8話終わり
しとしとと、雨が降り続く、学校の校門の前で、人より少し大きい恐竜の背中に手を置きながら美由は、月見と神園を見ていた。
黒猫に介入を止められていたのに、美由が介入してきたのは、自分の目の前で起こるであろう、リンチだけでも回避したかったからだった。
結局の処、恐竜が月見の部隊に捕獲されるという事実は変わらず、その後、どうなるかも分からない。もしかしたら、生きたまま生体実験のモルモットにされて、リンチで死んだ方がマシな自体になるかもしれない。
それに美由の仲介自体は、全く無意味なものでもあった。既に恐竜は逃走する体力が無く、校門の前に倒れていた。美由が出てこなくても月見の部隊が捕獲するのは時間の問題であった。
結局の処、仲介役を買って出たのは、恐竜のためではなく、自分が見ている場所での悲劇を見たく無いという、傲慢でしかなった。そういう事を理解してたので、恐竜が美由に『助けるてくれるのか?』問いに『いいえ』としか答えようが無かった。
校門前に倒れている恐竜に美由が手をさしのべようと歩き出した時、黒猫は美由を止めなかった。止めなかったというより、あまりに自然に彼女が歩み寄ったために、止める事を忘れていただけなのだが。
月見が美由の前に出る。
「ねぇえ。誰もケガをする事なく、その恐竜を捕まえる事が出来れば、私達としては喜ばしい事なんだけど、何故、それに、あなたが口を出すのかしら?」
「この恐竜さん。バス停で私達に助けを求めてきました。あなた方に殺されると思っているらしく、あなた方二人の姿が見えたら、すぐに逃げ出してしまいました。」
「で、その時、私達を止められなかったから、今、助けようとしてるわけ?」
「・・・・。そう思って構いません。」
「あなたにとって、この恐竜を助けても何の得も無いでしょ?どうして助けるわけ?」
「この恐竜さん。今は恐竜ですが、昨日はハヤブサの鳥だったんです。理由はわかりませんが、私達と出会う前に、変な石に触ったら、こんな姿になったと言ってました。」
「あなた、その言葉を信じたの?姿形は違うのに。」
「大きくはなっていますが、昨日話した時の姿の特徴はありますし、それに、しゃべり方や雰囲気、昨日の話を知っていないと、分からない事を言ってましたし。」
「なるほどね。私があなた達二人をバス停で見た時、恐竜とそんな話をしてたの。」
「はい。理由は良くわかりませんが、このハヤブサさんを捕まえるのは仕方が無い事なんだと思います。ですが、平和裏に解決出来れば、動けなくなるまで攻撃する必要もないと思います。だから、この恐竜はこのまま引き渡しますので、酷い事はしないで下さい。」
「いいわよ。その恐竜が抵抗しなければね。」
美由は背中に手を置き続けながら、膝を地面につき、恐竜の顔のそばに自分の顔を寄せる。
「ハヤブサさんもそれで良いですね?」
「はい、姉さんの判断に従います。」
美由は月見の方に顔を向ける
「と、言う事です。」
美由が背中から手を離さないのは、交渉が決裂した場合、精神吸収を強力に行い、ハヤブサに戻して逃がすという選択肢を切り捨てられないでいたからだった。
精神吸収を美由が行うには魔法少女になる必要がある。その時は、自分にとっても、ハヤブサにとっても、その他の化け物達も不幸になる事を理解しているのに、その選択肢を切り捨てられないのは美由の甘さであった。
「みんな。この恐竜を運ぶ準備をして頂戴。頑丈な車を手配して。良いみんな?これは命令よ。この恐竜が暴れない限りは、絶対に手荒なマネをしたら駄目よ。やったヤツは厳罰に処すから。」
みんな、無言で動きはじめる。
黒猫の指摘通り、みんな何かをしているようには見えるのだが、よくよく見れば、何もしていない。結局の処、今やれる事なんて、恐竜が逃げ出さない様に関しする事だけである。
話はついたが、美由は恐竜の背中から手を離さなかった。実際自分の話が通じているのか、不安でもあった。そんな時、神園が美由に話しかけてくる。
「あんた。ありがとうね。」
「いいえ。」
美由は自分が感謝されるような行為をしてない自覚があったので、神園の感謝の言葉に抵抗を感じるのだった。
「あんたのおかげで、戦わなくて良かったし、それに、これ以上、長引かなくてすんで本当に感謝しているわよ。ふぁあー。」
神園はあくびをした。
「どうしたんですか?」
「昨日寝てないのよ。それなのに、朝からバイトが入っているのよ。これから適当に雨宿りできる場所さがして寝ないとね。」
「私のウチで良ければ、今日は提供しますけど。」
「あ、そう。ありがとね。」