準備。
トラックと黒塗りの高級車の二台は途中、スーパーで食材を買った後、神園の家に着く。
美由が通う学校の周囲にある畑と荒れ地の地帯にポツンと一件だけ立っていた。
彼女の借りた家は二階建ての木造建築である。高度成長期頃建てられた家で、洋と和、合板と科学素材、トタンと瓦を中途半端に取り入れた家であった。家に管理があまり良く無かったためか、外壁がかなり痛んでおり、結構なボロ屋である。
家の前にある道路は、車同士がすれ違うには少し苦労する程しかないが、車二台が止められるぐらいのスペースはあった。
神園はトラックの荷台に乗っているロープを引っ張りだし、左のヒジと手のひらを往復させる様にぐるぐると巻きつけていた。神園の隣では真田がお盆に何枚かお皿敷き、それに塩やら米やら、バナナや魚をのせている。
「さて、準備完了。」
「結界の準備って、そんだけで良いんですか?」
「ただ、ロープで悪霊を囲むだけだからねぇえ。」
「何か、おざなりな様な・・・。本当にそれだけで悪霊を閉じ込められるんですか?」
「多分ね。」
「多分って・・・。」
「さっき結界について説明したでしょ?」
「あまり、理解出来てませんが・・・。」
「私が作ろうとしている結界は、見えない壁で隔離するとか、結界の外に出ようとするとかなり痛い思いをするとかいう類いのものじゃなくて、ロープの外に出るには少し躊躇する程度のものなのよ。」
「それを聞いて、ますます不安になってきました。」
「あのねぇえ。私達は今から、よりしろに入ってくださいって、お願いする立場なの?電流の流れる檻に閉じ込めて、よりしろに入ってくれると思う?」
「いいえ。それはぁ・・・。」
「それにね。この緩い結界は、土俵みたいなもので儀式場としても使えるから、便利なのよ。」
「でも、悪霊ですよ。悪霊。」
「まあ、見た感じ大丈夫だとは思うけどねぇえ。本当に退治するしかない奴らもいるけど。悪霊の中ではまあ、まともな方だと思うけどね。」
「そうなんですか?」
「まあ、やってみないと分からないけどね。あんたはここで待ってなさい。」
「私は手伝わなくていいんですか?」
「悪霊に触れられたくないんでしょ?」
「まあ、それはぁあ。」
「だったら、待ってなさい。」
そのとき、黒塗りの高級車のドアが閉まる音が聞こえた。
車から月見が、巫女姿で出てくる。
真田は食材がのった盆を月見に渡し、彼ももう一個、食材が用意された盆をとる。
「では、いきましょうか。」
3人は玄関に向かい歩きはじめた。
店長は何故か、二体の熊のぬいぐるみを抱えて3人についていく。
『何であの人熊のぬいぐるみを抱えているんだろう?』
4人が家の中に入り、美由は手持ちぶさたになっていた。
ぼーっと夜の畑をみていると、何か生暖かいものが自分の足をさわった。
「きゃ。」
美由は思わず飛び退いた。
そこに居たのは、傷だらけの黒猫だった。
「な、何です?」
「魔法少女様困りますね。退魔師の方々と仲良くされては。」
「すいません。のっぴきならない事情があったもので。」