緒に寄り添って仲良くしているか、二人一緒になって住民を呪っているか、ケンカしているかだけなので。」
「仲良く?」
美由は眉毛を『へ』の字にして、目を丸くする。
どうも、あの取っ組み合いのケンカをしている悪霊たちが仲良しとは思えなかったからだ。
「えっと、それで、あの悪霊二体は、この家で一緒に首つりをして亡くなられた方々なんですよ。」
「心中ですか?」
「まあ、そうとも言いますね。」
「とても信じられません。まるでお互い、親の敵を相手にしてるが如く暴れてましたけど。」
「人の愛の形には色々とあるんですよ。」
「拳で語り合う事によってお互いを理解するってヤツですか?」
「まあ、そういった類いかは知りませんが。」
「で、どうして、お二人はクビを吊る事に?」
「お嬢さんの方が、お嬢様でして、両親が『娘ワガママ萌え属性』を持っており、意図的にワガママに育てたんですよ。」
「『ワガママ萌え属性』って・・・。あ、でも、月見さんのワガママの感じは分からなくは無いかも。」
「月見さんとは、あの中にいる退魔師のお嬢さんの事ですか?」
「ええ。」
「あの方のワガママは、私の目には演じている様にも見えますけどね。」
「その話を聞く限り、もしかして、ずっと私達を監視してました?」
「そりゃ当然でしょ。私達の敵勢力と魔法少女様が一緒にいるのは、我々化け物にとっては正直、驚異ですよ。魔法少女様にとっては、惰性で付き合っているだけでしょうが、こっちとしては大事なんですよ。」
「すいません。」
「まあ、それは置いて、お金がある家では結構珍しくないですよ。娘を意図的にワガママに育てる家って。」
「個人的にですが、将来が心配な気が・・・。」
「まあ、その心配通りになって、クビを吊るハメになるんですが。」
「わあ・・・。」
「娘さん、県庁所在地で大勢力になりつつあったヤンキー軍団のボスに惚れまして。」
「ヤンキー軍団って・・・。」
「都市部の方では未だに結構いるみたいですよ。で、流石に親が反対して、駆け落ち、ここまで逃げてきたんですよ。」
「なるほど。」
「で、あの家の家賃が安かったので住む様になったんですけど、ほら、お嬢様なので働かないというか、働けないし、家事もロクにできないじゃないですか。男の方もキレやすい方なので、暴力を振るう様に・・・。女の方も気が強いので、段々、取っ組み合いのケンカをする様になったんですよ。でも、ケンカがすめば、なかむつまじく。」
「私には理解できませんが、そういった愛の形もあるんですね。」
「男がバイトで働く金も知れてますし。生活に困窮しはじめまして、段々、二人して社会を恨む様になるんですよ。そして、バイト先で暴行事件を起こしてクビになり、二人して社会を呪いながら首つりをする事に。」
「その二人の魂が悪霊になって、あそこで取っ組み合いのケンカをしていると。」
「そんな処です。」
猫は家の方を見る。
「何か騒がしいですね。」
美由は耳をすまして聞いてみる。
『 ああ、あんた何をしているの。 』
神園の声が響き渡る。
『 気にしないで、こっちの方がかわいいじゃない。 』
『 何かホームセンターでの行動が変だと思ったら、それが目的だったのか? 』
『 嫌ねぇえ。私が計算高い女みたいに。その通りだけど。 』
「何かトラブルが起こっているというか、起こしているというか・・・。」
美由がそう言う。
「では、私はこの辺で失礼します。」
「お気を付けて。」
黒猫は畑の中に消えていった。
玄関が開く。玄関口には神園がおり、疲れた顔で美由を見た。
「終わったわよ。」
「何か、凄く揉めてましたけど。」
「まあ中を見てみれば、分かるわよ。」
美由は家にあがりこんだ。
畳敷きの6畳の部屋には、円形に配置されたロープが敷かれており、そのロープの中に二体の熊のぬいぐるみと、その前に神饌が置かれている。
「あの、これはいったい・・・・?というより、悪霊は。」
「良く、熊のぬいぐるみを見なさい。」
確かに、熊のぬいぐるみは悪霊に取り憑かれているようだった。
「何で熊のぬいぐるみに悪霊が・・・。確か御札に封印するはずじゃ?」
「そこのアフォ女に聞きなさい。」
「あら、アフォ女とは失礼な。御札よりこっちの方がカワイイじゃん。」
「そういう問題じゃないだろう?第一『クマゾウ』と『ミミ』って名前はなんだよ。その名前で定着させたから変更ができないだろ」
「あなたの「権之上」と「梅ノ壬弥」よりはセンスがあると思うわよ。」
「っく。神なんだから、そんな感じで良いのよ。」
「ところで桜間さん?」
「え?はい。」
「こっちの黄緑のチェックがクマゾウ。」
黄緑のチェックの熊が動き、美由を見て手を上げる。
「おう、ねぇえちゃん、よろしくな。」
「あの、動いてしゃべってますけど・・・。」
「で、こっちがミミ。」
「何あんた?こいつ等の知り合い?」
ピングのチェックの熊が、威圧的な言葉を放った。