悪霊退治?
「あのー。それって、もしかして、悪霊退治という名目で家の掃除をしろって事では?」
美由がツッコむ。
「平たく言ってしまえば、そうね。」
床の上でせんべいを食べている神園の襟首をつかみ、部屋から引っ張り出そうとする。
「ハイハイ、私は忙しいので帰って下さい。」
「ああん。私一人だけじゃ、絶対、掃除なんてしないのよ。ただ、見てるだけでいいから、ウチに来てよ。」
床を滑るように引きずられていた彼女は美由の足にすがりつきながらそういった。
「ハイハイ、わかりましたから。大声出さないでください。あなたが上がり込んでいる事をウチの家族は知らないんですから。」
「あのー。あそこの部屋で、わめき声というか、怒鳴り声みたいなのを発しながら、二人の人間が暴れているというかケンカ様に見える、あの半透明の黒い物体はなんでしょうか?」
神園の家に上がり込み、美由の目に最初に写ったたのが、そういう光景だった。
「ああ、気にしない、気にしない。ただの悪霊だから。さっきも説明したでしょ?」
神園はもよりのスーパーから買い込んだ掃除道具の入ったビニール袋を床に置く。
「さっきの話では、お掃除をすれば、解決するみたいな話じゃありませんでしったけ?」
「私、そんな事言ったかしら?」
「少なくとも、私はそう捉えたんですけど。」
「あれは放って置いて問題無いわよ。それより、とっとと、掃除すませましょう?」
「出来れば、あれを何とかしていただいてからでないと、この家にあがりたく無いのですが。」
「もう。ワガママね。」
「私の目には、ワガママどうこうでは無いレベルに見えるんですけど・・・。」
「しょうが無いわねぇ。掃除が終わってからやるつもりだったんだけど、こっちを先に片付けるか。」
「あの悪霊を退治するんですね?」
「退治?せっかく、あんな強そうなのに、退治するなんてもったいないわよ。」
「イヤイヤ。強そうだからこそ、悪影響が出る前に退治すべきでしょ?」
「一理あるけど、私はあれを飼うつもりだから。」
「・・・・・・・。冗談ですよね?」
「冗談じゃないわよ。本気本気。うちの守り神にするつもりだから。」
「守り神って・・・。」
「えーと。よりしろ。よりしろ。っと。」
神園は先ほど買い物をしたビニール袋をあさる。
「ねぇえ。ぞうきんと、バケツってよりしろになるかしら?」
「ならないと思いますけど・・・・。てか、よりしろって普通は御札じゃないんですか?」
「確かにそうなんだけど、御札を作る紙と墨が無いのよね。だからこの際、ありものでいいかなと。」
「イヤイヤ。こういうのって、ちゃんとやりましょうよ。」
「じゃあ。どうしようかしらねぇえ。」
その時だった。
チャイムが鳴った。
「あれ?だれかしら?」
神園は玄関を開ける。
「はい、どちら様・・・って。あんた、何しに来たの?」
彼女の目の前に居たのは、須王寺月見だった。
「何しにとは失礼ね。せっかく、遊びに来てあげたのに。」
「今は忙しいから帰ってくれないか?」
「学校が終わって、2時間もかけて来てあげたのよ。お茶のひとつでも出しなさいよ。」
「そんな事、頼んだ覚えは無いんだが・・・・。てか、何で私の家をもう知ってるんだよ。」
「そりゃあ。あなたが勤めている店の店長さんに聞きましたから。あの方は、うちの人間ですし。」
「ああ。あのおしゃべり店長め。余計な事を・・。」
月見は美由に気づく。
「あら、あなたは先日の・・・。」
「どうも。月見さん。」
美由は軽く会釈をした。
「神園さん。ねぇえさんの友達は家にあげて、私をあげないなんて、あんまりじゃありません?それより、家の中が騒がしいんですけど、他にも誰かいるの?」
「中を見てみればわかるよ。」
そう言って、神園と美由は月見に家の中が見える様に体をよける。
そこには、ケンカを続けている二体の悪霊がいた。
「あら、あれを今から退治なさるの?だったら、手伝いますわよ。丁度車の方に退魔具は置いてますし。」
「余計な事はやめてくれ。私はあれを飼うつもりなんだから。」